437 / 575
◇434 力だけじゃ勝てない!
しおりを挟む
アキラたちは一斉にその場から逃げ出した。
取り残されたのは雷斬と怒号を荒げる雪将軍だけ。
玉鋼の刀と氷を纏った刀。二つの刃がぶつかり合い、ギシギシと異様な音を奏でる。
正直に言えばかなりマズい状況だった。
雷斬の表情は澄ましたままだが、腕に掛かる力がいつもの比ではない。
少しでも気を緩めれば簡単に体勢を崩される。
それは雪将軍も同じことで、いつでも寝首を掻く準備を雷斬は忘れずにする。
それもそのはず、互いの力が拮抗していた。
体長二メートルはありそうな雪将軍の重たい一撃を技術でしっかり防ぎ切る雷斬。
こんな芸当、普通の剣士にはできやしない。ましてや第二、第三の斬撃、および不意打ちまで警戒している。これら全てを雷斬はたった一人で行っているのだ。
到底できやしない神業に、雪将軍ですら驚いていた。
「ソノウデサスガダナ。ワシノヤシキニムダンデシンニュウシ、アマツサエハカイシタモノノショギョウトハオモエンナ」
雪将軍は片言で聞き取れない言葉を綴った。
しかし雷斬は雷斬で、芯の目をしたまま刀を弾き返す。
「ありがとうございます。ですが幻術を使う卑怯者に手を貸すなど、武士としては風上にも置けませんね」
「ゲンジュツ? タブラカサレルヨワキモノニキョウミハナイ」
雪将軍はそう答えた。ここまでの雷斬その少しばかりの慈悲が掻き消された。
それもそのはず、雷斬はここまでの幻術は第二の宿敵。即ち、雪将軍を操り入れ知恵をした何者かだとばかり思っていた。否、期待をしていたのだ。
しかし雪将軍の口から飛び出したのは、まさかの肯定とも取れる一言。
雷斬は表情に影を落とすと、雪将軍の刀を弾いた一瞬の隙を見逃さず、懐に飛び込んで肩の刃を叩き込もうとする。
鋭い一閃。目にも止まらぬとはまさにこのこと。
身長は大きく、その分体重もある。体格の恵まれすぎている雪将軍にとって、一度でも体勢を崩されれば整えるのは容易ではない。
ましてや雷斬は体勢を整えられないよう、ベストな位置に潜り込んで、崩したままの体に刀を叩き込もうとするのだ。
動く隙すら与えず、反撃の余地など有りはしない。
「終わりです」
「ドウカノ?」
雷斬は渾身の一撃を胴に打ち込んだ。
確実に上半身と下半身の繋ぎ目を切断したはずだ。
しかし実際には三分の一も入っていなかった。
もちろん邪魔をしたのは丈夫な甲冑で、雷斬自身見過ごしていない。
だからこそ留め具の脆い部分を狙ったのだが、残念なことに白い甲冑に阻まれただけじゃなかった。なにか硬いものに受け止められてしまったのだ。
「まさか骨!?」
「イカニモ」
筋肉が凄まじく、まるで鎧のようになっている。そんなアクション映画をイメージした。
けれど実際には筋肉どころか肉、皮膚にすら触れた感覚はない。
刀の刃が透き通るように入っていき、体の中で硬いものにぶつかったのだ。
如何やら骨、特に肋骨に受け止められたと、この時初めて分かった。
「どれだけ強靭な肋骨なんでしょうか?」
「ガハハ。オドロクヒマハナイゾ、コンドハワシノバンダ。ワルイガテカゲンハセンノデナ!」
雪将軍は氷の刀を振り下ろした。
流石に逃げられない。雷斬は懐に入り込んだことでピンチを迎える。
目の前に氷を纏った刀があり、今にもサスツルギが放たれようとしていた。
(喰らえばひとたまりもありませんね)
こんな時でも雷斬は冷静だった。否、こんな時だからこそ冷静な思考が大切なのだ。
刀を鞘に納めて踵を返して逃げ出す。そんなことをすれば背中を切られ、氷によって動きを封じられる。ましてや下半身を壊死させられるだろうと、容易に想像ができた。
ならばこのまま押し切るのも手だ。けれどそれもダメだと悟った。
肋骨は硬く強靭。このまま力任せに叩き切れるとも思えない。
完全に力では雪将軍が有利であり、雷斬は有利な点、それは小さいことと小回りの利くことだけだった。
「シネィ!」
雪将軍の一文字切りが炸裂する。
雷斬の本の目の前、目と鼻の先だ。
