上 下
439 / 568

◇436 【陣刃】が張り巡らされた戦場

しおりを挟む
 雷斬は空間を支配していた。
 まさしく武家屋敷の中は雷斬のために用意された戦場で、雪将軍は苦汁を舐める。
 腹部を抑えたまま膝を付き、崩れてしまっていた。

「【ジンバ】ダト? クッ、ヒレツナ!」
「すみません。私もそうは思っていたのですが、貴方があまりにも強く、私も出し惜しみしている暇は無かったんです」

 雷斬は自分でも卑怯だと思っていた。
 しかしこの期に及んでそんな言い分が通るはずもない。
 遠距離による奇襲攻撃を喰らった手前だ。雷斬は雷斬で本気を出してしまった。

「すみません。貴方にはここで終わっていただきますね」

 雷斬は動けないでいる雪将軍の首筋に刀の刃先を触れさせた。
 ひんやりとした玉鋼の感触が兜越しに伝わる。
 雪将軍箸を悟った。雷斬も心を鬼にして、刀を振り下ろし首を飛ばそうとする。
 けれど雪将軍も黙ってやられてはくれなかった。

「ヤブレンゾ!」

 雪将軍は膝を付いていたが体を無理矢理起こして立ち上がる。
 兜の側面を使って刀を吹き飛ばさんとする勢いだった。
 ずっしりとした重みが雷斬の腕を伝うが、雷斬もまだ負ける気はない。

「いえ、勝つのは私です!」

 雷斬は雪将軍に弾かれた刀を引き戻すと、心臓部目掛けて刀を打ち付ける。
 けれど白い重厚な甲冑に防がれてしまう。
 だけど雷斬は見越していた。だからだろうか、落ち着いた様子でそのまま甲冑の上を滑らせると、甲冑と体を繋ぎ止める紐を一本断ち切った。

「そりゃぁ!」

 雷斬が紐を切ると、甲冑が脱げそうになる。
 防御面が薄くなると、流石の雪将軍も一瞬たじろぐと思ったのだ。
 けれど雪将軍は甲冑など気にしていない。
 防御を完全に捨て、雷斬を切ることだけに心血を注ぐ。

「ヒキョウナマネヲスルケンシハヨウシャセン!」
「誰が言えるんですか? 私は負けませんよ」

 雷斬は雪将軍を迎え撃つため、その場で刀を振った。
 別に何かに触れるわけではない。ただただ空を裂くだけ。
 しかし雪将軍が太刀を振り上げると同時に、雷斬は素早く距離を取った。

 バックステップを使って後に飛ぶ。
 雪将軍の太刀が硬い何かにぶつかった。
 空中に置かれていたのは二重になった【陣刃】で、雪将軍は力任せに振り払おうとするも、全く無意味で逆に喰らってしまった。

「ナッ、コノ【ジンバ】ハウゴカセヌノカ!」
「もちろんです。もっとも……」

 雷斬は雪将軍の質問に答えてあげた。
 その理由は非常に単純で、動かせないと・・・・・・思わせるためだった・・・・・・・・・

 指をそっと空に触れた。そのまま命じるようになぞると、雪将軍は掻い潜ったはずの刃に襲われる。
 展開していた【陣刃】が突然急襲を始め、腹部を抉るような痛みに襲われた。
 白い甲冑にたくさんの傷ができ、見れば一発でダメージが判る。

「ナニッ! ウゴカヌノデハナイノカ」
「動きませんよ。ですが例外として、私が命じれば直線的に少し動きますが、ねっ!」

 ここで動かせないと、雷斬の口から嘘とも真実とも取れない言葉を放った効き目が出て来た。
 その証拠に雪将軍は雷斬の放った【陣刃】に大苦戦をしている。
 単純な太刀による重たい一撃で破壊はできるものの、それが数を生めば如何なるだろうか。大振りの太刀一本では流石に捌き切ることはできないで、下手に動くこともできずその場で立ち尽くすだけだった。

「クッ! エエイメンドウナ! スベテイチゲキデコワシテクレルワ!」

 雪将軍は流石にらちがあかないと気が付いた。
 体を捻りながら、恵まれた体格を活かして回転切りを放とうとする。
 けれどそうはさせまいと【雷鳴】を呼んで果敢に攻める。
隙を縫うように忍び寄り、首を掻っ切ろうと放つ刃を受け止めるのは至難の技のはずだ。

「悪いですが、それをされると私の手段が減るので止めていただけますか?」

 勢いよく飛び掛かって刀を振るう。
 すると雪将軍は太刀で簡単に受け止めた。
 けれど雷斬も予測していたことだと、【雷鳴】を再び呼んでその場から消える。
 張り巡らせた【陣刃】を足場に使い、刀を振り回して【陣刃】を更に展開させながら空中戦を仕掛ける。

「マダフエルノカ!」
「もちろんです。全てを消される前に私がここで断ち切ります」

 ここで雪将軍を仕留める。外にでも出てアキラたちを追われれば、ここで仕留めようと画策する雷斬の計画が崩れてしまう。
 それもそのはず、建物の中は理に叶っていた。
 得物を振り回すのも難儀な上、自由を奪われ制約が掛けられる。
 なによりも甲冑の重みで畳が傷み、満足に走れないことが雷斬にとって最大の優位だった。

「だからこそ、ここで倒すんです!」

 【陣刃】を足場にして天井付近まで雷斬は上がっていた。
 そのまま何をするのか。【陣刃】を飛ばすのかと思われたが、雷斬は重力を加えて落ちて来る。加速を付け、渾身の一撃で勝負を決めようというのだ。
 すると雪将軍もその対決に打って出た。近づいてきてくれるのなら好都合だからだ。

「ムロン。ワシモダ!」

 カキーン!

 雪将軍の太刀と雷斬の刀がぶつかり合った。
 激しく刀身が震えていて、火花を散らす。
 氷を纏わせ、サスツルギをいつでも使える雪将軍と、ビリビリと電流を放つ雷斬。
 その戦いはより苛烈さを増していくのだが、この場で唯一打ち勝てない物が悲鳴を上げてピキッと微かに雲行きを悪くさせていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜

雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。 剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。 このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。 これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は 「このゲームをやれば沢山寝れる!!」 と言いこのゲームを始める。 ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。 「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」 何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は 「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」 武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!! ..........寝ながら。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...