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◇446 天孤・雷斬VS雪将軍(前段)

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 アキラたちは天狐から現状起きていることを尋ね教えて貰えた。
 けれど何が何だかさっぱりだ。
 それが天狐のスキル【朧狐火】の性質なのは仕方ないが、傍から見聞きしても本人も分かっていないのではイマイチ反応に困った。

「って、ことあったわぁ」
「って、ことあったわぁ、じゃないですよ! 一体如何したらこんなことに……って、天狐さん!」
「ん? うわぁ!」

 アキラたちが天狐に事情を聞いていると、雪将軍はその暇すら与えなかった。
 立ち止まっているところに太刀を降り下ろし、氷風を打ち下ろす。
 
 ギュィーン! とけたたましい風の音が響き、圧が天狐を襲う。
 けれど天狐はアキラに教えられて気が付くと、素早く身を逸らした。
 攻撃を躱しただけ。それだけだと思うのは軽率で、背後からの攻撃、しかもサスツルギの応用で発生した氷の礫すら軽やかに全回避していた。

「す、凄い。カッコいい」
「そうかいな? おおきに。そやけど、結構簡単やわぁ?」
「いや、あんな動き誰にでもできるわけではないだろ。とは言え、今は褒めちぎっている暇は無いがな」

 Nightの言う通りだった。
 天孤は避けたものの、あんな攻撃をアキラたちまで避けきれるとは思えない。
 剣士だから。同じ武器を携えているからこそ分かり合える領域の話で、真似なんてとてもじゃないが出来っこなかった。

「となればここは……」
「雷斬? うわぁ!」

 ベルの横で雷斬の姿が消えていた。
 一瞬にして移動し、Nightから託された急ごしらえの刀を構えると、雪将軍の背後を取る。
 素早く全身を使った大胆で豪快な剣戟を、脇腹目掛けて打ち込もうとするが、雪将軍は雷斬の動きを見切ってしまった。

「ナンノコレシキィ!」

 コーン!

 高くもない。ましては低くもない。
 甲高い音を期待していたものの、聞こえて来たのは鈍い金属音。
 如何にもNightの作った刀では精巧な刀と比べ弱々しく、そのせいもあってか家庭用のホットプレートに木べらを叩き付けたような音になった。

「悪いな雷斬。私の残ったHPだと、これが限界だ」
「大丈夫ですよNightさん。これだけできれば十分です」

 Nightは苦汁を噛み締めていた。
 けれど雷斬はNightに責任を掛けないように振舞う。

 たった一撃。雪将軍の太刀を受け止めただけで満足だ。
 雷斬の脳裏では折れない刀に仕上がっているだけで十分な出来。
 これなら少々乱雑に扱っても申し分ないと確信を持つきっかけになる。

「天狐さん手伝わせていただきます!」
「そう? ほな、甘えようかな。って怪我してへん? 動いて平気なん? ほんまにいける?」

 雷斬は天狐の隣に移動した。
 刀を構えると雪将軍を威圧するように睨みつける。
 全身からビリビリと電流が放たれる。それから周囲に【陣刃】を展開した。

「フン。ソアクヒンノカタナデナニガデキルトイウノダ!」

 雪将軍は太刀を刀に掛けた。
 天狐のことを、否、雷斬のことを舐めていた。
 無論、剣技は目を見張るものがありすぎる。
 つまりは粗悪品の刀。Nightが用意した急ごしらえの刀を指していた。完全に馬鹿にしている。

「粗悪品の刀……ですか。そう言っていられるのも今の内だけです」
「ナニヲイッテイルノカワカラナイナ」
「そうですか。出は分からないままで結構です。私の友人が用意してくださった刀を愚弄した罪、この刀に切られて果たしていただきますよ」

 完全に怒っていた。
 雷斬は黒刀を肩に構える。
 雪将軍と同じ構えを見せることで、自分の方が強いを客観的にアピールしているのだ。

「かっこええなぁ。ほなうちもちょい本気出そうかいな」

 何故だろう。天狐までこの調子に乗ってしまう。
 面倒なことを通り越し、大変な事態にまで発展しそうになっていた。
 アキラたちはそれぞれが頭を抱え悩ませると、とりあえず止めてはみようとする。

「雷斬? 天狐さん? 止めよ。せめて一回冷静になろうよ?」
「そうだぞ。確かにその刀は今作ったばかりの即興品だ」
「そうよ、いい加減にしなさい。Nightも言ってるんだから、変に触発して相手にするのは……」
「天狐もですよ。もっと効率よく着実に……」

 アキラたちは必死に止めようとした。
 けれどなかなか聞いては貰えないらしい。
 むしろ余計に火を点けてしまったらしく、二人は同時に叫んだ。

「「私(うち)たち(ら)に任せて。とっとと倒すから!!」」

 なんだかもう止まりそうにない。
 完全に暴走状態……というよりかは楽しんでいた。
 この状況を心底楽しめるだけの精神を持ち合わせているなんて、呆れるほどに剣士だった。

「はぁー。これは無理だな」
「む、無理なことあるの?」
「そうだよー。熱くなったらお終いだよー?」
「もうお終いだよ! クロユリさん、椿さん……」

 Nightもフェルノもお手上げだった。
 この状況になってしまった以上、二人に任せるしかない。
 部外者が立ち入ってはいけないのは、パーティーメンバーとて同じだ。

 最悪を想定し、クロユリと椿姫にも助け船を出す。
 しかしながらこの状況下では二人の指揮力も通用しないらしい。

「諦めるしかないですね」
「そうですよ。それにここは二人に任せてみましょう。大丈夫です、きっと勝ってくれますよ」
「それはそうですけど……はぁ」

 アキラも完全に諦めてしまった。
 けれど二人なら必ずや勝ってくれる。
 そんな見込みしか立たず、アキラたちはまるで心配する余地はなかった。
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