確実に眉間を切られ、ここでログアウトは必至。
奥歯を噛み、如何したら良いのか考えていたが、もはや答えは出ていた。
「ふぅ」
「ナニッ!?」
雷斬は力を抜いた。諦めの境地。そうとも思える行動に雪将軍は呆れる。
これほどまでの剣士だからこそ力の差を感じた。そうとは思えない。
何か裏があるのではないかと、一瞬の躊躇いが脳裏を過り邪魔をする。
それは見事な思考で予想は的中していた。しかしギリギリまで雷斬はそこから動かずに、雪将軍の目に雷斬の存在を強く認識させ続ける。
「カンガエルノハヤメダ! オラァァァァァァァァァァァァァァァ!」
荒々しい一振りだった。雷斬は氷を纏った刀を避けることができなかった。
渾身の一閃が炸裂し、雷斬の体を通過する。
確実に切った感触はあった。けれどおかしなことに、氷の刀がビリビリと電気を纏って振動を繰り返す。腕にまで痺れが通達し、刀を握る手に違和感さえ覚えた。
「コノカンカクハ……」
雪将軍は自分の手の異常を確かめる。
握ったり閉じたりして見るがやはり痺れていた。
激しい刀のぶつかり合いに麻痺してしまったのか。そう考えるのが無理やりだが自然だ。
けれど雪将軍は全身を雷で打たれたような殺気を背後から感じて振り返った。
「マ、マサカ!」
首だけ振り返ってみると、そこには人影があった。
ポニーテールをたなびかせ、全身からビリビリと雷の電流を放出する。
畳の床が焼けたような黒い焦げ跡。雪将軍は全身に悍ましい殺気を感じ取り苛まれると、人影=雷斬の殺伐とした眼が飛び込んできて、恐怖を感じて硬直するのだった。
取り残されたのは雷斬と怒号を荒げる雪将軍だけ。
玉鋼の刀と氷を纏った刀。二つの刃がぶつかり合い、ギシギシと異様な音を奏でる。
正直に言えばかなりマズい状況だった。
雷斬の表情は澄ましたままだが、腕に掛かる力がいつもの比ではない。
少しでも気を緩めれば簡単に体勢を崩される。
それは雪将軍も同じことで、いつでも寝首を掻く準備を雷斬は忘れずにする。
それもそのはず、互いの力が拮抗していた。
体長二メートルはありそうな雪将軍の重たい一撃を技術でしっかり防ぎ切る雷斬。
こんな芸当、普通の剣士にはできやしない。ましてや第二、第三の斬撃、および不意打ちまで警戒している。これら全てを雷斬はたった一人で行っているのだ。
到底できやしない神業に、雪将軍ですら驚いていた。
「ソノウデサスガダナ。ワシノヤシキニムダンデシンニュウシ、アマツサエハカイシタモノノショギョウトハオモエンナ」
雪将軍は片言で聞き取れない言葉を綴った。
しかし雷斬は雷斬で、芯の目をしたまま刀を弾き返す。
「ありがとうございます。ですが幻術を使う卑怯者に手を貸すなど、武士としては風上にも置けませんね」
「ゲンジュツ? タブラカサレルヨワキモノニキョウミハナイ」
雪将軍はそう答えた。ここまでの雷斬その少しばかりの慈悲が掻き消された。
それもそのはず、雷斬はここまでの幻術は第二の宿敵。即ち、雪将軍を操り入れ知恵をした何者かだとばかり思っていた。否、期待をしていたのだ。
しかし雪将軍の口から飛び出したのは、まさかの肯定とも取れる一言。
雷斬は表情に影を落とすと、雪将軍の刀を弾いた一瞬の隙を見逃さず、懐に飛び込んで肩の刃を叩き込もうとする。
鋭い一閃。目にも止まらぬとはまさにこのこと。
身長は大きく、その分体重もある。体格の恵まれすぎている雪将軍にとって、一度でも体勢を崩されれば整えるのは容易ではない。
ましてや雷斬は体勢を整えられないよう、ベストな位置に潜り込んで、崩したままの体に刀を叩き込もうとするのだ。
動く隙すら与えず、反撃の余地など有りはしない。
「終わりです」
「ドウカノ?」
雷斬は渾身の一撃を胴に打ち込んだ。
確実に上半身と下半身の繋ぎ目を切断したはずだ。
しかし実際には三分の一も入っていなかった。
もちろん邪魔をしたのは丈夫な甲冑で、雷斬自身見過ごしていない。
だからこそ留め具の脆い部分を狙ったのだが、残念なことに白い甲冑に阻まれただけじゃなかった。なにか硬いものに受け止められてしまったのだ。
