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16.しっくりくるの

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 という経緯があってプロローグに戻るわけじゃが、わけじゃが?

 あれ?プロローグとはなんじゃ?

 訳がわからんのじゃが、なぜかしっくりくるの。

 しかし、やっぱり訳がわからんのじゃよ。

 訳がわからんのじゃが、気にしたところで話………話?………は進まないじゃろうし、気にしないでおくかの。

 しかし、本当に誰も何も言わないのじゃな。

 ならと、ワシはシャルフィムの様子を確認したのじゃが、シャルフィムは涙目の驚き顔で固まっておったのじゃよ。

 涙目なのはシバルがなかなか来なかったからで、驚き顔はシバルじゃなくこんな訳のわからない人間がやって来たからじゃろうな。

 なぜ訳がわからないかといえば、もちろんワシが面を付けて出てきたからということもあるが、この世界には狐という動物がどこにもおらんのじゃよ。

 狐がおらぬということは、当然狐の獣人もおらぬから、シャルフィムを含めた会場の人間(秋達は除く)はワシが一体どんな存在なのかが全くわかっておらぬ、ということになるのじゃよ。

 さて、そんな存在がいきなり、それも結婚式会場のど真ん中に現れたらどうなるのか、というとこうなるのじゃよな。

 なぜ誰も反応しないのじゃ?などと思ったが、誰も反応出来なくても仕方ない状況じゃったの。

「き、貴様は何者だ!」

 おっと。ようやく驚きから返ってきたイビラチャがワシを指差しながら叫んでくれたおかげで時が動き出したのじゃよ。

 時が動き出した、ということは、騒ぎになる、ということじゃが、まだ登場しただけで何もしておらんということで、騒ぎとはいってもざわざわするだけですんでおるのじゃよ。

 さて、登場の際は慌てておったこともあって叫んでしまったが、冷静に対応出来る今はしっかりと役を作って話すとするかの。

「ほっほっほ。ワシは御前様の使いの者じゃよ」
「なんだって?」
「じゃから、御前様の使いじゃよ」

 ちなみにじゃが、当然御前様は存在しない架空の人物じゃよ。

 なぜ御前様かというと、狐の獣人の姿をしておるというところから九尾の狐が思いつき、九尾の狐といえば玉藻御前じゃな、という安易な思いつきから御前様なのじゃな。

 口調でワシが誰か気づいたらしく、嬉しそうな顔になり始めたのでウエディングドレスにつけたて認識改変の機能を発動させて笑顔を驚き顔に変えて誤魔化したのじゃよ。

「御前様だと?」
「そうじゃ。御前様がその娘を気に入っての。ぜひとも屋敷に迎え入れたいと言われたから迎えにきたのじゃよ」

 ワシの言葉にシャルフィムは渡さないとばかり抱き寄せるイビラチャじゃが、シャルフィムはかなり嫌そうな顔をしておるの。

「ならばその御前様とやらにはこう言っておけ!シャルフィムはすでに俺の嫁だとな!」
「かっかっか」
「何がおかしい!」
「お主らにはまだエンゲージリングがついておらんではないか」

 もちろんそのタイミングを狙って乱入したのじゃがの。

「それもシャルフィムが頷けば終わることだ!さぁシャルフィム!誓うのだ!」
「………」

 イビラチャにそう言われたシャルフィムじゃが、イビラチャと結婚したくないシャルフィムが誓うはずもなく、真顔で黙り込んでしまったの。

「シャルフィム!どうしたんだ!?なぜ誓わない!?」
「………」

 イビラチャの言葉に反応せず、神に誓おうともしないシャルフィムに苛立ったイビラチャだったが、その怒りはシャルフィムではなくワシに向いたのじゃった。

「貴様が何かしたのか!」
「くっくっく。ワシは何もしとらんよ」

 実際今のシャルフィムの表情は認識改変でそう見せているものではなく、本当に素のシャルフィムの表情じゃからの。

「嘘だ!貴様が何かしているからシャルフィムは誓おうとしないんだ!」

 イビラチャがまだそんなことを言い出すからシャルフィムが凄く嫌そうな顔になり始めたのでまた認識改変を発動させたのじゃ。

「何もしておらんと言っておるじゃろうが」

 と言いつつも、これでは何もしておらんとは言えないのじゃよ。

「おい!警備は何をしている!早くコイツを捕まえろ!」

 イビラチャはそう叫ぶも結婚式が行われている会場にそんな警備がいるはずもなく、誰もワシを捕らえようとはしなかったのじゃ。

「おいシーズン商会!お前達の段取りのもとでやってるんだからどうにかしろよ!」

 イビラチャの苛立ちの向く先が今度はシーズン商会の方に向いたが、これはただの言いがかりじゃろうな。

 確かにシーズン商会は会場の設営は請け負ったが段取りを行っているわけではないし、警備となると設営とはまた別なのでシーズン商会のせいではないのじゃ。

 それに、不審者を捕まえるとなるとそれなりに実力がないといけないのじゃが、戦える商人など稀じゃからまず無理じゃろうな。

 まぁ、うちの商会はもしもの時のために戦闘訓練を行うのでそこそこは戦えるし、四季達アンドロイドは当然戦えるので普通の商会とは言えんけどの。

 しかし、イビラチャの言いがかりの対応などしたくないので秋達は動こうとはしないのじゃ。

「あーもう!誰でもいいからどうにか「もうよいじゃろ」

 これ以上イビラチャに付き合ってはおれんので、ワシは1度手を叩いたのじゃ。

 すると、ワシの目の前の空中に白無垢姿のシャルフィムが現れたのでお姫様抱っこでキャッチしたのじゃよ。

「なっ!」
「え?」

 イビラチャもシャルフィムも会場に居た人達もみんないい表情で驚いてくれておるのじゃよ。

 もちろんこれもウエディングドレスに付けたウエディングドレスはそのままに、中身のシャルフィムだけを白無垢に着替えさせてワシの元に転移させるという効果によるものなんじゃよ。

