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52.チラホラ

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 あ~、とうとうやって来てしまった。

 女子高校入学式。

 その看板を見て僕はため息を吐いた。

「コウからしてみれば、そういう反応になるのも仕方ないよな」
「そうだろうけど、入学式なんだからこんなところでため息吐くなよ」

 ユウの言う通り、入学式というハレの日にため息を吐くべきではないのだろうけど、あいにくとため息を吐かずにはいられない。

 とはいえ、僕の方を不思議そうに見てくる新入生がチラホラといるので2度目のため息は我慢して校門をくぐった。

「まずは、やっぱりクラス分けの確認だな」

 ユウが指さす先には、クラス分け→の看板を持った先輩がいた。

「そうだね」
「まぁ、何組かは見てみないとわからないけど、確実にこの3人は同じクラスだろうね」
「えっ?」

 泊まり込み行事の部屋分けの件を知らないユウは驚いているのだけど、リンがニコニコ笑顔なのでまず間違いないないだろう。

「それどういうことだ?」
「ほら、行くよ」

 聞き返してきたユウの背中を叩いて先を歩かせる。

「いってーな。ってかホントにどういうことなんだよ」

 ユウが振り返って聞いてきたので、僕は一瞬リンの方へ目を向けた。

「あ~」

 それだけで納得したユウは前を向いて歩き出した。

「俺だけのせいじゃないんだけど」

 距離を詰めてきたリンが小声で抗議してきた。

 しかし、「だけ」とか言ってるということは、やっぱりリンも力を使ったということだ。

 でも、確かにユウが同じクラスなのはユウの入学が決まった時点でチョウちゃんが根回ししてるからなのでリンのせいではない。

 しかし、だ。

「その理由をここで話すわけにもいかないし、リンがムダに力を使ったのも確かなんだからいいでしょ。ってか、最近ムダに力使いすぎじゃないの?」

 こうして同じ学校に通うためにムダに力を使い、さらには同じクラスになるためにもムダに力を使いと、ホントに最近のリンはムダに力を使いすぎている気がする。

「俺にとってはムダじゃないからいいんだよ」

 そう言って満面の笑みを向けてくるリン。

 良くないような気もするが、言ってもリンは力のムダ使いを止めないだろうし、いいことにしとこう。

 そう結論づけつつ歩いていると見えてきたクラス分けの看板。

 そこには1組から10組までのクラス表があった。

 僕達の名字は『しゅじん』と『しんの』と『きり』なので、この場合あいうえお順で1番始めにくるリンの名字の桐を探すのが手っ取り早いだろう。

 というわけで、き、で始まる名前が終わったら次のクラスへといって探していると、リンの名前を10組で見つけた。

 ということは、だ。

 そのまま下へと下がっていくと僕とユウの名前もしっかりとあった。

 しかし、10組か。

 まぁ、部屋割で2人部屋に割り振る場合に途中のクラスの生徒を割り振ると不自然だからってところもあって10組なんだろうな、と納得する。

「3人共10組だね」
「またよろしくな、コウ」

 ニカッと笑いながら肩を組んできたユウ。

「うん。よろしくなのはわかったから肩組むのはやめてくれる。暑苦しい」
「え~いいじゃんかよ」
「そうそう。俺達の仲じゃんかよ~」

 ユウのノリにリンまでノッてきて肩を組んできた。

「暑苦しいって言ってるだろ」

 2人の顔を押して引き剥がそうとするも、2人は腕にさらに力を入れて対抗してきた。

「はぁ」

 顔を押すのを止めてため息を吐いたことで、諦めたと思って油断している2人のボディに拳を打ち込む。

「ぐふっ」
「がはっ」

 それほど強く殴ったわけでもないのにワザとオーバーリアクションで腰を押さえながら膝をつく2人。

「仲良くはするけど、トラブルだけは起こさないでね」
「いや、今この状況がトラブルで、それをおこしたコウが言うか?」

 そんなことを言いながら僕を見上げてくるユウだが、あいにくとその言い分を聞き入れるつもりはない。というか、

「暑苦しいから離れてって言っても離れなかった2人が悪いわけだし、それにそんなに強く殴ってないだろ」
「いや!かなり強く殴っただろ!」

 ユウは必死に反論してくるが、

「それもそうだな」

 さっきまでノリノリで演技していたリンが普通に立ち上がった。

 それを驚きの表情で見つめるユウ。

「ちょっ!裏切るつもりかリン!」
「裏切るもなにも、いつから仲間だと思っていたんだ?」

 そう言ったリンはフッと不敵に笑った。

「き~さ~ま~」

 リンに詰め寄るために立ち上がったユウの肩を掴む。

「止めるな!」
「止めるな、じゃなくて、普通に立ち上がれるってことはダメージを受けてないってことだよね」
「あ」

 自ら墓穴を掘ったことに気づいたユウは、僕の方を見ながらごまかすように微笑んだ。

「ギルティ」

 というわけで、少し強めの拳をお腹に打ち込むと、ユウは両膝から崩れ落ち、お腹を押さえながらうずくまった。

「ほら、クラスの確認しにみんな来てて邪魔になるんだから早くクラスに行くよ」
「この状況を作り出したコウが言うな」
「自業自得だろ?」
「はい」

 ユウの反論を封殺し、立ち上がらせると僕達は校舎の方へと移動を始めるのだった。
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