上 下
425 / 550

◇421 吹雪の夜に出直し

しおりを挟む
 雪の降り方が強くなってきた。
 アキラたちは全員揃ってそそくさと露天風呂を後にした。
 全身から湯気を出しながら、旅館らしい浴衣に着替える。

「うーん、気持ち良かったね」
「うんうん。やっぱり冬の寒い日の入る温泉はなにか違うよねー」

 全身がポカポカして気持ち良かった。
 湯気をモクモク立たせながら長い廊下を歩いていた。

「クロユリさんありがとうございました。おかげで雪将軍の情報も手には入りました」
「いえいえ。私はなにも……それより、Nightさんは大丈夫でしょうか?」
「あー……大丈夫じゃないですか?」

 クロユリはNightのことを心配していた。
 チラッと視線を向けてみると、Nightは延々と情報を洗っていた。
 ネットの海は広い。そこから信頼できる情報を深く深く潜っていき、ドンドン目の焦点が固定されている。

「Night、せっかく体が温まったのにそんなに集中したら脳がオーバーヒートしちゃうよ?」

 アキラは心配になって声を掛けてみた。
 するとNightは一切顔を動かすことなく情報を集め続けた。

「Nightさん、頑張り過ぎは体に毒ですよ?」
「そうだな。だが時間は惜しいだろ」
「ですが……」
「安心しろ。私は自負しているが普通じゃない。今だって脳の四分の一を使い、残りは使っていないからな」

 クワトラブルマルチタスクを使い、Nightは無理やりに落とし込もうとした。
 だけど同時に複数のことが並列でできるだけで、脳を休ませられるわけじゃない。
 何となくだが直感で感じ取ったアキラはNightに言った。

「時間が惜しいからって、無理してたら最高のパフォーマンスは発揮できないよ?」
「それは分かっている」
「だったら尚更だよ。Nightは情報をミスら無いんでしょ? これでミスったら?」
「立場無いよねー」

 フェルノが余計とも言える一言で場を凍らせる。
 流石にそこまでは言っていない。
 けれど追い打ちとばかりの言葉が如何してか響いたようで、Nightの手がピタリと止まった。

「そうだな」
「嘘でしょ? まさかフェルノの説得で言うことを聴くの?」
「そ、そうだよね。ちょっと意外」
「私をなんだと思っているんだ。別にフェルノの説得? かは分からないが、響いたわけじゃない」

 フェルノの一言を完全に一蹴してしまった。
 アキラたちはそれじゃあ何故? と首を捻ったものの、ネットの海から無事に帰って来た姿を見るに、ある程度の情報は仕入れられたらしい。

「コーヒー牛乳いる?」
「あっ、要ります」
「私も貰う」

 天孤はこの状況でもマイペースに振る舞い、コーヒー牛乳を手渡した。
 冷たくキンキンに冷えた瓶を貰い、紙製の蓋を開けると、Nightはコーヒー牛乳を一気に飲み干す。
 アキラも飲もうとするが固まってしまい、よっぽど脳が乾いていたと伝わった。

「もう一本どや?」
「いや、もういい」
「そっかー。ええ飲みっぷりやったのに、残念やわ」

 天孤からの誘いをキッパリ断った。
 口元に付いたコーヒー牛乳の残りを拭い取ると、集まった情報を呪文のように唱える。

「クロユリが話してくれた雪将軍の情報だが、詳細は不明だがある程度は合っているらしい」
「やっぱりそうなんだ。クロユリさん、ありがとうございました!」
「いえ、ですから私はなにも」

 クロユリはやはり謙遜していた。
 ここまでの情報が引き出せたのはクロユリのおかげ。
 けれどそれだけじゃない。天狐が誘ってくれて、椿姫と出会って、みんなで集めた情報だ。間違いだったとしても、ここまでの経緯は間違ってない。

「いや、妖帖の雅のおかげだ。助かった」
「Nightが素直に感謝した!?」

 アキラは目を丸くしてしまった。
 けれど癪に障ったのか、ジロッと軽く睨まれた。

「私だって感謝の一つや二つは言える。それくらいの礼儀は心得ている」

 何て返されても意外は意外。驚くのも無理はなかった。

「それじゃあ情報も集まったし、間違いもないみたいだしさー、早速行ってみる?」
「うーん、今からだと……」

 フェルノが調子付いて来たので今から行こうと提案した。
 けれどアキラは腕を組んでしまい、時間も遅いし出直した方が良い気がする。
 するとNightとクロユリが声を上げ、アキラの意見に追い風を吹かせる。

「それは無理だ」
「そうですね。止めておいた方が良いと思いますよ」

 Nightとクロユリは同時にそう答えた。
 一体何故と当然の疑問を抱くには十分だった。

「どうしてー? 場所が分かったんでしょ?」
「分かったとはいえ時間がある。雪将軍の情報を洗う中で見つけた」
「そうですね。私もお話が中途半端でしたがまだ続きがあるんです。雪将軍は武家屋敷の跡地、真夜中かつ吹雪の中でしか出現しないそうです」

 ここに来ての新情報だった。
 外を見てみると雪はパラパラと降っているが、吹雪でもなければまだ日も明るい。
 今から行っても雪将軍が居ないと分かり、フェルノは落胆した。

「なーんだ。今行っても意味ないんだー、残念」
「だがこれで確定もした」
「そうですね。雪将軍は確実に居ます。頃合いを見て挑みに行きましょうか」

 雷斬は平常心の中ではあったがメラメラと燃え上がっていた。
 何となくだがアキラたちも伝わり意気込みを入れる。

「それじゃあ雪将軍、絶対倒すよ!」
「「「うん!」」」

 一致団結。これでこそギルドだ。
 その様子を見せつけられた妖帖の雅は「私たちも負けていられませんね」と対抗心を燃やす。これがこのGAMEの醍醐味だったが、一つ間違いがあった。

「ちなみにですが、真夜中は真夜中でも現実とこの世界の時刻が真夜中ですよ」
「「「えっ?」」」

 クロユリは最後にそう言った。
 つまり相当チャンスが少なくなる。
 学生のアキラたちには厳しい条件が立ち塞がり、初めから期限が決められてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いや、一応苦労してますけども。

GURA
ファンタジー
「ここどこ?」 仕事から帰って最近ハマってるオンラインゲームにログイン。 気がつくと見知らぬ草原にポツリ。 レベル上げとモンスター狩りが好きでレベル限界まで到達した、孤高のソロプレイヤー(とか言ってるただの人見知りぼっち)。 オンラインゲームが好きな25歳独身女がゲームの中に転生!? しかも男キャラって...。 何の説明もなしにゲームの中の世界に入り込んでしまうとどういう行動をとるのか? なんやかんやチートっぽいけど一応苦労してるんです。 お気に入りや感想など頂けると活力になりますので、よろしくお願いします。 ※あまり気にならないように製作しているつもりですが、TSなので苦手な方は注意して下さい。 ※誤字・脱字等見つければその都度修正しています。

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

病弱な私はVRMMOの世界で生きていく。

べちてん
SF
生まれつき体の弱い少女、夏凪夕日は、ある日『サンライズファンタジー』というフルダイブ型VRMMOのゲームに出会う。現実ではできないことがたくさんできて、気が付くとこのゲームのとりこになってしまっていた。スキルを手に入れて敵と戦ってみたり、少し食事をしてみたり、大会に出てみたり。初めての友達もできて毎日が充実しています。朝起きてご飯を食べてゲームをして寝る。そんな生活を続けていたらいつの間にかゲーム最強のプレイヤーになっていた!!

処理中です...