 しかし、ウエディングドレスに付けた効果はこれだけではないのじゃよ。

「確かに花嫁は貰い受けたのじゃよ」
「まさか!でもシャルフィムはまだ俺の元に居るぞ!」

 その言葉通りまだイビラチャの元にはウエディングドレスを着たシャルフィムがおるのじゃが、そのシャルフィムは木の葉に変わってウエディングドレスだけがイビラチャの手元に残ったのじゃった。

「な、なんだと………」

 イビラチャは呆然と残ったウエディングドレスを見つめておるので、そろそろワシは退散するとしようかの。

「では、さらばじゃよ」
「まっ!」

 転移でシバルの元に戻ったワシは、シバルの肩を掴むとさらに転移を行い、街の外の街道沿いの草原におりたったのじゃ。

「シャ、シャルフィム!」

 シャルフィムの姿を見たシバルはすぐに抱きつこうとしたが、そんなシバルに対してシャルフィムはビンタをしたのじゃよ。

「ぐはっ」

 強烈なビンタに吹き飛んだシバルは驚いた表情でシャルフィムを見上げているが、ビンタされても仕方ないことをしたのじゃから自業自得じゃろうに。

「どうして助けに来てくれなかったのよ!」

 シャルフィムの叫びにシバルは目を反らしたのじゃ。

「シバルはいつもそう!考えなしで行動して周りに迷惑かけて!威勢の良いことを言うくせににいざとなったら臆病になって何も出来なくなる!それでも今回は私を助けるために動いてくれると思ったのに………」

 シャルフィムは涙を流し始めたのじゃ。

 そんなシャルフィムを抱きしめようとしたシバルじゃったが、

「触らないで!」

 シャルフィムは拒絶してワシの胸に飛び込んできたのじゃよ。

 流石にこの状況でそんなシャルフィムを受け止めない、という選択が出来るはずもないので抱きとめたのじゃが、シバルから睨みつけられたのじゃよ。

 その睨みつけは間違っておるじゃろうに。

「シバル。今回はお主が悪いということは重々理解しておるな」

 本来、こういうことは当事者同士の話し合いで解決してほしいのであまり口出ししたくはないのじゃが、話し合いが出来る状況ではないし、巻き込まれた、ということもあるので口出しするかの。

「………はい」

 少し間があったが、ちゃんと理解しておるシバルは頷いたのじゃが、ワシから目を反らしはしたの。

「今回はワシがギリギリで助け出すことが出来たからよかったものの、もしワシが居なければ今頃シャルフィムはイビラチャの妻になっておったのじゃぞ。お主はそれでもよかったのか?」
「よくない!」
「ならばお主が取るべき行動は1つしかなかったはずなのじゃが、お主は動くことが出来なかった。それはなぜじゃ?」
「それは………」

 わかっているのに言い出せないのならワシから言ってやるのじゃよ。

「臆病風に吹かれたからじゃの」

 図星であり、自覚があるシバルはビクッとしたのじゃよ。

「それがわかっており、今後悔しておるなら後悔出来るうちにそれをどうにかする努力をするしかないの。言っておくが、本当の最悪は後悔することすら出来ぬ絶望じゃからの」

 そう言うと再度ビクッとしたシバルはワシを見てきたが、目が合うとまた反らそうとしたので、

「シバル」

 少し強く名前を呼んでやると反らされかけたシバルの顔が止まったので、

「シバル」

 再度呼ぶとシバルは恐る恐るではあるがワシの方へ顔を向け、目を合わせてきたのじゃ。

「絶望なんて日常のどこでも起きる可能性があるものじゃ、ということをよーく理解しておくのじゃな」

 別に脅しで言っているわけではなく、それが事実で現実でじゃから、まだ後悔するだけで済んでいるうちに、変わることが出来るうちに変わってほしいから言っておるじゃけなのじゃよ。

 その想いが通じたのか、シバルは小さくじゃが頷いたのでワシはシバルに笑顔を向けたのじゃ。

 それからまだワシに泣きついておるシャルフィムの頭を撫でたのじゃ。

「シャルフィム。今日のことは確実にシバルが悪いのじゃ。それは変わらぬが、これからのことは2人の話し合いで変えることが出来るのじゃから、泣き止んでこれからのことを話し合ってみてはどうかの?」

 ワシの言葉に、シャルフィムは泣きながらも小さく頷いてくれたのじゃよ。

 しかし、このまま2人っきりにしても空気が悪いじゃろうし、上手く話すことが出来ないじゃろうから、空気を変える1言、というより2人の勘違いを正して別れるとしようかの。

「そういえば2人は勘違いしておるじゃろうが、ワシは小人族ではなく普通の人族で歳も15じゃからな」
「!!!」
「え………」

 驚いたシャルフィムの涙は引っ込み、シバルも呆然と見てきた姿を見ながら笑ったワシは、睡眠の指輪の効果で2人を眠らせるのじゃった。
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