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◇433 雪将軍の怒号
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アキラたちは突然吹き込んできた冷たい空気の刃に実が凍った。
そんな中、雷斬は破壊しつくした襖の奥を睨んでいた。
その先には大広間がある。床の間に薄っすら見えるのは掛け軸と日本刀。
明らかに先程までは無かったはずだが、逆に考えれば何かが起こったわけだ。
「アレが玉座か」
Nightが硬直から解放された。背中に背負う身の丈以上の十字架の剣が妙に震える。
それほど嫌な気が武家屋敷の中を覆い尽くし、充満させようとしていた。
「それだけではありませんよ。見てください。白い甲冑姿の人がいます……いえ、人ではないでしょうね」
雷斬は鋭い眼で睨みつけていた。
それもそのはずで視線の先、そこには胡坐を甲冑姿の何者か。
見たところプレイヤーでもNPCでもない。異様な禍々しさを放つその出で立ちに、全身を冷たい刃が駆けて行く。
少しでも油断をすれば命はない。
命の重みを悟らせるには十分すぎて、冷汗すら凍って出てくれない。
柱を拳による渾身の一撃で叩こうとしたフェルノでさえ、固唾を飲んで見守る始末だ。
「どうするの、このまま待つ?」
「待っているだけじゃ勝てないわよ。私が先制で一射、射てもいいけど?」
アキラは静寂が渦めき返し、徐々に支配されていく中で声を上げた。
このまま膠着状態でも何も変わらない。
それならばと、ベルが弓を取り出して射る構えを見せる。
けれどそれは軽率な判断だと、Nightはベルを叱咤した。
「そんなバカな真似をするな。やられるぞ」
「そんなこと言っても、どっちかが動かないと状況は好転もしないわよ?」
「それはそうだが……」
ベルの意見には大いに一理あった。
ましてやNightですら考えを巡らせている最中だった。
この状況下で何をしたら良いのか。誰も明確な答えが出せない。
静寂の中に残された緊迫感に肺が悲鳴を上げそうになるが、均衡を打ち破ったのはフェルノだった。
「みんなー。壊してもいいのかな?」
この状況でよくそんな言葉が出せる。流石の勇気に度肝を抜かされる。
アキラたちはクスクス笑い始めてしまった。
どんな状況でもフェルノはフェルノ。それならその言葉と行動に甘えてみようと考える。
「そうだね。やっていいよ!」
「それじゃあ、さっきの続きから……えっと、ファイアーインパクトアタック?」
「自分でつけたネーミングを忘れるな」
Nightのツッコミが炸裂した。
フェルノの渾身の一撃が大黒柱に向かって放たれる。
竜の爪が拳となり、全身から炎を燃やしている。
流石にこれには耐えられない。そう見込んでいたのだが、やはり攻撃が届くことはなかった。しかも先程とは違う、甲冑姿のNPCによる実力行使だった。
「ソレイジョウハヤメーイ!」
胡坐を掻いていた甲冑姿のモンスター=雪将軍は立ち上がった。
床の間に置かれていた極太極長の刀を握ると、そのまま鞘から抜刀し、目にも止まらぬ速さで振り下ろした。
ギュゥゴォォォォォォォォォォォォォォォ!
全身がヒリついた。冷たい、痛い。アキラは頭の中で嫌な予感が走った。
今すぐ逃げないとダメだ。誰がって私じゃない。アキラは狙いが分かっていて、握っていた剣をフェルノの前に突き出す。
「フェルノ、左右のどっちかに飛んで!」
「はっ?」
カキーン!
