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79.捨てられた子犬

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 シーナ達へ魔力の源の場所を教え、手のひらまでの移動を練習し終える頃には昼食の時間になっていたので、魔法の練習を切り上げて昼食を食べたのだけど、昼食が終わるタイミングでユファ婆さまが俺を抱きしめてきた。

「ユファ婆さま?」

 その行動の意味が分からずに首を傾げながらユファ婆さまを見上げると、ユファ婆さまはニヤリと笑ってさらに強く抱きしめてきた。

「私も工房に連れて行くと言うまで離さないからね!」

 なるほど。そういうことか。

 抱きつくことで転移を阻止しようってわけね。

〉ユファ婆さま必死www
〉どうしてもついていきたいからなwww
〉そのための方法が抱きつきってwww
〉そうすることで転移出来ないようにする作戦か!
〉必死なユファ婆さまカワイイ
〉しかし、有効的な作戦なのか?
〉ムリだろうな
〉抱きつかれた状態からでもレインだけ転移は可能だろ?

《可能だな》

 俺の転移は範囲ではないし、手を掴まれたら掴んだ人ごと転移するわけでもないので関係なく転移出来る。

〉つまり?
〉ユファ婆さまはムダなことをしているとwww
〉笑ってやるな!
〉レインが異常なだけなんだから!
〉普通ならこれが一番有効的な作戦なんだから!
〉レインが異常なだけなんだから!
〉大切なことなので二度言いましたwww
〉大切なことなので二度言いましたwww

 二度言う必要なないように思えるが、確かにユファ婆さまに抱きつかれた状態からでも転移は可能ではあるね。

 しかし、ここまで必死になっているユファ婆さま相手にそれをして突き放すのもなんだか可哀想なので、少し譲歩しよう。

「わかったよ。明日は連れて行くから今日は離れてね」
「ホント?」
「ホントだよ」

〉おっ?
〉昨日はあんなに頑なに断っていたのに
〉まさかの展開!
〉レインが譲歩するなんて!
〉あのわが道をゆくレインが!?
〉鬼畜レインが!?
〉異常なレインが!?
〉明日は嵐が来るんじゃね!?
〉防災対策しないと!

《俺はお前達の暴言対策として当分無視することにするわ》

〉なっ!
〉ちょっ!
〉すまん!
〉ごめん!
〉謝るから!
〉土下座もする!
〉だから無視だけは!
〉や~め~て~!

 なんかこの展開も天丼になってきているな。
 さらに言えば、どうせすぐにまた暴言を吐いてくるわけだから、ホントに当分無視したほうがいいかもしれないな。まぁ、ウザくもあるけど楽しくもあるからいいといえばいいのだけど。

 しかし、リスナー達との会話に癒やされている部分もあるからついつい反応してしまうって。俺も甘いな。

「今日からじゃダメなの?」

 捨てられた子犬のような目を向けてくるユファ婆さま。

 しかし、そんな目をされても今日連れて行くのはムリなんだよな。

「元々工房は俺一人で行く予定だったからそんなに広く作ってないんだよ。だから今日はシーナだけ。
 でも、明日からはユファ婆さまも来れるように広くするから明日からならいいよ」

 それでもユファ婆さまは捨てられた子犬のような目で俺を見てくるのを止めない。

〉だったら最初から広く作っておけばよかったんじゃね?
〉そしたらユファ婆さま連れてけたんじゃね?
〉そしたら今回のようなことにならなかったんじゃね?
〉考えがなさすぎなんじゃね?
〉やっぱり無視してくるんじゃね?
〉今まさに無視されてるんじゃね?
〉じゃあこの書き込みムダなんじゃね?
〉リスナー全員で土下座するしかないんじゃね?
〉謝るしかないんじゃね?
〉それしかないんじゃね?

 終わりを「じゃね?」で統一してきているリスナー達がウザいのでやっぱり当分放置で。

 ユファ婆さまを見つめていると、ユファ婆さまは「は~」と息を吐いた。 

「わかったわ。今日は我慢するわ」

 納得してくれたユファ婆さまが離してくれたので、ホッとしながらユファ婆さまの頭を撫でる。

「でも、明日はちゃんと連れて行ってよね」

 さっきの捨てられた子犬のような目から獲物を狙う鷹のような鋭い眼差しを向けてくるユファ婆さま。

〉ひっ!
〉おわっ!
〉ひゃっ!
〉スゲー眼差し!
〉こわっ!
〉これ明日連れていかなかったら………
〉レインが悲しいことに………
〉明日がめいに………
〉おい!止めろ!
〉でも、そう思えるくらいの眼差しwww
〉曾祖母さんがひ孫を手に掛ける日になっちゃうのかwww

 確かにそうなってもおかしくない眼差しを向けてきてるので、工房行ったらしっかりと拡張しないとね。

 それからシーナの元へと飛んでいった。すると、シーナは待ってましたとばかりに俺を抱きしめてくれた。

「それじゃあ行ってくるね。
 あっ、俺が工房に行ってる間はフィーシャとアルは自由にしてていいからね。だからお風呂に入りに行ってもいいけど、シャンプーや石鹸を使いすぎたり、お風呂に浸かりすぎてのぼせて倒れたりしたらもうお風呂は使わせないからそれだけは注意してね」
「わかりました」

 お風呂大好きアルが力強く頷いたのを見てから俺はシーナと一緒に転移した。
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