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◇533 吸炎竜VS白雪兜1
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フェルノはコーカサス目指して飛び立つと、真っ赤な炎で両腕を包む。
数多くの矢を撃ち落とし、その体には傷が付いている。
少なくとも一度受けた痛みはちゃんとエナメル質を剥がすことで残っている。
専門的なことはなにも分からないフェルノで、効き目が無かった訳じゃないと知り、安堵して胸を撫でる。
「私以外、飛べてる人は……そういないよね」
CUで“飛べる種族”は結構なレアだ。
そんな激レア種族が上手く合致したフェルノは自分で胸を張る。
誇っていい。だけどそれは勝ってからだ。まずは景気付けの一発をかまそう。
そう思い拳を振り上げると、目障りに思ったのか、コーカサスの先制を許す。
ブォン!
一番下の角を叩き付けられると、フェルノの体に痛みが走る。
本当に一瞬のこと過ぎて目では追えなかった。
だからだろうか。体が勝手に反応すると、両腕で必死の抵抗を見せる。
「嘘でしょ~。そんなの聞いてないって」
HPが一気に三分の一も奪われた。
あまりに破壊力が高すぎる攻撃に、フェルノは絶句する。
とは言えその顔にはまだ笑みがある。強いモンスターを前にしてより楽しんでいるのだ。
「いいじゃんいいじゃん。強いのってワクワクするよねー」
これだけ強いモンスターなら、きっと経験値もドロップアイテムも美味い。
今回のイベントではどっちも貰えないし、ステータスもある程度均一化されてしまっている。
そんな拮抗しか存在しない戦いに心が馳せると、燃え盛る拳をより一層炎で包んだ。
「せーのっ!」
地面目掛けて真っ逆さまに落ちていたからだ。
痛みも完全には消えていないけど、無理やり体を動かす。
一気に急上昇して攻撃だ。白い歯を見せびらかせると、気持ちの悪い昆虫の腹がウネウネ動いた。
「気持ち悪いんだよー」
とにかく腹から声を出し、気持ちを露わにする。
吐露された絶叫が炸裂すると、拳も同時に炸裂した。
完全に入った攻撃だ。これならダメージはある筈。
願ったはいいものの、嘘みたいなことが起きていた。
「えっ、減ってないじゃん」
まさかのコーカサスにはほとんどダメージが無かった。
これだけ渾身の一撃を喰らわせたというのに、HPはほんの数ミリしか減っていない。
もしかしてそういう設定? を疑ってしまう話に、フェルノは絶句する。
「おいおい嘘だろ……」
「誰かは知らねぇけど、こんなのさ」
「勝てねぇ。勝てる訳がねぇ」
「もうお終いだ。ここまでやった意味なんだったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
その光景を見ていたプレイヤー達も絶叫する。
保たれていた心を折るには充分で、ヒステリックが拡散する。
あまりにもリアルな人の崩れる様に、アキラたちも悶絶するも、まだまだ慣れている。
「頑張って、フェルノ」
「クソ。もう少し距離が近ければ……」
「私の矢もまともに届かないんじゃね……」
辛酸を舐めさせられていた。
何もできないのはこうも辛いんだ。
手出しができない状況に、フェルノ一人を頑張らせる。
その痛ましさを心に震わせると、奥歯がギシギシと音を立てる。
手のひらを開いたり閉じたりし、フェルノが戦う姿を目に焼き付けた。
「大丈夫、大丈夫! まだまだこれからだよーだ」
絶望感に浸る中、当の本人は元気だった。
まだ諦める気は無い。コーカサス相手にも果敢に攻め立てている。
「ダメージが無い? んな訳じゃないんかー」
そう言うと、フェルノは拳を作ると、何度も何度もパンチを喰らわせる。
コーカサスの巨体に拳を叩き込むと、表面を微かに削る程度にしかなっていない。
そのせいもあるのか、高い防御力が災いしてフェルノだけが疲れてしまった。
「やっぱりじゃない! 全然効いてない」
「防御力が高い、と言うよりも耐久面に無駄が無いな。実際、カブトムシの体は頑丈だ。光沢感のあるエナメルさえ剥がされなければ、フェルノの拳が届くことは無いだろうな」
「感心している場合じゃないよ。どうしたらいいの?」
アキラとベルの視線がNightを突き刺す。
するとNightも考えがあるのか、単純なことを言い切った。
「エナメルを剥がせばいい。とは言え、フェルノのスキルだとそれは難しいだろうな」
「「どうして?」」
「フェルノの腕はアキラのスキル【灰爪】のように鋭くない。削るよりも殴ることに特化している。見た所、コーカサスの体は殴られることには耐性があるらしいな。それも相まってか、殴り続けていても意味が無いらしい」
Nightはそんな分かり切ったことを言った。
と言うより、それでは何の解決にもならない。
アキラとベルの視線が更に鋭くなり、Nightのことを睨み付けた。
「「で?」」
「エナメルを剥がして、内部を露出させればいい。とは言え、フェルノ一人じゃ無理だ」
「無理なこと言わないでよ」
「私がライフル弾を作る余力が残っていればな……」
「おお、ファンタジー超越してる」
もはや何を言っても許されるレベルだった。
アキラたちの会話は常軌を逸していて、頭がおかしくなったと周りは思っていた。
しかしコーカサスを倒す算段は整った。
アキラたちが知らない所で、プレイヤーの何人かが奮い立ち、フェルノの加勢を始めていた。
数多くの矢を撃ち落とし、その体には傷が付いている。
少なくとも一度受けた痛みはちゃんとエナメル質を剥がすことで残っている。
専門的なことはなにも分からないフェルノで、効き目が無かった訳じゃないと知り、安堵して胸を撫でる。
「私以外、飛べてる人は……そういないよね」
CUで“飛べる種族”は結構なレアだ。
そんな激レア種族が上手く合致したフェルノは自分で胸を張る。
誇っていい。だけどそれは勝ってからだ。まずは景気付けの一発をかまそう。
そう思い拳を振り上げると、目障りに思ったのか、コーカサスの先制を許す。
ブォン!
