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40.我慢出来ずに

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「ちょっとちょっと。私達の紹介もしてよ」

 チョウちゃんとイチョウさんがじゃれ合っていっこうに紹介してくれないことにしびれをきらしたギャルが声をあげた。
 その言葉でまだ自己紹介の途中だということを思い出したイチョウさんはギャルを見てからチョウちゃんを見た。

「それもそうね」

 イチョウさんはチョウちゃんから手を離すとソファに座り直した。

「ほら、チョウちゃん」

 痛みを和らげるためなのか、少しうつむきながら頭を揉んでいたチョウちゃんの腰を肘でつつく。

「なに?」
「なに?じゃなくて進行してよ」
「えっ、私がするの?」

 驚くチョウちゃんが僕の方を見てきた。

 その反応が僕からすればありえない。

「さっきまでチョウちゃんが進行してたのだから当然でしょ」

 当然のことなので言いきってあげると、「う~」と言ったチョウちゃんは最後にもう1度頭を揉んでから顔をあげた。

「イチョウの右隣にいるのが冬野ユキちゃんだね」
「冬野ユキで~す。今年から花見大学に通う女子大生で~す」

 自己紹介したユキさんは机の上に乗りだして顔を近づけてきた。

「町内テレビを見てる時から思ってたけど、やっぱり男前でカッコいいよね~」

 まじまじと僕の顔を見てくるユキさん。

 その距離の近さとユキさんが言った言葉に僕は苦笑した。

「アハハ」

 男前。カッコいい。

 その言葉をこれまで何度かけられたことだろうか。

 女の僕にとってはいつまで経っても、何度言われても好きになることも、嬉しくなることもない言葉。しかし、初対面の人からはほぼ確実に言われる言葉。

 チョウちゃん達のようにおちょくるように言ってきたのなら怒るのだけど、ユキさんは本気でまじめに褒め言葉として言っているので怒るに怒れない。

「ぷぷっ。やっぱり男前でカッコいいって言われるね」

 こうやっておちょくるように言われたのなら、

「ぐふっ」

 こうしておしおきとしてしっかりと殴るだけだ。

 打ち込んだ拳を引き抜くと、チョウちゃんはゆっくりとソファに倒れ込んだ。

「コウくん。いきなり殴るなんてヒドいよ」

 泣き真似まで始めるチョウちゃんだが、おちょくられたあとにそんなことをされたら余計にイラッとしてくるので逆効果でしかない。

「おちょくってくるから自業自得でしょ」

 そして、昔から何度もされているおしおきなのだから文句を言わないでほしい。

「事実を言ったまでじゃん!」

 確かにユキさんがそう言ってきたのでそのことをチョウちゃんは言ったまでなのだけど、最初のひと笑いがムダであり、それさえなければおちょくりとは判断しないしおしおきされることもなかったのだ。

「じゃあ、なんで笑ったのかな?」

 拳を握りながらチョウちゃんに視線を向けるとチョウちゃんは僕から距離をとってソファの端に移動した。

「あ~。男前やカッコいいって言っちゃダメだった?」

 ソファに座り直したユキさんは、僕とチョウちゃんの会話を聞いて申し訳なさそうに頬を掻いた。

 言ってはダメということはないのでそこまで申し訳なさそうにしなくてもいいのだけど、でも、言っておきたいことはしっかりと言う。

「いえ。チョウちゃんみたいにおちょくるように言われなければまだマシなんですけど、やっぱり女子なのであまり嬉しくはないですよね」

 僕が苦笑していると、「あ~」とユキさんも苦笑した。

「確かに。嬉しくない人は嬉しくないよね~」
「はい。僕もあまり嬉しくないと感じる人なので、次からはあまり言わないでくれると嬉しいですね」
「わかったよ~」

 すぐに頷いてくれたユキさん。

 これぐらい素直に聞いてくれる人が周りになかなかいないので、なんだか新鮮な反応に思えてくるね。

「でも、やっぱり男前って思っちゃうから我慢出来ずに言っちゃうかもしれないけど、その時はゴメンね」
「あ~。はい。それは仕方ないですし、しょっちゅう言われてるのでチョウちゃんみたいにおちょくるために言わなければ大丈夫ですよ」

 僕の言葉にユキさんはホッとしていた。

「しょっちゅう言われてるんだからそろそろそうやって言わないでって言うの止めない?」

 チョウちゃんがそんな提案をしてくる。

「止めない。さっきも言ったけど、僕にとっては言われてあまり嬉しい言葉じゃないからね。それに、ユキさんみたいにちゃんと聞いてくれる人もいるから止めないよ」
「男前~」

 早速チョウちゃんがおちょくってきた。

「チョウちゃん」
「男前~男前~」
「はぁ」

 と、ため息を吐いてチョウちゃんの方を向くと、チョウちゃんはソファの肘掛けを飛び越えてその後ろに隠れた。

「チョウちゃん。そこまで逃げるならおちょくって言わないでね」

 大きくため息を吐いていると、

「でも、ホントは男?」
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