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◇494 雷撃の一撃

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 雷斬のおかげか、アキラはまだまだ立ち上がれる。
 とは言え、寒天スライムは攻撃して来ない。
 反撃が無いからカウンターも無駄。
 となれば話は単純で、最大攻撃力で押し切るのだ。

「とは言っても、私の攻撃、みんな打撃なんだよね」
「そうですね。アキラさんの攻撃は打撃が中心。かと言って、私も斬撃が基本です」
「打撃と斬撃。どっちも効かない……ってことは」
「打つ手無し……ではないですね」

 ここで打つ手が無いと言い切れば話は簡単だ。
 けれどアキラも雷斬も手段が無いとは思えない。
 どんな相手だって、発想の転換と実力があれば倒せる。
 レベル差なんて関係ない。それがこのGAMEの特徴の一つだ。

「アキラさん、少し試してみたいことがあるのですが」
「試してみたいこと?」
「はい。ですが少し危険ですので……」
「離れればいいんだね。それじゃあ私は少し離れるよ」

 如何やら雷斬には作戦があるらしい。
 試してみたいことが何かは分からないが、危ないことは分かった。
 アキラは雷斬の邪魔にならないよう、少しだけ離れる。
 けれどそれでは足りないようで、首を横に振った。

「アキラさん、もう少しだけ離れていただけますか?」
「えっ、まだ離れるの?」

 大体十メートルは距離を置いたはずだ。
 これでも足りないようで、アキラは更に離れ、三十メートル程距離を取る。

「これでいい、雷斬?」
「もう少しお願いします」
「まだ離れるの?」

 一体どんな作戦を思いついたのか、逆に怖くなってしまう。
 けれど言われるがままアキラは離れ、五十メートルも距離を取る。
 すると雷斬は安心した様子で、背中を向けると、何やら種族スキルを発動した。

「来てください、【雷鳴】!」

 雷斬は全身に雷を纏った。
 種族スキル【雷鳴】。
 眩い閃光と共に振り落ちた雷が、音と共に雷斬の肌を焼く。
 全身で浴びる雷は身体機関を極限まで高めると、そのまま技を取らせた。

「寒天スライム。確かに攻撃はして来ないので、良い的にはなりますね」

 雷斬は寒天スライムが動かない強敵であることを練習用の良い的に例える。
 その表情はいつもとは異なり愉悦に満ちていた。
 存分に力を振り払える。そんな相手を目前に構えると、刀の持ち方を少しだけ変えた。

「ですが良い的であるということは、私に切られる覚悟があると受け取っても構いませんよね。アキラさんにも離れていただいた手前、確実に仕留めます」

 雷斬は絶対の自信を持っていた。
 全身に纏った雷を、愛刀雷氣十手丸の刀身に集める。
 この刀には電気を貯める作用がある。莫大な電気を貯めることができる。ともなれば、きっと破壊力も想像を絶する筈だ。

「なにからなにまで丁度いいですね。私の技、試させて貰います」

 雷斬は軸足を残し、利き足を後ろに大きく下げる。
 刀を肩に掛け、そのまま背中が仰け反る勢いだ。
 あまりにも無防備な体勢。かと思ったのも束の間、雷氣十手丸に電光が走り、青白く煌めく。

雷撃罰虎らいげきばっこ!」

 雷斬は目を見開くと、狂気にさえ浸りそうな勢いで、刀を振り抜いた。
 すると雷氣十手丸の刀身が電気を放ち、距離を取っていたにもかかわらず、刀身が伸びる。
 爆発的な光が雷斬を襲うと、離れていたアキラは雷斬の姿が見えなくなった。

「雷斬!」

 叫んだところで届かない。
 光は音よりも速く駆け抜け、寒天スライムの体を貫く。
 ただの斬撃じゃない。その姿は荒々しい虎のようで、雷を纏った電光の虎が寒天スライムに牙を剥いた。

「この一撃は防げません。いくら打撃も斬撃も効かないとしてもです」

 雷斬は不敵な笑みを浮かべていた。
 まさしく勝利を確信した表情で、光に飲み込まれる中、雷の虎が牙を剥き、寒天スライムに食らいつくと、そのまま帯電させて透過するのを目撃する。

「雷を水分が吸収したとしても変わりません。あくまでもこの技は、電撃を纏った斬撃・・・・・・・・ですから・・・・

 寒天スライムは雷の虎を飲み込むと、青白い体が眩しく光る。
 体の中でバチバチと光信号が点滅し、プラズマが繋がって内側から破壊する。
 どれだけ寒天スライムが強くても、それはあくまでも表面上の話だ。
 となれば、内側から破壊すれば早いのだ。

「振動が雷を加速させました。ですので貴方は……」

 雷斬が語っていると、急に寒天スライムに異変が生じる。
 内側が萎み始め、ボコボコと沸騰したように蠢き出す。
 これは何が起きているのか。そう思ったのも束の間、急に寒天スライムは……

 ボォーン!

 美しく破裂した。
 けたたましい雷鳴を残すと、残響として耳を劈く。
 鼓膜を守るように雷斬は耳元を覆い、雷氣十手丸を地面に突き刺す。

「お終いですので」

 雷斬はにこやかな笑みを浮かべると、呆気ない幕切れを寂しく思える。
 それだけ余裕な勝利に味気なさを感じるも、ふと自分の腕を見れば痙攣していた。
 あまりの一撃に体が悲鳴を上げている。
 そんな状況さえ、必要経費とばかりに雷斬は捉えると、腕の痙攣を抑え込みながら、刀を突き上げアキラに勝利を知らせるのだった。
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