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◇443 天孤が強すぎる件

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 アキラたちは準備を整え、再び雪将軍のところに戻る。
 今度こそは負けない。
 いや、まだ負けてはいない。アキラたちは勝つ気満々だった。

 ただ勝ちたい理由。それだけではなかった。
 一人で頑張って時間を稼いでくれている天狐の加勢。
 そのためにも頑張らないとダメだ。いや、頑張りたいと思った。

「天狐さん、大丈夫かな?」
「どうだろうな。流石に一人で二体を相手にするのは厳しいだろ」

 Nightも同感だった。
 天孤一人で雪将軍とツユヨミを抑え込むのは大変だ。
 だけどそれすら余裕だとばかりに、クロユリは心配を一掃する。

「ふふっ、本当に天狐に心配は要らないのよ」
「どうしてそんなに呑気なんですか? 確かに天狐さんは強いですけど」
「それは見たれば一目瞭然の筈ですよ」

 クロユリは不敵な笑みを浮かべていた。
 目の前には武家屋敷が浮かび上がる。
 カキーン! カキーン! 金属を叩く音がした。

 きっと今も戦っているはずだ。
 天孤の加勢には間に合うはず。
 アキラたちはスキルを全力で発動すると、雪将軍の姿を視界の端に捉えた。

「見えたよ! 天孤さ……ん?」

 アキラは唇を噤んだ。喉が震え、言葉を出すことができない。
 一体なにが起きているのか。目の前で起っているはずのことが捉えられない。

 いや、理解しようとすることはできる。
 だけどあまりにも逸脱していて、これが本当にこの五分の間に起きた出来事なのかすら怪しい。

「ん? あー、もう五分経ったんやな。なんか早いわぁ」

 天孤は飄々としていた。というよりも平然としていた。
 携えている刀とは違う、より短い、短刀で雪将軍の懐を刺していた。

 一体何が起きたのか。あんなに接近できるなんて信じられない。
 刺されたことを認識し、雪将軍は腹を抑えている。
 押さえつけるように呻き声を上げると、天狐のことを兜の隙間から睨みつける。

「コノ、ヨクモ、ヤッテ……」
「おお、やっぱしまだ立ち上がれるんやな。凄いわぁ」

 雪将軍は膝を使って立ち上がり、太刀を振り下ろそうとする。
 しかし力がまるで入らず、容易く天狐に躱されて太刀は空を裂く。

 しかし余裕そうな天孤とは対照的にクロユリは呆れていた。
 何かを危惧したのか、一瞬だけアキラたちのことをチラ見すると、少しだけ怒っていた。

「天狐、流石にやりすぎですよ? 私たちが出番を攫ってどうするんですか?」
「かんにんかんにん。そやけど時間稼ぎはしたわぁ?」
「それはそうだけど……うん、時間稼ぎよくやってくれたわね。お疲れ様」
「ええわぁ。それよりみんな行けそう?」

 天孤は短刀が突き刺さったままの雪将軍を眺めていた。
 けれどそのまま放置すると、クロユリたちの下へと戻って来る。

 満足したような表情を浮かべていた。
 しかしやっていることは非常に惨たらしい。
 その証拠に雪将軍は蠢き苦しんでいた。

「時間稼ぎありがとうございます。あの、大丈夫ですか?」
「うん、行けるで。心配してくれておおきに」
「えっと、本当ですか? 無理してませんか?」
「無理してへんで? 逆に無理してるように見えるん?」

 天孤はやはり飄々としている。
 アキラたちにもにこやかな笑みを浮かべたままで、そこが知れない人だった。

 けれどその実力は確かなもの。
 アキラと雷斬は直接スキルの効果を喰らったことがあるけれど、それをここまで上手く使われると今、目の前で起きていることが否応にも飛び込んでくる。

 きっと壮絶な幻術に掛けられたはずだ。
 そのせいだろうか。雪将軍だけではなくツユヨミまでダウン寸前。
 完全にアキラたちの出番は存在していなかった。

「天狐さん、強すぎますよ」
「あはは、かんにんや。そやけどこれで良さそうやで」

 天孤は完全に勝利を確信していた。ように見せてまだまだ目は笑っていなかった。
 同じく視点としては雷斬と同じだ。
 雪将軍は膝を使って立ち上がり、腹部に刺された短刀を抜いて、地獄の目を浮かべていた。
 アキラたちではない。天狐のことを完全に敵視していて、本気で殺す気だった。

「コロシテヤル。コロシテクレル」

 口からも殺気が零れていた。
 ただでさえ寒いのに余計にひんやりとして、首筋を切られたみたいに恐怖が渦巻く。

「ちょっと、これヤバいわよ?」
「天狐、貴女はどれだけのことをしたんですか? ちゃんと説明して欲しいですよ」

 ベルは弓を構えて応戦する構えを見せる。
 しかし雪将軍から溢れる殺気はベルの矢すら弾いてしまいそうだ。

 この状況は最悪と見た。椿姫は根本にある天狐がやった行いが気になる。
 隣に居る天狐に説明を申し入れると、空を見上げて下唇に指を当てた。

「説明って言うてもな。うちはうちができることを最大限の幻術を以ってして、徹底的に陥れただけやわぁ」

 それを聞くだけで悍ましかった。
 アキラたちの想像は固いが、天狐はペラペラ喋ってくれた。
 自分の活躍を披露すると、雪将軍をより苛立たせるだけだった。
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