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◇516 足止めなんて許せない

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 シャープドラゴンはビームを吐き出そうとしていた。
 あんな攻撃、喰らった暁にはひとたまりもない。
 正直逃げられるような間はある。けれど体が火傷で動かない。
 お湯を被っていなければと嘆く中、シャープドラゴンは容赦なくビームを吐き出した。

「ドラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 シャープドラゴンのビームは溜めが長かった分、威力も凄まじい。
 射程距離も長く、一瞬でアキラたちを絶望させた。

「ああ、これ無理な奴だよ」
「そうだな。流石に……足搔いてはみるか」

 正直勝てる見込みは何処にもない。
 体がまともに動けば何かできそうだが、今は無理。
 そんな中でもNightは諦めない。
 スリップダメージを負い、回復ポーションである程度回復したHPを消費して、固有スキル【ライフ・オブ・メイク】に全てを託す。

「来い、盾」
「し、シンプルな縦!?」
「期待してたのと違うねー」

 まさかの期待していたものとは違っていた。
 もっと打開策になりそうなものかと思いきや、ここで出て来たのはただの盾。
 しかもかなり貧弱な代物で、シャー応ドラゴンのビーム攻撃なんて到底受け止められそうにない。

「終わったぁ……」

 フェルノが絶望する中、Nightの色も正直悪い。
 けれど諦めた様子は無く、得意の思考力様々な可能性を洗い出していた。
 しかし時間はない。ビームが盾に激突すると、瞬く間に蒼白い閃光がぶつかり、アキラたちの視界を奪う。勝ち目がない、そう悟らされるにはあまりにも十分以上の破壊力だった。

(あっ、終わった)

 アキラでさえ終わりを覚悟した。
 目をギュッと瞑り、久々に強制ログアウトを真に見る。

「【雷鳴】」

 その瞬間、訊き馴染みのある声が耳元で聞こえる。
 ふと目を開け、そこに居る人物に気が付く。
 雷斬だ。雷斬の全身が視界に納まると、何故かアキラたちは左方向に吹き飛ばされていた。

(雷斬がいる……なんで? もしかして私たち)

 アキラの予想は当たっていた。
 雷斬が青白い雷と纏い、アキラたちを吹き飛ばしている。体当たりを喰らい、全身に衝撃が伝わると、そのまま雪崩れ込むように倒れてしまった。

「痛っ!?」

 アキラが呻き声を上げると、全員顔を擦っていた。
 地面の尖った岩に肌が貫かれると、HPを微かに失っている。
 如何やら怪我のエフェクトが出たようで、頬がヒリヒリして痛いが、即死は免れたらしい。
 丁度目の前をシャープドラゴンの放ったビームが電車のように横切ると、凄い速さで通り抜け、威力もさることながら岩々を粉々に破壊してしまった。

「危なかったよ。直撃なんて喰らってたら、今頃私たちは……」
「木っ端微塵、では済まなかっただろうな」
「Night!?」

 一番早く起き上がったのはNightだった。
 状況をかろうじて推測し、頭の中に落とし込むと、お手柄な雷斬を褒めた。

「デカしたぞ、雷斬。ナイスな判断だ」
「ありがとうございます。ですが今の移動で、足を使い過ぎてしましまた」

 雷斬は足に怪我をしてしまったらしい。
 もはやまともに立ち上がることさえできない。
 苦しく苦い表情を浮かべるも、雷斬はアキラたちの無事に安堵し、正義感全快で刀を抜いた。勇ましい姿を目前に、アキラたちは感化される。

「雷斬、お前はなにをする気だ?」
「大したことはできません。ですが注意を引くことはできるはずです」

 あまりにも危険な真似をしようとしていた。
 もちろんそんな真似、絶対にさせたりしない。
 例え足が動かなくとも、一人を置いて行くなんてこと、アキラは許さなかった。

「雷斬、無理して戦っちゃダメだよ。今は逃げよう。もう調査は終わったんだから」
「そうだぞ。今回の依頼はあくまでも原因究明だ。調査も終わった。討伐は別動隊にでも任せればいい」

 Nightの言い分は最もだった。
 それが最善であり、手早い手段になる。
 けれど雷斬とてそれは理解していた。にもかかわらず前に出る自殺行為。何も理由がない訳が無いのだ。

「それは分かっていますよ。ですが私にも引けない理由があります」
「引けない理由? もしかして私たちを逃がすため?」
「時間稼ぎ、この間Nightさんから聞かせていただきました。アキラさんは応援が来るまでの間、精一杯の時間を頭を、持てる技術の全てを使って足止めをしたと。今私ができること、それ即ち足止めです」
「なにバカなことを言っているんだ。今回は応援が来る保証もないんだぞ」
「はい。それさえ理解した上での判断です。ですので皆さん、先に下山をお願いします」

 雷斬はカッコ良かった。
 否、ダサくて仕方がなかった。
 自分を犠牲にするなんて行為、それこそできる訳がない。とは言え勇敢でも立派でもない。そんな選択し、最初から潰してしまう。アキラは睨んだ眼を剥きだすと、雷斬の腕を掴んだ。

「雷斬、一人では行かせないよ」
「アキラさん……」
「そうよ、雷斬」
「ベル!?」

 フェルノとベルも無事に起き上がった。
 HPは削れているものの、怪我はしていない。
 雷斬が庇ったおかげで腕も脚も動くらしく、自然と武器を構えていた。

「むしろ雷斬が優先して下山するべきよ」
「なっ!?」
「そうだな。雷斬、お前は先に下りろ。フェルノ、頼んだぞ」
「OK。でもいいのー? 雷斬だけでー」
「できればもう一度登ってきて、私達のことも頼む。時間との勝負だ、頼めるか」
「もっちろーん。それじゃあ雷斬、ああっ?」

 フェルノは雷斬を連れて下山しようとする。
 しかし当の本人にはそれが受け入れ辛いらしい。
 フェルノが伸ばした腕振り払うと、断固拒否して抗議した。

「それはできません。私も戦います」
「無理しないでいいよ」
「無理なんてしていませんよ」
「してるでしょ? それに、足を痛めて動けない剣士なんていても仕方がないわ」
「それはそうですが……しかし!」

 雷斬は全く引こうとしない。
 けれどアキラたちの意思は変わらない。
 強い眼光を見せつけると、雷斬は言葉を失った。ここに居る全員、雷斬が人一倍気を張っていたことを知っていたからだ。

「無理のし過ぎだ、雷斬。責任感なんて捨ててしまえ」
「それは……」
「お前はできないだろうな。だからこそ、ここは任せてくれ。そうだろ、アキラ」
「うん! だから雷斬、心配しないで。私たち、ただでは負けないから」

 アキラは雷斬を落ち着かせるように宣言した。
 優しく伸ばした腕。頭をソッと掻き撫でると、ポニーテールが寂しく揺れる。

「分かりました。それではお任せしますね」

 雷斬は折れてくれた。如何やらアキラたちの想いが通じたようで、信頼が実を結んだのだ。
 アキラたち残るメンバーが優しく微笑みと、フェルノは雷斬を連れて一気に下山する。
 その後ろ姿を見送ると、不意に現実が蘇る。背後、アキラたちが対峙するべき敵は、こ
こまでの時間でエネルギーを再び溜め直し、
再び攻撃に転じようとしているのだった。
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