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◇514 謎の草鞋と間欠泉

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 目の前に広がる巨大な穴。まるで火山の火口のようだ。
 しかし中を覗き込むと、張られているのは水だった。
 満たされていない水量で、湯気がモクモクと立っている。
 如何やらここが源泉であることは確かなようだ。

「Night、ここが源泉だよね?」
「そうだな。とは言え、源泉の水量は問題無いな」
「そうなの? それじゃあ……なにかある?」
「いや、これだけだと判断ができない。問題は、なにを以って調査が必要なのかだ」

 Nightは源泉の周囲を歩いてみることにした。
 その背中をアキラも追い掛けると、源泉を流し見しながら、訊ねることにした。

「Night、クロユリさんは源泉の調査を頼んだよね?」
「そうだな。とは言え、源泉の調査がなにを以ってかだ」
「それさっき聞いたよ。調査って、なにを調査すればいいの?」
「……雷斬、ベル、一体なにを調査すればいいんだ?」

 Nightはアキラの後ろを付いてくる、継ぎ接ぎの面々に訊ねた。
 すると雷斬とベルはふと記憶を辿ると、クロユリの言葉を追い掛けた。

「そう言えば、源泉の調査って具体的にはなにか言ってたかしら?」
「言っていなかったと思いますよ?」
「ん? それじゃあなにか、私たちは骨折り損ってことか。ここまでの時間と労力を浪費しただけで、骨を折った結果ってことか?」

 Nightはイラついた様子でギロッと視線を飛ばす。
 睨まれた雷斬はペコリとお辞儀をし、ベルは面倒そうにあしらった。
 その様子にNightは面倒そうな顔をすると、落胆して肩を落とした。

「……はぁ、仕方ないか」
「まあまあ、Night。とりあえずもう少し調査してみようよ」
「そうだな。とりあえず源泉の周囲を見て回るか」

 Nightはインベントリの中からアイテムを取り出した。
 様々な形をしたもので、それらを使うと源泉周囲への調査をしてみる。

「アキラ、フェルノ、二人は地層を調べてくれ」
「「地層?」」
「雷斬とベルは磁場だ。これを使え」
「「磁場?」」

 アキラとフェルノは見たことも無い長い棒を渡される。
 雷斬とベルも同様で、ゴテゴテした機械を押し付けられた。
 使い方が全く分からない。ポカンとした顔をしていると、Nightも釣糸を手にしていた。

「私は源泉の方だな」
「ま、待ってよNight。私たちにこんな難しい道具扱えるの?」
「説明書は紙束で付けているだろ。それを見ろ」
「「「うわぁ、懐かしい」」」

 アキラたちはそれぞれ役目を与えられ、髪束の説明書を渡される。
 中身を見てもよく分からない。けれどやってみるしかなくなり、アキラたちは頭を掻く。
 正直分からないことだらけで、何をすればいいのかピンと来ない。
 しかし調査は単純なもので、ざっくりではあったが、何も異状は無い様子だ。

「なにも無しか……ん?」
「どうしたの、Night? なにか見つかったの?」

 Nightはアイテムを使って調査を進めて行くと、ふと気になるものを見つけた。
 視線が地面の先を見ており、源泉周囲で本来自然に付くことはあり得ない物が残っていた。

「それは草鞋の足跡ですか? おかしいですね。私たち以外に誰か居るのでしょうか?」
「えー、ここには今立ち入れないのよ?」
「いえ、許可証を持ってさえいれば予備の鍵を使うことは可能ですよ」
「それはそうだけど……もしかしなくても、私たち以外にも誰か調査に来ているってこと?」
「あるいは、その逆か……どちらにせよ、この草鞋は見過ごせないな。一応型を取っておくか」

 龍顎山に立ち入っているのはアキラたちだけじゃなかった。
 あまりにも急展開な事実に動揺が走るも、それで何かが変わることは無い。
 調査は順調に進んで行き、気が付けば時間がかなり経過していた。

「結局、草鞋以外にはなにも無かったな」
「うーん、草鞋の人、結局見つからなかったね」
「行き違いかもしれないな。もう下山しているだろ。私たちも源泉でなにか起きる前に下山して……」

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!!

「な、なんだ!?」
「じ、地面が揺れてる?」
「あはは、ここ火山が近いもんねー。しかも活火山だったよねー?」
「くっ、このタイミングで……おい、なにか近付いて来るぞ」

 突然地面が揺れ出した。激しい地ならしを起こすと、立っていることさえやっとになる。
 アキラたちは地面に手を突き体勢を整えると、揺れが収まるのをジッと待つ。
 しかし動けないアキラたちを嘲笑うように、源泉の方からも音が響いた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
 
「今度は源泉か……まさかここで水位が上がるのか?」
「ってことは、この間みたいに間欠泉が来るってこと!?」
「そう言うことだ。マズいな、このままだと逃げられないぞ……」

 Nightの言う通り、全く逃げられる余地が無かった。
 アキラたちはジッと嵐が過ぎ去るのを待つも、源泉は水量を増し、水位を上げて一気に噴き出す。騒音が耳元でなぞると、噴水のように荒々しくアキラたちの前に柱を生み出した。

 バッシャァァァァァァァァァァァァァァァン!!

「うわぁ、熱い、熱い熱い熱い」
「間欠泉が噴き出たか。全員気を付けろ、熱っ!?」
「熱い熱い熱い熱い、熱いねー」
「「くっ、熱い……」」

 アキラたちは間欠泉の勢いをまともに喰らってしまった。
 全身が焼けるように痛い。顔を上げることもまともにできず、全身が痛くて痛くて仕方がない。
 しかめっ面を浮かべると、勢いのある水柱がアキラたちを戒める。

「くっ、このままじゃ……な、なにあれ!?」
「今、間欠泉の中からなにか見えた気がするぞ」
「黒い塊が蠢いている……あれは一体」

 アキラたち全員が間欠泉の中に何かを捉えていた。
 黒く蠢くその姿は、明らかにモンスター。
 間欠泉の中を悠然と泳ぎ、その姿を現すのは間もなくだった。
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