上 下
426 / 529

◇422 雷斬なら使えるかな?

しおりを挟む
 二月もバレンタインデーを過ぎると呆気ない。
 気が付けば日が短いこともあってか、最終週に差し掛かろうとしていた。
 そんな中、アキラとNight、それから雷斬の三人はボーッと時間をすり減らしていた。

「暇だね」
「そうだな」

 アキラたちは暇を持て余していた。
 いつも通りギルドホームで駄弁る始末で、宿題も終わってしまって特にやることもなかった。

「本当なら今頃雪将軍かー」
「そうですね。ですが待つのもいいと思いますよ」

 窓の外を見ながらアキラはポツリと呟いた。
 パラパラと雪が降っている。
 その様子を隣で雷斬も見ていた。
 待つことに肯定的で、特に苦には思っていないらしい。アキラも同じなのだが、中々長期間的な戦いを強いられていた。

こうなったのも、雪将軍は今だ姿を現していないのだ。
 それもそのはず、吹雪の真夜中という限定的な時間が仇となっていた。
 そのため噂が広まっても、わざわざ討伐しようとは思わないプレイヤーが続出している。
 限定モンスターだけあってなかなかシビアな設定だが、その方が狙うアキラたちにとっては好都合だった。けれどだ。ここまで掛かるとは思っていなかった。

「あれから一週間だよ?」
「そうだな」

 Nightは興味が無いのか淡白な返しだった。
 文庫本を読み進めながら目線すら合わせない。

「Night、雪将軍に挑むチャンスが全然来ないね」
「とは言っても仕方ないだろ」
「それはそうだけど……」
「実際、このGAMEの真夜中と現実の真夜中が重なる時間は少ない。おまけに天候条件は吹雪だ。とんだ確率に期待するしかないだろ」

 雪将軍に挑めるチャンスがあまりにも少ない。
 その度にログインしないとダメだ。加えて時間も削られる。
 もはや期待するしか方法が無かった。

「お二人ともすみません。私の我儘のせいで皆さんを苦しめてしまい」

 雷斬はアキラとNightに謝った。
 こうなったのも自分のせいだと咎めていた。

「そんなことないよ!」
「そうだな。ここまで来たなら挑む以外に道はない」
「そう言うこと。私たちも楽しみにしているんだよ。だから気負いしないで」
「お二人共、ありがとうございます。ですがこのままですと、期間が過ぎてしまいますね」

 期間終了が迫っていた。
 気負いしないとは言っても中難しめな話しで、表情は穏やかでも焦りは見せつつあった。

「それまでに一度でもチャンスがあったら絶対行かないとね」
「当たり前だ。揃ってなくても行くぞ」

 Nightも文庫本を閉じ、目で訴えかかった。
 アキラも同感で、雷斬はその姿に薄っすらと涙を浮かべそうになる。
 ギルドメンバーを全員巻き込んでしまったが、そんな雷斬の気持ちを尊重してくれたので、嬉しさの余り感極まりそうだった。

「まだ泣くなよ、雷斬」
「そうだよ。泣くのは勝手から。嬉し泣きで前に進まないとね!」

 アキラもNightも明るく振舞う。
 少しでも気苦労を軽減することで運気も上がると思ったのだ。

「そうですね。私もこの刀に誓って、皆さんを守ります」
「守るよりも攻撃して欲しいものだな。……それより、まだその刀を使っているのか?」
「もちろんです。この刀はまだ生きていますから」

 難しい表現だった。けれど雷斬はずっと刀を大事にしている。
 ここまで折れた姿は一度も見ていない。
 少しずつ耐久値は減っているはずなのだが、ここまで扱えているのも雷斬の腕が良いからだ。

「ああ、そうだ!」

 アキラは今になって思い出した。
 インベントリの中からソウラに貰ったものを取り出す。
 黒い鋼の塊。アキラじゃ使えない玉鋼だった。

「雷斬、もしも新しい刀が必要になったらコレを使って」
「アキラさん、ソレは玉鋼ではないですか?」
「うん。ソウラに貰ったものだよ。私は今使っている剣で十分だから、玉鋼ってこともそうで、雷斬が使ってよ」

