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◇501 PvPの申し出

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 赤薔薇少女はアキラたちを睨んでいた。
 何故睨まれえるのか。これだとまるで、アキラのことを標的に見ているようだ。

「な、なに? もしかして、次は私?
「なに、分かっているじゃない」

 赤薔薇少女は本気だった。
 アキラのことを敵視ているようで、今にも殺める勢いを継続。
 剣を握りしめたまま、ルカへと突き付けた。

「それじゃあ覚悟はできてるわよね」
「できてないけど? むしろ戦う気も無いけど?」
「はっ? やっぱり私を舐めてるわね」

 赤薔薇少女は完全にアキラのことを軽蔑していた。
 けれどアキラには本気で戦う気はない。
 ましてや街中での殺し合いなんて真似、止めに入る程やりたくなかった。

「そもそもなんで戦うの?」
「戦う理由? そんなの私がムカつくからよ」
「それだけで? たったそれだけの理由で、さっきの人を倒したの!」
「そうよ。それにあの男は私に謝りもしなかった。謝罪の意が見えないなら、実力行使しかないでしょ?」

 赤薔薇少女は自分のスタンスを崩さない。
 ましてやアキラのことを睨んだまま動きもしない。
 強い覚悟を感じ取る。けれどそれは、アキラにとっては相いれない覚悟だった。

「……辛いね」
「はぁ? 私のなにが辛いの?」
「全部だよ。その行動、後ろになにかあるんでしょ?」
「くっ、初対面の癖に分かったような顔しないで欲しいわね」

 アキラは意識を切り替え、ジッと少女の顔を覗き込む。
 すると見たくも無いのに、何となく見えてしまう。
 赤薔薇少女の子のスタンスは性格。けれどその後ろには大きなものがある。
 それが舐められてはいけない理由だと分かると、アキラは同情を見せてしまうが、赤薔薇少女は許せない。

「その顔、その同情していますって顔。やっぱり貴女は私のことを舐めているわね」
「そんなことないよ」
「その口振り、全てを見透かしたみたいで偉そうに」
「私は偉くなんて無いよ。だからこんな真似もう辞めて、剣を納めて欲しいな」

 アキラは姿勢を一切変えない。
 むしろ優しい口調を維持したまま、憂いの目を浮かべて赤薔薇少女に声を掛ける。
 それが発火剤になったのか、赤薔薇少女は剣を納める所か、狂気を露わにする。

「私に命令するの? はぁ、やっぱり舐めてるのね」
「あ、あれれ?」

 赤薔薇少女は目を伏せた。
 地団駄をしながら地面を踏み荒らすと、全身から熱を放出する。

 スキル何て何一つ使っていないはずだ。
 けれど赤薔薇少女の赤い髪がそうさせるのか、実際には熱が出ていないのに、熱気の渦が生まれていた。

「あ、熱っ!」
「残念だけど、貴女は私のことを虚仮にしたわね」
「苔? 苔じゃないと思うけど……あっ、今のジョークでね? ねっ、分かってくれるよね? あはは……あれ?」

 アキラはジョークのつもりでとぼけて見せた。
 けれど赤薔薇少女には一切伝わらない。
 むしろそれが災いしたのか、沸点をグツグツ煮やしてしまった。

「ごめんね、私も悪気無いから……もう行くね?」

 アキラは急ぎこの場を退散しようとした。
 踵を返しフェルノの姿を捜すと、心配している。
 隣にはNightの姿もあり、険しい表情を浮かべていた。
 如何やら怒っているようで、アキラは反省した。

「待ちなさい」
「ううっ、やっぱり?」

 赤薔薇少女はアキラに殺気を飛ばした。
 威圧するようにアキラの無防備な背中を刺すと、その場に立ち止まらせるには充分。
 踵を再度返し、アキラが赤薔薇少女の顔を窺おうとすると、赤薔薇少女は提案を持ちかけた。

「どうしても私と戦う気は無いのね?」
「もちろん無いよ」
「そう。それじゃあこれならどう?」

 そう言うと赤薔薇少女は宙に指を置く。
 なぞるように操作をすると、アキラの前にウィンドウが表示された。
 そこには久々に見る文言。〔対戦申し込み〕と書かれていた。

「私と正式にPvPで勝負して。それならいいわよね?」
「えっと……PvPをするの? そこまでして、白黒はっきり付けたいの?」

 アキラは赤薔薇少女の執念にドン引きした。
 しかしそれは赤薔薇少女にとってはもっての外だったらしい。
 アキラのことを鋭い形相で睨みつけると、剣を再度突き付ける。

「私は舐められたままは嫌なの。残念だけど、受けて貰うわ」
「でも、PvPって受ける側に選択肢があるんじゃないの?」
「それなら受ける理由を作ってあげる。もし私が勝ったら、私は貴女の言うことに従ってあげる。それで私が勝ったら貴女は私の前に二度と姿を現さない。それでどう?」
「うわぁ、それってリスクの方が大きすぎるよね? 悪いけどやっぱり……」

 アキラは全力で逃げようとした。
 しかし赤薔薇少女は剣を突き付け、今にもアキラのことを切り刻みそう。
 多分ここで逃げれば一生追いかけて来る。
 そうなると自由な行動ができなくなるので、アキラは少し考えて仕方なさそうにYESを押した。

「分かったよ。戦えばいいんだよね?」
「ようやく受ける気になったわね。それじゃあ……問答無用で死んで」

 赤薔薇少女はそう呟く。
 するとアキラと赤薔薇少女を取り囲むように街中でPvP用の特設ステージが展開する。
 巨大ではない、縦横十メートルずつの円形空間が生まれると、街行く人達は弾かれた。

「みんなごめんね。すぐに終わらせて……あれ?」

 アキラは無関係の人達に謝った。
 街中で突然の戦闘、PvPとは言え迷惑な筈。
 そう思ったの束の間、如何やら気にしているのはアキラだけだったらしい。

「おお、PvPか!」
「頑張れよ、嬢ちゃんたち」
「久々の喧嘩以外の戦闘か。お互い頑張れよ!」
「怪我はしなくても痛いからな。気を付けろ」

 周りからの声援が注がれた。
 如何にもみんな血に飢えていたらしい。
 アキラは悍ましくなる中、赤薔薇少女は委縮するアキラを気遣うことも無く、剣を構えて戦いの合図を待つのだった。
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