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38.解放された

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 勢いよく開いた扉から出てきたのは女性だった。

 高身長(僕よりかは低いけど)で出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる、そんなモデルみたいな体型のキレイな女性なのだけど、その整っている顔は今は鬼の形相であり、僕にぶら下がっているチョウちゃんをロックオンしていた。

「ただいま~イチョウ」

 相手が鬼の形相にもかかわらず、こうものんびりと挨拶出来るチョウちゃんは大物なのだろうか。

 いや、ただの考えなしのバカだね。

 チョウちゃんの挨拶を聞いたイチョウさんはさらに目を吊り上げると、一気にチョウちゃんに近づいて顔を両手で力いっぱい挟み込んだ。

「チョ~ウ!」
「イタタタタ!!!」

 今日1番の悲鳴をあげたチョウちゃんは、痛みから僕に抱きついていた足を離した。

 ようやく離れてくれたことはいいのだけど、夜中に外でこんなに叫び声をあげるのはよくないのではないだろうか?

 とも思ったけど、昔から騒がしくしていたので、周りの住人が変わっていなければ「いつものことか」と思っているので気にすることもしないだろう。

 それもどうかと今さらながら思ってしまうね。

 イチョウさんもそれがわかっているからか止まることはなく、チョウちゃんを立ち上がらせると反転させて自分の方へ向かせ、また両手で顔を挟んで力を込めた。

「イタい!!イタいから!!」

 チョウちゃんはイチョウさんの両手首を掴んで頭を掴んでいる手を離させようとするが、イチョウさんの力が強いため、離せない。

「うるさい!どこかでお酒飲んできたでしょ!そしてその人に迷惑かけたでしょ!」
「イータタタタタタタ!」

 イチョウさんがさらに力を込めたのか、どこかの世紀末覇者のような叫び声をあげるチョウちゃん。

 あ~。うん。まぁそう思っても仕方ない状況だよね。
 それに、チョウちゃんはお酒には強い方なんだけど、一定以上飲むと絡み上戸になり、小学生相手でも容赦なく絡んできてたのでホントに迷惑なんだよね。

「飲んでない!!!飲んでない!!!」

 必死になって叫ぶチョウちゃん。

 確かにチョウちゃんは飲んでないけど、それを知らないイチョウさんは手の力を抜くことはない。

「飲んでないわけ………あるわね」

 叫ぶチョウちゃんの息からお酒の臭いがしなかったからだろう。イチョウさんはチョウちゃんがお酒を飲んでいないことに納得したようで、力を緩めて手を離した。

 解放されたチョウちゃんはというと、頭を抱えながらうずくまっていた。

 まぁ、あれだけ大声で叫ぶということは、それだけ痛かったってことだし、こういう風になるのは仕方ないか。

 心配も慰めもしないけど。

 痛みが少しおさまったのか、チョウちゃんは顔をあげてイチョウさんを睨みつけた。

「確認もせずにお酒を飲んだと決めつけておしおきするのはヒドくない!?」

 チョウちゃんの言い分は正しいのだけど、状況からしてそう思われることを今までしてきた、ということなので、結局のところチョウちゃんの自業自得なのだろう。

「だって、サクラからチョウとリンが男性に抱きついていた帰ってきたって聞いた………か………」

 おしおきした理由を説明しながら僕の方を見たイチョウさんの言葉の勢いはどんどんなくなり、最終的には目を丸くして固まってしまった。

 なるほど。今回のイチョウさんの勘違いの原因はチョウちゃんにあるというわけだね。

 だって、チョウちゃんが抱きつくのを止めて自分でカギを開けて入っていたらそもそもこんなことにはならなかったわけだからね。
 それを横着して中の人に開けてもらおうとしたために、インターホン越しに僕達のことを見たサクラちゃんが男性に抱きつくチョウちゃんとリンという風に勘違いし、それを聞いたイチョウさんが怒って飛び出てきてチョウちゃんにおしおきした、というのが今回の一連の流れというわけだ。

 まぁ男性と思われたことに思うところはあるけれど結局のところはチョウちゃんの自業自得だね。

「あれ?昼間の町内テレビで質問大会に出てた子じゃん!」

 イチョウさんの後ろからそんな声が聞こえてきたので家の中に目を向けると、そこにはまさしくギャルの女性が僕の方を見ていた。

 どうやらギャルの女性は町内テレビを見ていたみたいだ。

 さらにその後ろには中学生らしき少女が2人いて、1人はオロオロ、もう1人は無表情で僕達のことを見ていた。

 ギャルの女性は先程のサクラちゃんの声とは違ったので、後ろの少女2人のどちらかがサクラちゃんなのだろう。

 しかし、リンはまだ抱きついているは、チョウちゃんは頭を抱えたまま痛みからうずくまっているは、イチョウさんは目を丸くしたまままだ固まっているはと、なんともカオスな空間が出来上がってしまったわけだけど、僕は一体どうすればいいのだろうね。
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