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◇429 武家屋敷は迷路

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 アキラたちは落ち武者を全員打ち払った。
 なかなかの強敵で苦戦を強いられた。
 全員インベントリから回復ポーションを取り出すとマズいながらも飲み干して、HPを全回復させる。安全を期したところでようやく先に進めるようになった。

「とりあえずこれで進めますね」
「そうだな。とは言え、武家屋敷はこれでいいのか?」
「分からないわよ。けれどもうボロボロね」

 武家屋敷の廊下に面した襖という襖が落ち武者の刀のせいで貫かれている。
 大きな穴が幾つも空き、襖も倒され、完全に畳張りの部屋と言う部屋が露わにされていた。
 これでは部屋じゃない。アキラたちは戦略に呆れてしまった。

「もしかしたら、物量で押し切れる算段だったのかもねー」
「だとしたら怠慢だな」
「そんないい方したら可哀そうだよ。それより、もしも他の仕掛けがあったら大変だよ。この武家屋敷は、真っ向勝負じゃなくて、精神攻撃をしてくるから」

 ここまでほとんど精神攻撃だった。
 アキラたちは苦い思いをしたので、余計に警戒をする羽目になった。
 ピリピリと神経を擦り減らし、眉根を寄せて皺を作る。
 それでもここまで来た以上は先に行くしかないので、廊下をまずは漁ってみる。

「とりあえず廊下を歩いてみるぞ」

 Nightはそう言った。部屋の中よりは安全だと思ったのだ。
 それにもし攻撃が来るようなら、適当に部屋に逃げ込めばいい。
 甘い算段ではあったが、一応自分たちを餌にして雪将軍の動向も窺う。
 危険も合わさるがナイスアイデアだと感じ、アキラたちは視線を常に配り続けた。

「そう言えば、この武家屋敷って平屋だけど、どれくらいの大きさなのかな?」
「敷地面積的な話か? 全体図は見えないが、最低でも三百から四百は坪数があるだろう」
「そんなにあるんですか!?」
「凄いわね。結構な大豪邸じゃない……それが落ちぶれるなんて、時間って皮肉よね」
「全くだ。そうならように、常に準備を怠ってはいけない訳だな」

 武家屋敷の総面積はもっとあるはずだ。けれど建物だけでその規模となると、かなりのものだろう。
 しかし時間とは儚いもので、こうして大きな豪族や武家でも落ちぶれてしまうことがある。
 そのためにしっかり準備をすることが大事だと、Nightが言うからこそ説得力は増した。

 アキラたちは敵に軽快しながらも、広い武家屋敷を歩いて回る。
 一歩歩く度に、しみじみとさせられ、心が訴え掛ける。
 廊下の木目が視界に飛び込み、古い建物らしい音が足の裏から響いた。
 
ギシィ……ギシィ……ボスン!

「うわぁ!」

 フェルノが叫んだ。廊下が抜けて足が埋まった。
 片足で済んだものの突然すぎてビックリした。
 流石にアキラたちも心配し、無事で済んだことに胸をソッと撫で下ろす。

「痛たたたぁ、ああー、ビックリしたー」
「大丈夫フェルノ?」
「うん、大丈夫だよ。だけどさー、老朽化しすぎでしょ? 取り壊した方が良いってー」

 廊下が抜けるということはシロアリに喰われている可能性が浮上した。
 けれど長年竹林の中に放置されてきたんだ。それくらい無い方がおかしい。

 その上この屋敷が残されているのには理由もあった。
 歴史を思わせるため、運営がイベントとして使うため、様々な思惑がGAMEと現実をかき混ぜる。

 だがしかし入らなければ如何と言うことはなかった。
 さっきもフェルノの体重に耐えられなかっただけで、実際には使える部分も多い。
 雪将軍と戦ったら、すぐにでも退散した方がこの建物のためだと思い、少しだけ急ぎ足になった。

「今度は落ちないようにするぞー」
「おい、フラグを立てるな。そんなことを言っていたら……」
「大丈夫だって。えーっと、うわぁ!」

 フェルノの悲鳴がまたしても上がった。
 頭を抱えるNightだったが、今回は足は落ちていない。
 むしろ片足で体と支えると、穴を器用に避けていた。

「ふぅ、セーフ」
「紛らわしいことをするな!」

 流石に落ちたと思っていた。けれどフェルノの体感の前に、二度目の被害は出なかった。
 今度は安堵することはなく、アキラたちは更に奥へと行ってみることにした。
 随分と歩いてはみたものの、未だに一番奥に辿り着けない。
 そんな中、フェルノだけは穴の前に立ち止まり、「ねぇ?」と疑問符を付けていた。

「フェルノ、先行くよ」
「それはいいんだけどさー」
「どうかしたか? なにかあったのか?」
「うん。みんな、この穴変じゃない?」

 変とは何が変なのか。
 開幕で言われても判らず、一瞬頭を使う。
 するとアキラとNightは真っ先に気が付いた。雷斬とベルも嫌な予感がするとばかりに表情を引き攣らせる。

「ちょっと待って。もしかしてだけど……」
「その先は無しよ。まさかこれも……」
「いや、可能性はあります。私たちは既に……」

 如何やら同じ答えに辿り着いたらしい。
 アキラたちはゴクリと喉を鳴らすが、よく見てみれば間違いなかった。
 項垂れるというよりも怖くなる。なにせここは……

「この穴、さっきから空いてたよね? 私たち、もしかしてだけど同じ場所回ってるのかなー?」

 フェルノのだらんとした声が響いた。
 耳にしたくなかった。脳がフリーズする音がした。
 もしもそうならアキラたちはまたしても、いやこの武家屋敷に入った時から既に、考えれば考えるほど坩堝に嵌っているようで、まるで誑かされているように思えてしまった。
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