アキラが突き出した剣が刀身から折れてしまった。
おまけに砕けた刀身がキラキラ眩しい。あまりの出来事にアキラたちは目を丸くする。
「やっば!」
フェルノもアキラの剣が折れたことで状況を律した。
素早く大黒柱から離れると、フェルノが立っていた場所が氷の刃に切り裂かれる。
一瞬のうちに氷が表面を侵食し、まるで雪紋が這ったようだ。
「サスツルギだと」
「な、なに、サスツルギってなに!?」
アキラは訊いたことがない言葉にNightに尋ねた。
するとNightは慌てた様子で一言返した。
この状況がNightの思考に危険信号のサイレンを鳴らしている証拠だ。
「雪の表面が風で削られてできる自然現象だ。マズいぞ、アレが雪将軍だ!」
「そうでしょうね。ですが……はっ!?」
白い甲冑を纏う雪将軍に、全身が凍り付いてしまった。
けれど倒さない訳にはいかない。
雷斬は素早く理解を示し、愛刀を抜刀する。自分から攻撃を仕掛ける構えだ。
そう思ったのも束の間。目の前に現れた雪将軍の刀を抑え込んだ。目を逸らした数秒で接近されたようで、畳の上には這ったような氷の跡が残っている。
「速いですね。氷を滑ったんですか?」
「ダマレ。ワシノヤシキニシンニュウシタカラニハキラレルカクゴガアルノダロウ!」
たどたどしい言葉のやり取りだった。
兜の向こうの顔が見られないが、鋭い眼光が雷斬のことを刺す。
刀を抑え込むだけで精一杯で、雷斬も完璧に合わせることで受け止めていた。
「雷斬!?」
「皆さん、私が抑え込んでいる間に退避してください。この相手、雪将軍は強敵ですよ」
雷斬にここまで言わしめる強敵雪将軍。
たった一撃放った程度の斬撃がここまで雷斬を本気にさせたのだ。
親友でお馴染みの実力を明確に知っているベルは苦い表情を浮かべる。
「ベル?」
アキラは黙ってみていたベルに声を掛けた。
しかし何も返してはくれない。数秒の時間が間を取ると、ベルは踵を返して振り返る。
「アキラ、一旦逃げるわよ!」
「えっ、ちょっと待ってよ。含みがある顔しないでよ!」
アキラは気が付いていた。ベルがなにかを隠しているのだ。
しかもそれはベル自身のことではない。ベル自身が見た雷斬の姿にだ。
なにか違和感があるのか。アキラは尋ねようにもそんな場合じゃないと分かっている手前、上手く言葉を紡げなかった。
そんな中、雷斬は破壊しつくした襖の奥を睨んでいた。
その先には大広間がある。床の間に薄っすら見えるのは掛け軸と日本刀。
明らかに先程までは無かったはずだが、逆に考えれば何かが起こったわけだ。
「アレが玉座か」
Nightが硬直から解放された。背中に背負う身の丈以上の十字架の剣が妙に震える。
それほど嫌な気が武家屋敷の中を覆い尽くし、充満させようとしていた。
「それだけではありませんよ。見てください。白い甲冑姿の人がいます……いえ、人ではないでしょうね」
雷斬は鋭い眼で睨みつけていた。
それもそのはずで視線の先、そこには胡坐を甲冑姿の何者か。
見たところプレイヤーでもNPCでもない。異様な禍々しさを放つその出で立ちに、全身を冷たい刃が駆けて行く。
少しでも油断をすれば命はない。
命の重みを悟らせるには十分すぎて、冷汗すら凍って出てくれない。
柱を拳による渾身の一撃で叩こうとしたフェルノでさえ、固唾を飲んで見守る始末だ。
「どうするの、このまま待つ?」
「待っているだけじゃ勝てないわよ。私が先制で一射、射てもいいけど?」
アキラは静寂が渦めき返し、徐々に支配されていく中で声を上げた。
このまま膠着状態でも何も変わらない。
それならばと、ベルが弓を取り出して射る構えを見せる。
けれどそれは軽率な判断だと、Nightはベルを叱咤した。
「そんなバカな真似をするな。やられるぞ」
「そんなこと言っても、どっちかが動かないと状況は好転もしないわよ?」
「それはそうだが……」
ベルの意見には大いに一理あった。
ましてやNightですら考えを巡らせている最中だった。
この状況下で何をしたら良いのか。誰も明確な答えが出せない。
静寂の中に残された緊迫感に肺が悲鳴を上げそうになるが、均衡を打ち破ったのはフェルノだった。
「みんなー。壊してもいいのかな?」
この状況でよくそんな言葉が出せる。流石の勇気に度肝を抜かされる。
アキラたちはクスクス笑い始めてしまった。
どんな状況でもフェルノはフェルノ。それならその言葉と行動に甘えてみようと考える。
「そうだね。やっていいよ!」
「それじゃあ、さっきの続きから……えっと、ファイアーインパクトアタック?」
「自分でつけたネーミングを忘れるな」
Nightのツッコミが炸裂した。
フェルノの渾身の一撃が大黒柱に向かって放たれる。
竜の爪が拳となり、全身から炎を燃やしている。
流石にこれには耐えられない。そう見込んでいたのだが、やはり攻撃が届くことはなかった。しかも先程とは違う、甲冑姿のNPCによる実力行使だった。
「ソレイジョウハヤメーイ!」
胡坐を掻いていた甲冑姿のモンスター=雪将軍は立ち上がった。
床の間に置かれていた極太極長の刀を握ると、そのまま鞘から抜刀し、目にも止まらぬ速さで振り下ろした。
ギュゥゴォォォォォォォォォォォォォォォ!