 アキラはようやく雷斬に手渡すことができた。
 今までインベントリの中で腐っていたものが、使える人の手に渡って嬉しかった。
 けれどNightは水を差す。

「玉鋼だけあっても、使える奴がいないと意味がないだろ」
「それはまだ言わないでよ」

 分かっていた。あくまでも雷斬はできた物を使う人・・・・・・・・できてない物を・・・・・・・使う人じゃない・・・・・・・のだ。
 アキラはグサリと胸を貫かれたが、雷斬は優しく微笑んでくれた。

「ふふっ。いいえNightさん、きっと使える方が現れてくださいますよ」
「それにも期待しないといけないのか」
「その必要は無いですよ。このGAMEは広いんですから、近いうちに現れてくれますよ」
「期待だな。まあ、その方が待つ甲斐がある」
「その期待を連れて来ればいいもんね。運命は変えられるんだから!」

 アキラは良いことを言って締めた。
 その姿をNightは横目で流しつつも、「そうだな」と言って文庫本を開くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

アンデットモンスターを蘇生したら姫騎士に!?

DAI!!
ファンタジー
待望の新作VRMMO「シャイリス」 主人公は初めてVRMMOを手探りで始める モンスターと戯れたいという理由でテイマーを選び 初期ボーナスのルーレットを回すと スキルボーナス アンデットマスター アイテムボーナス 蘇生薬改 アイテムは良いとしてスキルのアンデットマスターにがっかりしつつもゲームを進め 偶然に仲間したアンデットに蘇生薬をかけたら・・・ なんと姫騎士! そしてそこから始まるゲーム運営のとんでもない暴挙との戦い プレイヤーVS運営の戦いが始まる… 空気の読めない真面目すぎる姫とプレイヤー果てはGMからも追い回される ドタバタ物語 プレイヤーはスキルやこのゲーム独自のMYミュージックシステムなどを駆使しながら MMOの終わりなきエンディングを目指す

超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
★お気に入り登録ポチリお願いします! 2024/3/4 男性向けホトラン1位獲得  難病で動くこともできず、食事も食べられない俺はただ死を待つだけだった。  次に生まれ変わったら元気な体に生まれ変わりたい。  そんな希望を持った俺は知らない世界の子どもの体に転生した。  見た目は浮浪者みたいだが、ある飲食店の店舗前で倒れていたおかげで、店主であるバビットが助けてくれた。  そんなバビットの店の手伝いを始めながら、住み込みでの生活が始まった。  元気に走れる体。  食事を摂取できる体。  前世ではできなかったことを俺は堪能する。  そんな俺に対して、周囲の人達は優しかった。  みんなが俺を多才だと褒めてくれる。  その結果、俺を弟子にしたいと言ってくれるようにもなった。  何でも弟子としてギルドに登録させると、お互いに特典があって一石二鳥らしい。  ただ、俺は決められた仕事をするのではなく、たくさんの職業体験をしてから仕事を決めたかった。  そんな俺にはデイリークエストという謎の特典が付いていた。  それをクリアするとステータスポイントがもらえるらしい。  ステータスポイントを振り分けると、効率よく動けることがわかった。  よし、たくさん職業体験をしよう!  世界で爆発的に売れたVRMMO。  一般職、戦闘職、生産職の中から二つの職業を選べるシステム。  様々なスキルで冒険をするのもよし!  まったりスローライフをするのもよし!  できなかったお仕事ライフをするのもよし!  自由度が高いそのゲームはすぐに大ヒットとなった。  一方、職業体験で様々な職業別デイリークエストをクリアして最強になっていく主人公。  そんな主人公は爆発的にヒットしたVRMMOのNPCプレイヤーキャラクターだった。  なぜかNPCなのにプレイヤーだし、めちゃくちゃ強い。  あいつは何だと話題にならないはずがない。  当の本人はただただ職場体験をして、将来を悩むただの若者だった。  そんなことを知らない主人公の妹は、友達の勧めでゲームを始める。  最強で元気になった兄と前世の妹が繰り広げるファンタジー作品。 ※スローライフベースの作品になっています。 ※カクヨムで先行投稿してます。 文字数の関係上、タイトルが短くなっています。 元のタイトル 超リアルなVRMMOのNPCに転生してデイリークエストをクリアしまくったら、いつの間にか最強になってました~年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれています〜