一番下の角を叩き付けられると、フェルノの体に痛みが走る。
本当に一瞬のこと過ぎて目では追えなかった。
だからだろうか。体が勝手に反応すると、両腕で必死の抵抗を見せる。
「嘘でしょ~。そんなの聞いてないって」
HPが一気に三分の一も奪われた。
あまりに破壊力が高すぎる攻撃に、フェルノは絶句する。
とは言えその顔にはまだ笑みがある。強いモンスターを前にしてより楽しんでいるのだ。
「いいじゃんいいじゃん。強いのってワクワクするよねー」
これだけ強いモンスターなら、きっと経験値もドロップアイテムも美味い。
今回のイベントではどっちも貰えないし、ステータスもある程度均一化されてしまっている。
そんな拮抗しか存在しない戦いに心が馳せると、燃え盛る拳をより一層炎で包んだ。
「せーのっ!」
地面目掛けて真っ逆さまに落ちていたからだ。
痛みも完全には消えていないけど、無理やり体を動かす。
一気に急上昇して攻撃だ。白い歯を見せびらかせると、気持ちの悪い昆虫の腹がウネウネ動いた。
「気持ち悪いんだよー」
とにかく腹から声を出し、気持ちを露わにする。
吐露された絶叫が炸裂すると、拳も同時に炸裂した。
完全に入った攻撃だ。これならダメージはある筈。
願ったはいいものの、嘘みたいなことが起きていた。
「えっ、減ってないじゃん」
まさかのコーカサスにはほとんどダメージが無かった。
これだけ渾身の一撃を喰らわせたというのに、HPはほんの数ミリしか減っていない。
もしかしてそういう設定? を疑ってしまう話に、フェルノは絶句する。
「おいおい嘘だろ……」
「誰かは知らねぇけど、こんなのさ」
「勝てねぇ。勝てる訳がねぇ」
「もうお終いだ。ここまでやった意味なんだったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
その光景を見ていたプレイヤー達も絶叫する。
保たれていた心を折るには充分で、ヒステリックが拡散する。
あまりにもリアルな人の崩れる様に、アキラたちも悶絶するも、まだまだ慣れている。
「頑張って、フェルノ」
「クソ。もう少し距離が近ければ……」
「私の矢もまともに届かないんじゃね……」
辛酸を舐めさせられていた。
何もできないのはこうも辛いんだ。
手出しができない状況に、フェルノ一人を頑張らせる。
その痛ましさを心に震わせると、奥歯がギシギシと音を立てる。
手のひらを開いたり閉じたりし、フェルノが戦う姿を目に焼き付けた。
「大丈夫、大丈夫! まだまだこれからだよーだ」
絶望感に浸る中、当の本人は元気だった。
まだ諦める気は無い。コーカサス相手にも果敢に攻め立てている。
「ダメージが無い? んな訳じゃないんかー」
そう言うと、フェルノは拳を作ると、何度も何度もパンチを喰らわせる。
コーカサスの巨体に拳を叩き込むと、表面を微かに削る程度にしかなっていない。
そのせいもあるのか、高い防御力が災いしてフェルノだけが疲れてしまった。
「やっぱりじゃない! 全然効いてない」
「防御力が高い、と言うよりも耐久面に無駄が無いな。実際、カブトムシの体は頑丈だ。光沢感のあるエナメルさえ剥がされなければ、フェルノの拳が届くことは無いだろうな」
「感心している場合じゃないよ。どうしたらいいの?」
アキラとベルの視線がNightを突き刺す。
するとNightも考えがあるのか、単純なことを言い切った。
「エナメルを剥がせばいい。とは言え、フェルノのスキルだとそれは難しいだろうな」
「「どうして?」」
「フェルノの腕はアキラのスキル【灰爪】のように鋭くない。削るよりも殴ることに特化している。見た所、コーカサスの体は殴られることには耐性があるらしいな。それも相まってか、殴り続けていても意味が無いらしい」
Nightはそんな分かり切ったことを言った。
と言うより、それでは何の解決にもならない。
アキラとベルの視線が更に鋭くなり、Nightのことを睨み付けた。
「「で?」」
「エナメルを剥がして、内部を露出させればいい。とは言え、フェルノ一人じゃ無理だ」
「無理なこと言わないでよ」
「私がライフル弾を作る余力が残っていればな……」
「おお、ファンタジー超越してる」
もはや何を言っても許されるレベルだった。
アキラたちの会話は常軌を逸していて、頭がおかしくなったと周りは思っていた。
しかしコーカサスを倒す算段は整った。
アキラたちが知らない所で、プレイヤーの何人かが奮い立ち、フェルノの加勢を始めていた。
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