全身がヒリついた。冷たい、痛い。アキラは頭の中で嫌な予感が走った。
今すぐ逃げないとダメだ。誰がって私じゃない。アキラは狙いが分かっていて、握っていた剣をフェルノの前に突き出す。
「フェルノ、左右のどっちかに飛んで!」
「はっ?」
カキーン!
アキラが突き出した剣が刀身から折れてしまった。
おまけに砕けた刀身がキラキラ眩しい。あまりの出来事にアキラたちは目を丸くする。
「やっば!」
フェルノもアキラの剣が折れたことで状況を律した。
素早く大黒柱から離れると、フェルノが立っていた場所が氷の刃に切り裂かれる。
一瞬のうちに氷が表面を侵食し、まるで雪紋が這ったようだ。
「サスツルギだと」
「な、なに、サスツルギってなに!?」
アキラは訊いたことがない言葉にNightに尋ねた。
するとNightは慌てた様子で一言返した。
この状況がNightの思考に危険信号のサイレンを鳴らしている証拠だ。
「雪の表面が風で削られてできる自然現象だ。マズいぞ、アレが雪将軍だ!」
「そうでしょうね。ですが……はっ!?」
白い甲冑を纏う雪将軍に、全身が凍り付いてしまった。
けれど倒さない訳にはいかない。
雷斬は素早く理解を示し、愛刀を抜刀する。自分から攻撃を仕掛ける構えだ。
そう思ったのも束の間。目の前に現れた雪将軍の刀を抑え込んだ。目を逸らした数秒で接近されたようで、畳の上には這ったような氷の跡が残っている。
「速いですね。氷を滑ったんですか?」
「ダマレ。ワシノヤシキニシンニュウシタカラニハキラレルカクゴガアルノダロウ!」
たどたどしい言葉のやり取りだった。
兜の向こうの顔が見られないが、鋭い眼光が雷斬のことを刺す。
刀を抑え込むだけで精一杯で、雷斬も完璧に合わせることで受け止めていた。
「雷斬!?」
「皆さん、私が抑え込んでいる間に退避してください。この相手、雪将軍は強敵ですよ」
雷斬にここまで言わしめる強敵雪将軍。
たった一撃放った程度の斬撃がここまで雷斬を本気にさせたのだ。
親友でお馴染みの実力を明確に知っているベルは苦い表情を浮かべる。
「ベル?」
アキラは黙ってみていたベルに声を掛けた。
しかし何も返してはくれない。数秒の時間が間を取ると、ベルは踵を返して振り返る。
「アキラ、一旦逃げるわよ!」
「えっ、ちょっと待ってよ。含みがある顔しないでよ!」
アキラは気が付いていた。ベルがなにかを隠しているのだ。
しかもそれはベル自身のことではない。ベル自身が見た雷斬の姿にだ。
なにか違和感があるのか。アキラは尋ねようにもそんな場合じゃないと分かっている手前、上手く言葉を紡げなかった。
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