トロイメア・オンライン! 〜ブラコンでロリ巨乳の私は、クソザコステータス『HP極振り』と残念魔法『自爆魔法』で、最強で快眠な女子になります〜

早見羽流
SF
不眠症治療のための医療用VRデバイス『トロイメギア』を病院で処方された女子高生――小見心凪。 彼女が『トロイメギア』でプレイするのはサービス開始したばかりのフルダイブ型VRMMOの『トロイメア・オンライン』だった! よく分からずとりあえずキャラエディットで胸を盛ってしまった心凪。 無自覚のうちで編み出した戦法は、脱衣からの自爆魔法という誰も見向きもしなかったかつ凶悪千万なもの! 見た目はロリっ子、中身はハイテンションJKの心凪が、今日も元気に敵と仲間を巻き込みながら自爆するよ! 迷惑極まりないね! 心凪は果たして自爆魔法で最強になれるのか! そして不眠症は治るの? そんなに全裸になって大丈夫なの!? 超弩級のスピード感と爽快感で読者のストレスをも吹き飛ばす。ちょいエロなVRバトルコメディー! ※表紙、挿絵はリック様(Twitter→@Licloud28)に描いていただきました。

魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~

虎柄トラ
SF
音ゲーが大好きな高校生の紫乃月拓斗はある日親友の山河聖陽からクローズドベータテストに当選したアーティファクト・オンラインを一緒にプレイしないかと誘われる。 始めはあまり乗り気じゃなかった拓斗だったがこのゲームに特典として音ゲーが付いてくると言われた拓斗はその音ゲーに釣られゲームを開始する。 思いのほかアーティファクト・オンラインに熱中した拓斗はその熱を持ったまま元々の目的であった音ゲーをプレイし始める。 それから三か月後が経過した頃、音ゲーを全クリした拓斗はアーティファクト・オンラインの正式サービスが開始した事を知る。 久々にアーティファクト・オンラインの世界に入った拓斗は自分自身が今まで何度も試しても出来なかった事がいとも簡単に出来る事に気づく、それは相手の攻撃をパリィする事。 拓斗は音ゲーを全クリした事で知らないうちにノーツを斬るようにパリィが出来るようになっていた。

エルフだったの忘れてた……

ころキャベ
SF
80歳の青山アリアは、ボランティアとして草むしり中に突然意識を失う。目覚めると、彼女はエルフの姿となって異世界。そこは彼女が80年間過ごした世界ではなく、現実の世界だった。以前いた世界が作られた世界だったと知る。アリアに寄り添うのは、かつてのロボット同僚である紗夜。紗夜から魔力を授かり、アリアは新たな冒険に向けて魔法を学びを始める。彼女の現実生活は、果たしてどんな展開を迎えるのか?

Alliance Possibility On-line~ロマンプレイのプレーヤーが多すぎる中で、普通にプレイしてたら最強になっていた~

百々 五十六
ファンタジー
極振りしてみたり、弱いとされている職やスキルを使ったり、あえてわき道にそれるプレイをするなど、一見、非効率的なプレイをして、ゲーム内で最強になるような作品が流行りすぎてしまったため、ゲームでみんな変なプレイ、ロマンプレイをするようになってしった。 この世界初のフルダイブVRMMORPGである『Alliance Possibility On-line』でも皆ロマンを追いたがる。 憧れの、個性あふれるプレイ、一見非効率なプレイ、変なプレイを皆がしだした。 そんな中、実直に地道に普通なプレイをする少年のプレイヤーがいた。 名前は、早乙女 久。 プレイヤー名は オクツ。 運営が想定しているような、正しい順路で少しずつ強くなる彼は、非効率的なプレイをしていくプレイヤーたちを置き去っていく。 何か特別な力も、特別な出会いもないまま進む彼は、回り道なんかよりもよっぽど効率良く先頭をひた走る。 初討伐特典や、先行特典という、優位性を崩さず実直にプレイする彼は、ちゃんと強くなるし、ちゃんと話題になっていく。 ロマンばかり追い求めたプレイヤーの中で”普通”な彼が、目立っていく、新感覚VRMMO物語。

ビースト・オンライン 〜操作ミスで【アバター:兎(もふもふ)】を選んでしまった俺が、拳とジャンプのみで最強になるまで〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!

処理中です...