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第53章

潮江城攻略!

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 さくにせっつかれても弥三郎は何も答えず、ただ潮江城を凝視している。さくは潮江城の方を見やるが、特に何もない。一体、何を珍しそうに見ているのか。さくは不思議でならなかった。
「さくよ。約束を憶えておるか?」
「はい?・・・約束とは?」
「私が功績を挙げたら、まぐわうという約束だったな。」
「・・・・・・・。」
 弥三郎は声を潜めてさくにだけ聞こえるように言った。何を唐突に言い出すのか。さくは左月に聞こえない様に小声で囁いた。
「はい。確かに。その様に申しましたが・・・・・。」
「潮江を落としたら、充分な功績になるだろうな?」
「はい。・・・・まあ、充分過ぎる程の功績ですが、まさか、その為に無謀な事をするつもりなのではありませんよね。」
 弥三郎は無言でニヤリと笑うと、物陰から身を起こし、馬を引いて堂々と正面から潮江城にゆっくりと向かった。
「な、何をするのです!」
「弥三郎様。お戻りください!」
 さく、左月が狼狽する中、弥三郎は足早に城へ向かう。
「弥三郎様!」
「お戻りください!」
 諫言を全く無視し、弥三郎は馬に乗った。城へ一直線に馬を走らす。さくも左月も呆然とその場に立ち尽くした。一体、どういうつもりなのか。さくとまぐわいたいが故に、頭が狂ったとしか思えなかった。弥三郎はドンドン城へ向かって突進していく。
「姫様。如何致しますか?」
 狼狽する左月にさくは言った。
「追うのです!」
 さくは弥三郎を救おうと馬に飛び乗り、駆けた。左月も続いた。2人は先行する弥三郎を必死に追ったが、弥三郎は飛ぶように馬を駆り、城の正門の真ん前で馬を降りる。そして叫んだ。
「松井某を討ち取った弥三郎だ!潮江城を貰い受けに来たぞ!」
 阿呆である。さくは顔色を変えた。城の真ん前であのような事を叫んだら弓・てつはうで撃ってくれと言ってるようなものだ。しかも馬を降りたら逃げる事も敵わない。万事休す。さくは弥三郎が撃ち殺される事を覚悟した。・・・・・・のだが、場内からは何の反応もない。これはどういう事だ。呆気に取られ騎乗で呆然としていると、弥三郎はつかつかと城門に近づき、後ろを振り返ると、さくを見て笑った。
「入城だ。」
 弥三郎が両腕を突っ張り門を押すと、軋みながら開いた内部に見えたものは・・・・無人の城内。城の中には鼠一匹いない。
「な、・・・・・・。」
「こ、これは・・・一体・・・。」
 さくと左月は二の句が継げない。なんと本山方は潮江城放棄し、撤退していたのである!!!
「どうだ。潮江城、無血入城を果たしたぞ。さく、左月、何とか言え。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
 勝ち誇った弥三郎に2人はぐうの音も出ない。まさかまさか、敵方が潮江城を放棄するとは夢にも思わなかった。何故、この城が空だと弥三郎は分かったのだろうか?さくと左月は馬を降りて城に入り、城内を見渡した。
「な、何故、この城が空城だと、お分かりになったので・・・・・。」
 さくは己の疑問をぶつけずにはいられなかった。
「きっかけは先程、城兵の一団が城から出て来たのを見て、おかしいと思った。」
「?????。」
「彼奴等は城を見返す事無く、城を出て行った。城に味方ある時は、必ず城を見返るものだ。彼奴等には城を見返る者は、一人もいなかった。」
「それだけの理由で城が空城だと察しを付けましたので?」
「いいや、それだけでは無い。他にも空城ではないかと思わせる理由が3つもあった。」
「・・・・・・。お聞かせ願いますか。」
「城の旗指物が所定まって動かない。兵法書には旗印が動かぬのは偽りとある。これが2つ目の理由だ。」
「・・・・・・・。」
「それに城に鳥が集まっていた。驚く様子も全くなく。此れ城に人が居らぬ証拠。」
「・・・・・4つ目は?」
「3つの事で、もしや空城ではないかと思い、騎馬で敢えて正面から近づいてみたのだ。向こうからなんの反応も無いので、空城だと確信した。城に近づく敵の姿有れば必ず討って出るものだからな。」
 弥三郎が城を空城だと見破った理由を4つも聞いて、さくと左月は驚嘆した。2人には全く勘案すら出来なかったからである。
「お見事です。感服しました。」
「誠に。さくは全く分かりませんでした。」
 左月とさくの称賛に弥三郎は稚児の様なはにかんだ笑顔を見せた。弥三郎がこの様な表情を見せるのは初めての事だ。松井玄播を討ち取る等、戦場で輝かしい戦功で初陣を見事な勝利で飾り、今回は潮江城を僅か3人で無血開城である。一方のさくは戦場で捕えられ、辱めを受けていた所を弥三郎に助けられ、今回も城が空であるという事を全く気付く事が出来なかった。智謀・勇気・武略、全てさくよりも弥三郎が上回っているのは明らかだ。これはお役御免だな。よくぞここまで育ってくれたと、さくの胸は感慨ひとしおである。引き籠りをここまでの人物に育てた事に胸を張る気持ちもあったが、弥三郎と別れねばならぬという事が寂しくもあった。
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