上 下
561 / 575

◇557 明日の作戦

しおりを挟む
「そんなことはさておきだな」
「「「さておかないでよ」」」

 Nightはこの最悪の空気をものともしない。
 我が道を行くと、話をすり替える。
 本を仕舞い、代わりにインベントリから取り出したのは、ありとあらゆる地形が記された地図だった。

「明日のイベントのことだが」
「ああ、もう話し始めちゃったよ」

 Nightはアキラたちの気など考えない。
 もはや話をすり替え終えてしまった。
 目の前に用意した特大サイズの地図を指さすと、Nightは呟いた。

「明日の第三フェーズ。既に発表されているが、乱戦になる」

 Nightの言う通り、第三フェーズは乱戦だ。
 残った味方プレイヤー達が一同に介する。
 戦乱と騒乱を呼び寄せ、信じられるのは真の味方だけ。
 そんな状況下では、念入りな用意周到さがものを言う。

「ここまで集めて来たアイテムもフル投入する。それくらい大きな戦いだ」
「ってことは、史上最大規模のPvPってことー? 燃えて来たー!」
「フェルノは相変らずね。その中には、強敵もたくさんいるのよ?」
「だからだよー! 楽しくなーい?」

 フェルノは一人燃えていた。
 Nightは溜息を付くと、地図をより細かく見せる。

「盛り上がっている所は悪いが、今回の乱戦。最大の敵は……」
「聖レッドローズ騎士団だよね」
「その通りだ。今回、どれだけの人数が参加しているかは……まあ、見ての通りだった」

 聖レッドローズ騎士団とは既に会っている。
 幹部は三人。更に団長と副団長の揃い踏み。
 あまりにも相手が悪い。例え、相手が百人の大所帯で、そのうちの三分の一も集まっていなくてもだ。その強さは健在で、まともにやり合って、勝てるような相手じゃないのは、人数差で判り切っている。

「正直、絡まれなければ、もっと楽だった」
「そうだねー」
「ごめんね。私が首を突っ込んじゃったから」

 こうなったのはアキラのせい。
 それは大いにあったが、もはや言っていられない。
 考えても変わらないことを嘆かず、Nightはアキラに伝えた。

「どうするかはお前が決めろ」
「どうするかって?」
「戦うか、戦わないか。お前の性格なら、戦いたくないんだろうが、相手は逃がしてくれないぞ?」

 アキラは別に戦いが好きな訳じゃない。
 PvPも仕方なく受ける場合が多く、自分の意思は薄い。
 だからだろうか。Night逃げ延びる手立ても用意していた。
 最後だけ美味しい所を奪い、適当な所でドロップアウトする、超安全ルートだ。

「お前次第だ。お前が決めろ、何故ならギルマスだからな」
「ここでその要素出してくるの?」

 もはや機能もしていない要素だった。
 とはいえ、選択は迫られている。
 アキラは考え込む。何が正解で、なにが不正解か。
 答えなんてもの、存在していないのに頭を悩ませると、ドクンと胸が鼓動を上げた。

「そっか……」

 アキラは自分とは違う何かに触れる。
 励まされるような、応援されるような気持ちだ。
 背中を優しく押されると、アキラは顔を上げる。

「本当は戦いたくは無いよ。聖レッドローズ騎士団の人たち、みんな優しかったから」
「そうだったわね」
「確かに、一理あります」

 聖レッドローズ騎士団の優しさには全員触れている。
 あの統率力と実力に助けられた。
 つまり、戦いたくはない。仮に戦ったとしても互角、もしくは、単に格上だ。

「Night、戦わずに済む方法は無いのかな?」
「無いだろうな」
「そんな答えを出すのが早いよ」
「答えは出ている。ブローズの性格を考えて、完全に敵視している筈だ。もはや穏便に解決を図ることができないだろう」

 Nightは目を伏せていた。
 最初からこうなることは分かっていた。
 聖レッドローズ騎士団を倒さなければ、このイベントで勝ちを取れない。
 仮にそれを捨てて、聖レッドローズ騎士団を無視したとしても、逆にいつまでも付き纏われるのだけだった。

「だからこそ、ここで倒しておく。しかも、まともな戦い方をせずにな」
「「「どう言うこと?」」」

 Nightはニヤリと笑みを浮かべる。
 何やら考えがあるようで、Nightはアキラたちに説明する。

「なに、簡単なことだ。ブローズの思惑をへし折ってやればいい」
「へし折るってどうやって?」
「それを今から説明する。よく聞け」

 Nightは表示した地図上に、いくつものメダルを置いて行く。
 一つ一つ作戦を練っていたようで、アキラたちに分かるように説明した。
 けれどパターンが多すぎる上に、どれも裏を掻く様な戦法。
 聖レッドローズ騎士団にとっては、嫌なものばかりだった。

「どうだ? 面白くなりそうだろ」
「う~ん、それって、ブローズが許してくれるかな?」
「それに、雷斬は嫌よね?」
「あまり心地よくはありませんが、それも一つの手と言うことですね」
「そうだ。今回は連携が大事になる。数に利が無い以上、戦略で覆す」

 Nightは説明を終え、丸め込めに入った。
 アキラたちはNightが必死に考えてくれていた作戦を改めて見直す。
 とは言え、もう覚えていない。一つ分かるのは、あまり気持ちの良いものじゃないのだ。

「本当に通用するかな?」
「それを決めるのは、行動と時の運だ」
「ここで運の話をするんだ。Nightってぽく無いね」
「ふん。なんとでも言え、今私ができることは、これが全てだ」

 Nightはボヤかれて拗ねてしまう。
 そんなNightが可愛い。
 アキラは笑みを浮かべると、意識を切り替える。

「色々言っても仕方ないよね。これでやってみよう!」
「いいんだな?」
「私はいいよ。みんなは……大丈夫そうだね」

 アキラは友達の顔色を窺った。
 全員文句は無さそうで、アキラは決める。
 Nightの考えた無数の作戦を覚えるフェーズに入ると、後は暗記の時間になった。

「上手く行くといいけど」
「行くようにするんだ」
「あはは、えっと、2-A-ゆが……」
「あー、覚えられないよー!」

 フェルノの悲鳴が木霊する。
 ギルドホームのリビングで、まるで勉強会のような雰囲気になる。
 全員が黙々と各々の覚え方で作戦を唱え続けると、パンクしそうになる情報に、目を回してしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...