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◇492 試し切りはスライムでしたい

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 アキラと雷斬は二人で草原にやって来ていた。
それもそのはず、新しくて手にした刀の試し切りをするために、少し強めの依頼を受けたのだ。

「雷斬、スライムでよかったの?」
「はい、なんでも構いませんよ。むしろ相手が強敵であればあるほど、私の腕だけの結果ではなくなりますので」

 雷斬は何処まで行っても剣士だった。
 凄く頼りになる剣士だと感じ取ると、改めて受けた依頼を確認する。

「今回の依頼はスライムの討伐。報酬は美味しいし、評価点もかなり貰えるから、みんなも喜ぶよね?」
「そうですね。少し心配はされてしまうかもしれませんが、結果的に勝利を手にすれば変わりませんよ」
「だよね。それじゃあ張り切って行ってみよう」
「はい!」

 アキラと雷斬は二人だけで依頼を受けていた。
 いつもよりも早い時間にログインをし、誰にも気が付かれないように気を引き締める。
 その方が後悔しなくていい。呆れなくて済む。
 二人して新刀、雷氣十手丸を確認しに向かった。


 アキラと雷斬は草原を見回す。
 普段行く草原よりも、草木の伸びがやけに長い。
 それだけ陽の光が浴びられるようで、裾の部分に絡み付く。

「スライム、見当たらないね」
「そうですね。スライム、私はあまりお目にかかったことがありませんね」
「そうだよね。スライムって、メジャーなモンスターじゃないのかな?」
「そうですね。私もメジャーと言う印象が強いのですが、実際のところは不明ですね」

 アキラも雷斬も圧倒的な知識不足に苛まれる。
 せめてNightが居てくれればと思ったが、居ないものを気にしてはいけない。
 首をブンブン横に振ると、キョロキョロ視線を配り続ける。
 きっと何処かには居るはず。そんな期待を込めていると、遠目で青い何かが蠢いていた。

「アレは……」
「アキラさん、なにか見つけましたか?」
「うん、見つけたっていうか、アレなのかな?」

 アキラは指を指すと、雷斬にも確認を取る。
 ここから五十メートル程先、そこに青いプルプルとした生き物がいる。
 恐らくはモンスター。多分スライム。けれど違和感を覚える。

「恐らくはスライムなのでしょうが……おかしいですね」
「そうだよね。ちょっと大きいよね?」
「もしかすると個体によるものでしょうか?」
「そうだとは思うけど、嫌な予感がするよ」

 あの大きさのサイズを普通のスライムとカウントしていいのだろうか?
 アキラは不安になりながらも、余計な思考は邪魔だと悟る。
 首を改めて横に振ると、先制を決めるべく、アキラと雷斬は足早に向かう。

「どうしますか、アキラさん?」
「とりあえず私達は物理しかないよね?」
「そうですね。できれば私のスキルは【雷鳴】だけにしておきたいですね」
「そっか。それじゃあまずは!」

 アキラは【キメラハント】:【月跳】を発動。
 足を白い兎の毛に覆い、ジャンプ力を強化して、軽やかに跳躍する。

「そう言うことですか。それでは私も続きます」

 雷斬はアキラの作戦を読み解く。
 加勢に続くべく、【雷鳴】を纏って全身を雷へと変換する。
 アキラよりも素早い一撃と変わり、槍のように突き進んだ。

「先手必勝ですね。それでは、試させて貰いますよ」

 雷斬はスライムを貫こうとした。
 新しい愛刀、雷氣十手丸が雷を貯める。
 電光の一撃を放つべく、銀の刀身が黄色に輝き出すと、目の前のスライムのプルプルした体を貫こうとした。

 ポヨン!

「えっ、通らない?」

 しかし刀は全く通らなかった。
 スライムのプルプルした感触に阻まれてしまい、切っ先が弾かれてしまう。

「アキラさん!」
「それぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 アキラは上空から飛来する。
 強烈な蹴りを叩き込み、スライムを粉々にしようとする。
 
 ボヨーン!

「嘘でしょ? うわぁっ!?」
「アキラさん」

 しかしアキラの攻撃は容易く弾かれる。
 おまけに反動で吹き飛ばされると、背中を受け身も取れずに地面に叩き付けられそうになる。
 けれど雷斬が飛び込んで抱えると、お互いに怪我をせずに済んだ。

「痛たたぁ、雷斬ありがとう」
「このくらい大したことではありませんよ。それよりもどうしましょうか?」
「そうだよね。流石にこのスライムは……」

 如何やらアキラと雷斬はヤバい敵を相手にしてしまったらしい。
 目の前に居るのは確かにスライムなのは間違いない。
 けれどその大きさ、八メートルを優に超える大きさで、正直そこに存在するだけでかなりの圧を感じる。

 おまけにどんな攻撃も弾いてしまうプルプルの体。
 せっかく雷氣十手丸を試しに来たはずが、そうも言っていられない。
 まともに攻撃が通る見込みも得られず、アキラと雷斬は困惑した。
 今取れる術が限られる中、とりあえず放心するしかない。

「これは強敵の予感だね」
「そうですね。攻撃が無いことがせめてもの救いですね」
「うん。でも、どうやって倒そうか?」

 アキラたちは負ける気は無かった。
 けれど勝てる気もしなかった。
 目の前に浮かび上がる巨大な影、それこそが寒天スライムであると、アキラと雷斬は思い知らされるのだった。
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