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◇414 今時の冬将軍

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 明輝と烈火はいつも通り二月の寒さに打たれていた。
 ここ最近はこんなことなかったはずなのに、やけに寒い。
 コートをギュッと抱き寄せると、烈火は唐突に呟いた。

「ううっ、寒いねー」
「烈火が寒いって言った!」

 珍しいこともある。明輝は驚いて目を丸くする。
 すると烈火はニヤニヤ笑いだした。
 如何やら寒くないらしい。顔色も良く、「まあ嘘なんだけどねー」とつまらない嘘だった。

「明輝は寒いんでしょ?」
「もちろんだよ。私、烈火みたいに鍛えてないから」
「えっ? 体幹トレーニングは鍛えているには入らないの?」
「そう言う意味じゃなくて、烈火みたいに冬でも外を走ったりはしないってことだよ」
「あー、なるほどね。確かに私は冬も走るからこのくらいの寒さは慣れてるけどー」
「ううっ、でもここにきて一段と冷えるよ。あと半月で三月なのに」

 温暖化が深刻化している現代。
 最近では少しずつ良くなってきたようで、この五年は安定している。
 それもこれも企業努力らしいけど、具体的に何をしているかは知らない。
 だけどこの時期になって来ると少しだけ思った。寒くて仕方ない。

「もしかしてさー、冬将軍ってやつ?」
「冬将軍?」
「うん、冬将軍……よく分かんないけど」

 明輝も烈火も聴いたことはあるけれど、あまり分からなかった。
 これ以上話は広がらない。
 沈黙が支配しかけるも、鼻がムズムズし始めた明輝が話題を変える。

「風邪ひかないのは良いことだけど、雪まで降られると敵わないよ」
「でもブーツ履いてれば歩けるよ?」
「でも履いてなかったら?」
「そりゃぁ、ああなる」

 烈火が指を指した。路地の向こう側を歩く男性が転んでいた。
 雪の中に顔面からダイブする。
 今年の雪は少し深めだ。この間授業で雪合戦をした時はと明らかに違う。

「でもこれが冬なんだよねー」
「はぁー。ちょっとだけ憂鬱だよ」

 何が憂鬱って決まっていた。
 寒いのもそうだが、それよりも何よりも気を付けないといけない。
 こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎていく。
 冷えた手でブレザーからスマホを取り出すと、マズいことになっていた。

「あっ、マズいよ烈火!」
「どうしたのー?」
「時間。いつも通りに家を出たから……」
「やっば」

 当校時間をかなり推していた。
 一応間に合いはするだろうが、このペースだとギリギリになる。
 プチ焦った明輝と烈火は少しだけ足早になり、雪の上をブーツで踏み荒らす。
 もしかしてCUで慣れておいて良かった? それくらい走っても転ぶことがなく、脳から伝わる神経の伝達に助けられる。

「凄い凄い。全然滑らない」
「あはは、これもGAMEのおかげかなー?」
「どうだろう。だけど少しは良い方に進んでるかもしれないよ」
「よーし、このまま走って……うわぁ!」
「烈火……うわぁ!」

 烈火のつま先が詰まれていた雪に中に引っかかる。
 勢いそのままに倒れそうになり、明輝も倒れないように腕を掴むと反対に引っ張った。
 けれどダメだった。体が持って行かれて、二人して雪に埋もれる。
 先月から積まれていた硬い雪に顔面が埋もれ、二人は一瞬だけ動けなくなる。

「痛い……」
「痛いねー」

 雪に顔面が埋まったまま二人は喋った。
 本当に固まった硬い雪は痛い。雪には現実でもGAMEでも気を付けよう。
 二人はそう決めた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 とあるビルの一室。
 コーヒーを飲みながら、空から降り落ちる雪を眺める女性がいた。

「二月に雪……良くある話ですが、まさかここまで」
「社長、これも成果ですね」
「そうですね、耶摩さん」

 エルエスタはコーヒーを一口飲む。
 雪の粒をボーッと眺めていると、ふとあることを思い出した。
 ディスプレイの向こう側にいる副社長の耶摩に投げ掛ける。

「耶摩さん。公務はどうですか?」
「順調です。これも社長のおかげです」
「そうですか。ですがそれは貴女だから成せたことです。誇ってくださって構いませんよ」
「あ、ありがとうごいざます!」

 耶摩はエルエスタに褒められて嬉しかった。
 パッと表情が明るくなると、エルエスタは呟いた。

「そう言えば雪将軍の準備はできているんですよね?」
「雪将軍? 冬将軍のことでしょうか?」
「シベリア寒気団のことではありませんよ。私が言っているのは、雪将軍です」
「雪将軍……あっ、はい!」

 耶摩は一瞬何のことか分からなかった。
 数秒間フリーズしスマホのメモを高速で見返すと、エルエスタの言っている単語の意味を理解する。
 大きく頷くと「問題ありませんよ」と答えた。

「そうですか。それでは全うに相手取る方が現れたらいいですね」
「それは人の可能性のお話でしょうか?」
「いいえ、人の真価。即ちポテンシャルを観たいんです。人間、どのような行動でどのような変化が生まれるのか。それを測ることも、私たちには必要なことですよ」
「流石は社長。肝に銘じておきます……あっ!」
「会談の時間ですね。気を付けて下さい」
「お任せください、社長」

 耶摩は期待されて嬉しく思った。
 エルエスタは信頼している。
 だからこそ、こうして黄昏ていられるのだった。
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