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◇555 本当に今年度最後のイベント

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 ディスプレイを見つめる女性が居た。
 映像が無数に再生されているが、その全てを一瞬で理解する。
 とんでもない情報だ。頭がおかしくなっても仕方が無いにもかかわらず、彼女は、エルエスタは淡々と処理をした。

「それにしても、あの状況から東側が勝ちましたか」

 エルエスタは中立な立場で観戦していた。
 けれど、序盤の立ち回り方から、西側が優勢だと思っていた。
 けれど蓋を開けてみれば最後に勝利を収めたのは、東側。
 なにが勝敗を分けたのか。それは立回りだ。

「次のプレイヤーたちに託す。実にUnionしていましたね」

 第二フェーズは幾つかの組み分けがされている。
 その中でも最後から二番目、第三ブロックの動きが良かった。
 特に優れていたのは、ギルド、妖帖の雅。
 他喉のプレイヤーも見つけられなかった隠し部屋を見つけ、そこにメッセージを残す。それによって、特定のプレイヤーたちをAIが判定し、その場にスポーンさせた。
 これら全ては偶然ではなく、点と点を結び合った、まさしく必然と呼べるものだった。

「イベントが始まる前から、自分達が有利になるよう、事を運んでいた証拠ですね。お見事でした」

 エルエスタは簡単な拍手を贈った。
 これは称賛に値するもので、これでこそ、Creature Unionの醍醐味の一つだった。

「とは言え、ボーンドラゴンの倒し方の内、その選択を取るのは……勇気を履き違えた、無謀でしょうか?」

 東と西。それぞれの要塞の中枢部にはモンスターを用意していた。
 隠し部屋の中、それぞれのコアを守る様に配置した骨系モンスターはかなりの強敵。
 ボーンドラゴンとボーンタイガー。対を成す二つのモンスターは、東西を逆にすると、プレイヤーたちの前に立ちはだかったのだが、その幕引きは、エルエスタの想定の中にはあった。

「想定はしていました。ですが一歩間違えれば、強制ログアウト必至でしたね」

 自由度の高いCUでは、戦い方も千差万別だ。
 けれどあまりにも危険な戦い方だった。
 危うく人体にも影響が出るのではないかと思う程の、強烈なバイタル上昇を確認したのも事実。

「彼女たちで無ければ、成せない戦い方でしたね」

 もちろん、慣れていれば別だ。
 エルエスタは、アキラたち、継ぎ接ぎの絆を知っている。
 だからこそ、問題は無いと踏み込めたが、心肺にはなってしまった。

「あまり無理はして欲しくないですね」

 まるで親のような目線に立つ。
 指を指を絡め合わせると、肘を突いていた。

「ですがこれも進化の過程です。見守ることにしましょうか」

 そう言うと、フッと何かが吹っ切れる。
 座っていたチェアから立ち上がると、コーヒーメーカーの前に向かった。
 少し落ち着こうと思い、エルエスタはコーヒーを淹れる。

「ふぅ。美味しいですね」

 コーヒーをマグカップに注ぐと、エルエスタは心地よい香りに潤う。
 喉をスッと流れるコーヒーの苦みと酸味。
 疲労を如実に表すと、ソファーに座りました。

「次が今年度最後のイベントですか」

 瞼を閉じて、ゆっくりと口を開く。
 ポワッと溢れたのは、第三フェーズだ。
 ここからは第一・第二フェーズに合った共闘は無い。
 より白熱する展開が予想されると、エルエスタは心なしか楽しみだった。

「社長、失礼致します」

 黄昏ていたエルエスタだったが、扉がノックされた。
 エルエスタが通すと、社長室に入って来たのは耶摩。
 手にはタブレットがあり、エルエスタは悟る。

「耶摩さん、資料ができたんですね」
「はい、社長。それとこれを……」

 耶摩はタブレットをエルエスタに手渡した。
 よくできた資料がまとめられていて、社長として感心する。
 それと同時にまとめられたレポートには、CUをプレイしていたプレイヤーの脳波とバイタルが事細かにまとめられていた。

「これは、また著しいですね」
「はい。特に“アキラ”というプレイヤーは、何処か普遍的と言いますか、社長のおっしゃる、“進化”に至る可能性を持っていると思うのですが、どう思われますか?」

 耶摩の問いかけはあまりにも漠然としている。
 それでもエルエスタはしっかりと答えた。

「そうですね、耶摩さんの言うことは、然りだと思いますよ」
「では人の可能性は」
「常に傍にあるものです。他にも見出せる可能性のある方達はいますね。これは面白いです」

 エルエスタは笑みを浮かべた。
 人間の可能性。それを一つの“進化”と捉えれば、尚のこと楽しみになる。
 いつかは並び立てる存在が、自分を超える逸材が現れるかもしれない。
 そんな如何しようもない思惑が過ると、第三フェーズのことを口にした。

「いよいよ第三フェーズですね」
「はい。ここまで残ったプレイヤーは、総勢八十八人です」
「八十八人ですか。どんな戦いになるのでしょうか?」
「それは私には分かりません。ですが、社長が望むなら」
「……望みはしませんよ。この第三フェーズの真価はそこにはないので」

 いよいよ第三フェーズが始まる。
 それはただの乱戦じゃない。
 エルエスタは耶摩たちが理解していない先を考えると、唇を緩め今から待ち遠しかった。

「社長?」
「分かっていますよ。このまま進めてください」
「分かりました。それでは失礼……」
「あっ、耶摩さん待ってください」

 エルエスタは社長室を出て行こうとする耶摩を引き止める。
 ピタリと言われた通り止まると、エルエスタは耶摩に言った。

「少し疲れていますね、コーヒーでも飲みませんか?」

 マグカップを片手に、耶摩を誘った。
 本当はそんな時間は無い。
 けれど耶摩はエルエスタの誘いを受ける。

「いいんですか?」
「はい。耶摩さん、少しは休息を取らないと、死んでしまいますよ?」
「し、死ぬ!? は、はい。いただきます」

 エルエスタは耶摩が疲れていることを知っていた。
 顔色だけでは上手くそれを隠している。
 外交を幾度となくこなしてきたからか、表情を隠すのは上手い。

 けれどエルエスタには無意味だった。
 耶摩の心の淀みを誰よりも先に読み取る。
 少しの休息がより良い生活に繋がると分かっている証拠で、エルエスタは部下想いの優れた社長で、何処までも部下を導いてくれる存在になる。





【お知らせ】

 いよいよ一年生も残り僅かです。
 それとここで軽くお知らせしておきます。
 本作品は、色々とブレるところがあったので、この一年生編で終了になります。
 あっ、今回はガチなので、マジで終わります……が、再構成版をまた一から投稿していくので、お楽しみに。と言うことで、後数ヶ月のお付き合い、それから再構成版からのリスタート、応援よろしくお願いします。
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