約束の時

igavic

文字の大きさ
上 下
2 / 15

疑惑

しおりを挟む
とても魅力的な彼女だったがこの時点で
付き合っていたかといえばNOである。

出会って3ヶ月ほど経った頃だったろうか、
いつものように湾岸道路のドライブを満喫した私はその帰り道、
彼女の家がこの先の船堀にあることを思い出した。
何度か送ったことがあるので覚えていたが
いつも前までで部屋に入ったことはまだ無かった。
勇気が無かったからと言われても否定は出来ないが
その理由はこの後に明らかになる。

その日会う約束はしていなかったが、
もしかしたら会えるかなという淡い期待と
週末は暇をもて余していたこともあり
決断はわりと早かった。
船堀橋出口から一般道に出てすぐのところに
彼女のマンションはあった。
そういえば彼女が
「マンション名が老人ホームみたいでしょ」
と笑っていたのを思い出した。

スマホも無い時代だけに「今から行くね」などと
安易に連絡も出来ず、およそストーカーのような
行動をしていたと思うと笑えない。

そのストーカーはマンション入口が見える
少し離れたところに車を止めた。
近くに公衆電話もなくどうしようかと
悩んでいた時に私は衝撃的光景を目撃する。

タクシーが止まり二人の人影が降りる、
ひとりは女性でかなり酔っている様で
もう一人が肩を抱いて支えているようだ。
外灯の下に来たとき彼女だと確信した。
そのまま二人はマンションの中に消えた。
何が起こっているのか理解する間もなく
私はアクセルを踏んでいた。

あれは誰? どういう状況?
頭の中で疑問とモヤモヤが止まらない。
この一件の後、私のストーカー行為は
二度と行われることは無かった。

付き合っている訳でもないので
問い詰める事もなく数日経ったある日、
真実を知ることになる。

久し振りに電話で話していた。
私は何事も無かったかのように
近況や好きな映画のことなど
いつもの会話が続くことになるが
頭の中にはあの光景がリプレイされ
話の内容はほとんど忘れている。
なんとなくお酒の話題になったとき
あの時の事であろう話が飛び出す。

「この前、友達と結構遅くまで
 飲んでたんだけどね、
 どうやって帰ったか全く覚えてないの」

「それ、どういう状況?」

ずっと言いたかった言葉が
条件反射のように飛び出した。

「友達4人で久し振りに飲み会して
 カラオケで盛り上がったあとのことは
 全然覚えてなくて起きたら家だったの、
 お酒はしばらくいいかな」

それ以上は聞かないことにした。
聞きたくなかったというのが本音だった。
そして少しホッとしたのも確か。
あの男が何者なのか疑問は残るものの
あの夜のことを話してくれた彼女に
今まで以上の感情を抱いてしまったのも
この日からだったと思う。

誰かが言ってた。
『恋愛には嫉妬が一番の起爆剤』と。
悔しいがその通りだった。





しおりを挟む

処理中です...