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◇442 頼りない頼りになる刀

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 クロユリたちに助け出され、アキラたちは難を逃れた。
 雪将軍から距離を取ると、インベントリの中から回復ポーションを取り出す。
 失ったHPを一気に回復すると、口元から零れる液を拭き取った。

「ふぅ、一気に飲み干したけど、げぷっ!」
「皆さん、回復ポーションは無理に失ったHPを回復するアイテムですよ。飲み過ぎないように注意してくださいね」

 クロユリに諭されてしまった。
 けれど一度に大量に回復ポーションを飲んだせいで、お腹に溜まって少し苦しい。
 けれどそうも嘆いていられない。
 早く天狐の加勢をしないとダメだと、心が馳せる。

「アキラー、急ぎ過ぎても良いことないよー?」
「そうよ。天狐さんを信じましょ」
「そんなの当たり前だよ。だけど、天狐さん一人でいつまで持つか分からないでしょ?」
「それはそうだけど……」

 確かに五分しか時間がない。
 いくら天狐さんといえど、それだけの時間を稼ぐのは至難の技だ。
 
 強力なスキルを持っているからできるわけじゃない。
 自信満々に相槌を入れてくれたけど、本当は死ぬ気で頑張っているはずだ。

 アキラはそう思ってしまった。
 早く加勢に行かないとと気持ちが同じところに戻ってしまう。
 だけどそんなアキラに椿姫がこう言った。

「大丈夫ですよ。天狐は強いです」
「椿さん……そうですよね。私も雷斬も誑かされるくらいなんです。こんなことで負けませんよね」
「むしろ勝っているかもねー」

 フェルノもそれに続いた。
 二人共呑気だなと思って呆れるが、それも一瞬で、アキラも意識を切り替えて大丈夫だと信じる。
 ようやく気持ちに整理が付いたと思い、回復ポーションをゆっくり飲もうとするが、飲みかけのポーションを吐き出してしまった。雷斬が声を発したからだ。

「うっ、ですが早く加勢したいところですね」
「「「雷斬!?」」」

 疲労困憊の中、雷斬は何とか立ち上がる。
 元気な表情はそこに無い。けれど根気と闘志で再び刀を握る。
 すると刀身がカタカタと揺れ出して、今にも折れてしまいそうなほど脆かった。

「もう動いて大丈夫なのよね!」
「は、はい。心配をおかけしましたね」
「全くよ。って、腕が痺れているじゃない。テーピングまでして、どれだけ無茶したの?」
「あはは、面目ないですね。ですがまだ戦えますよ」

 ベルはいち早く雷斬に駆け寄る。
 体調を確認しようとくまなく注意すると、手には包帯で簡易的に作ったテーピングをしていた。
おまけに腕まで痺れている。
 プルプルと震え、刀を再度握り直すのもしんどそうだ。

 これはもう無茶をさせられない。誰もが雷斬の状態を見て虚勢を張っていると確信する。
 けれどそんな中でも一人だけ飴と鞭の使い方を分かっていない人が居た。
 Nightは厳しい言葉を浴びせ、非難するわけではないにしろ、雷斬に無茶を要求する。

「そうだな。雷斬にはまだまだ頑張って貰わないと困る」
「ちょっNight!」

 すぐにアキラは間に割って入った。
 胸ぐらを掴むことはしなかったが、目だけで威圧をする。
 ここは労わるのが友達としての役目の筈だ。それを完全に無視し、Nightは圧に負けることなく続けた。

「当然のことだろ。それに雷斬自身が一番理解しているはずだ」
「雪将軍の懐に飛び込み、まともに太刀を受け止められるのは私しかいませんから」

 たしかにそれもそうだった。だけど納得するのも違う。
 雷斬自身も役目を分かっていて、自分にしかできないと理解する。
 けれど絶対に止めてほしい。
 アキラたちは必死に雷斬を止めようとした。

「でも今の状態じゃまともに動けないんじゃないの?」
「そうですね。ですが大丈夫です。私が倒す必要は何処にも無いんですから」
「えっ? ここまでやったのに」

 アキラたちは拍子抜けしてしまった。
 瞬きを何度もすると、雷斬の言葉を脳内で復唱です。
 「私が倒す必要は何処にもない」。まるでここまでやって来た頑張りを否定するみたいで、ここまで体を酷使した自分への戒めのように聞こえてならない。

「私一人で倒す必要は何処にも無いんです。私が欲しいのは私一人の勝利ではなく、皆さんと共に勝ち取った勝利なんです。それが私が負けたくない理由なんですよ」

 なんだか深みのある言葉だった。
 それと同時に雷斬がここまでやって来たことは自分のためだけではなく、継ぎ接パッチワークぎの絆・フレンズのためだと理解できた。
 けれどそれが雷斬らしくて仕方なく、気持ちが滅入る中に唯一射し込む光となった。

「なんか深いこと言ってるけど、そんなの建前で本当は疲れたんでしょ?」
「あはは、そうですね。やはりベルには通用しませんか」
「当り前よ。どれだけ一緒にいる親友でお馴染みなの。それともあれ? 雷斬、貴女はここまでよく頑張って来たわ。だからもう無茶はしない、とか言って欲しかったの?」
「そうですね。それも一つの採択ではありますが、やはり気を張っていないベルがいいです」

 食って掛かるベルだけど、それすら包容力で包み込んでしまった。
 親友でありお馴染でも雷斬とベルだから繋がる絆だ。
 とても素敵。そう思う反面一瞬だけ蚊帳の外にされる。
 そこに割り込むように、Nightは雷斬に刀を差しだす。

「雷斬、その刀の耐久力では満足に戦えないだろ。これを使え」
「ありがとうございます。良い刀……とは言えませんね」
「当り前だ。私が今即興で作ったものだからな」

 Nightが手渡した刀は真っ黒だった。
 柄に鍔に刀身も、全部真っ黒だ。
 アキラはカッコいいと思ったが。如何やら粗悪品のようで、業物には程遠い。
 けれど雷斬は柔らかに微笑んだ。

「ですが気持ちは伝わりました。皆さん、行きましょう。ここからが最終局面ですよ」

 雷斬はNightから刀を受け取ると満足していた。
 それから疲れた体を起こすとアキラたちを率いる。
 その目には闘志が宿っていて、まだまだ戦う気概は消えていなかった。
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