「まさか骨!?」
「イカニモ」
筋肉が凄まじく、まるで鎧のようになっている。そんなアクション映画をイメージした。
けれど実際には筋肉どころか肉、皮膚にすら触れた感覚はない。
刀の刃が透き通るように入っていき、体の中で硬いものにぶつかったのだ。
如何やら骨、特に肋骨に受け止められたと、この時初めて分かった。
「どれだけ強靭な肋骨なんでしょうか?」
「ガハハ。オドロクヒマハナイゾ、コンドハワシノバンダ。ワルイガテカゲンハセンノデナ!」
雪将軍は氷の刀を振り下ろした。
流石に逃げられない。雷斬は懐に入り込んだことでピンチを迎える。
目の前に氷を纏った刀があり、今にもサスツルギが放たれようとしていた。
(喰らえばひとたまりもありませんね)
こんな時でも雷斬は冷静だった。否、こんな時だからこそ冷静な思考が大切なのだ。
刀を鞘に納めて踵を返して逃げ出す。そんなことをすれば背中を切られ、氷によって動きを封じられる。ましてや下半身を壊死させられるだろうと、容易に想像ができた。
ならばこのまま押し切るのも手だ。けれどそれもダメだと悟った。
肋骨は硬く強靭。このまま力任せに叩き切れるとも思えない。
完全に力では雪将軍が有利であり、雷斬は有利な点、それは小さいことと小回りの利くことだけだった。
「シネィ!」
雪将軍の一文字切りが炸裂する。
雷斬の本の目の前、目と鼻の先だ。
確実に眉間を切られ、ここでログアウトは必至。
奥歯を噛み、如何したら良いのか考えていたが、もはや答えは出ていた。
「ふぅ」
「ナニッ!?」
雷斬は力を抜いた。諦めの境地。そうとも思える行動に雪将軍は呆れる。
これほどまでの剣士だからこそ力の差を感じた。そうとは思えない。
何か裏があるのではないかと、一瞬の躊躇いが脳裏を過り邪魔をする。
それは見事な思考で予想は的中していた。しかしギリギリまで雷斬はそこから動かずに、雪将軍の目に雷斬の存在を強く認識させ続ける。
「カンガエルノハヤメダ! オラァァァァァァァァァァァァァァァ!」
荒々しい一振りだった。雷斬は氷を纏った刀を避けることができなかった。
渾身の一閃が炸裂し、雷斬の体を通過する。
確実に切った感触はあった。けれどおかしなことに、氷の刀がビリビリと電気を纏って振動を繰り返す。腕にまで痺れが通達し、刀を握る手に違和感さえ覚えた。
「コノカンカクハ……」
雪将軍は自分の手の異常を確かめる。
握ったり閉じたりして見るがやはり痺れていた。
激しい刀のぶつかり合いに麻痺してしまったのか。そう考えるのが無理やりだが自然だ。
けれど雪将軍は全身を雷で打たれたような殺気を背後から感じて振り返った。
「マ、マサカ!」
首だけ振り返ってみると、そこには人影があった。
ポニーテールをたなびかせ、全身からビリビリと雷の電流を放出する。
畳の床が焼けたような黒い焦げ跡。雪将軍は全身に悍ましい殺気を感じ取り苛まれると、人影=雷斬の殺伐とした眼が飛び込んできて、恐怖を感じて硬直するのだった。
0
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました
新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。
後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。
多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』
一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。
主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!!
小説家になろうからの転載です。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる