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◇412 バレンタイン当日まで

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 湯が沸騰していた。
 スチール製のボウルを鍋から引き上げ取り外すと、中にはドロドロに溶け切ったチョコレートが入っていた。

「良し。型に詰めるぞ」
「そうだね。えっと、このプレートの上に置いたらいいんだよね?」

 オーブントレーの上には固まったチョコレートがくっ付かないように、透明なシートが貼ってある。
 その上に金属製の型を並べ、中に均等になるよう、丁寧にチョコレートを流し込んだ。
 星型やハート型。作るだけで完成が楽しみになった。

「後はコレを冷やすだけだな」
「そうだね。どんな味になるんだろ……あっ、ちょっと残ってるね」

 ボウルの隅にはアクア・カカオ豆から作ったチョコレートが残っていた。
 指で掠め取れば食べられるかも。そう思ってアキラは指を伸ばすが、ぺチン! とNightが叩いた。

「痛っ! な、なにするの?」
「当日まで待て」
「当日って。もしかして、そういうこと?」
「それなりに頭の良いお前なら分かるだろ。今日はこれで解散だ」
「解散で良いんだ……分かった。じゃあログアウトするね」

 アキラはNightよりも少しだけ早くログアウトした。
 一人キッチンに残ったNightはアキラが完全にログアウトしたことを確認する。

「さて、もう少し加えるか」

 Nightは珍しく積極的だった。
 作ったばかりのチョコレートに手を加えるように、別に型を使って残ったチョコレートを固める。カラフルに色を整えると、もう少しだけ作業を続けるのだった。



 先にログアウトした明輝は天井を見ていた。
 ベッドの上から起き上がると、キッチンに下りた。
 チョコレートを作っていたせいか、普通にチョコレートが食べたくなってきたのだ。

「えっと、確か板チョコを買っていたような……」

 階段を下りると、キッチンに向かった。
 ココアを温めながら板チョコを見つけると、久々に作ってみようかなと思った。

「確かこの辺に昔使ってた型があった気が……あっ、あった!」

 棚の中を探ってみると、プラスチック製の型を見つけた。
 チョコレートを素早く溶かして型の中に注ぎ込む。
 その片手間にココアを作り終え、マグカップを持って軽く口を添わせた。

「ふぅ。美味しい」

 ココアを飲みながら、明輝は黄昏ていた。
 ボーッと暇を潰していると、スマホが鳴った。
 見れば烈火からメッセージが来ていた。


烈:どもー
明:なに? なにかあったの?
烈:いいや
烈:なにもないけど
烈:たださっきから連絡しても繋がらないから、なにかしてるのかなーって?
烈:んで、なにしてたの?
明:ログインしてた。それだけだよ


 明輝は烈火にそう伝えた。もちろん何一つ嘘は付いていない。
 もちろん烈火も素直に受け取ってくれた。
 けれど唐突に内容が変わった。


烈:もうすぐバレンタインでしょ?
明:そうだけど
烈:チョコレート
烈:食べたいなー
明:そう?
明:買ったらいいんじゃない?
烈:そう言うことじゃなくて……
烈:ほら。この間アクア・カカオ豆を採取したでしょ?
烈:あれから食べたくなったんだよねー


 烈火は自由だった。今日アクア・カカオ豆を使ってチョコレートを作って来たばかりだけど、それは言えなかった。むしろ言えない約束をしているから、言うこともできなかった。
 だからここは何とか濁そう。
 そう思ってアキラは意識を切り替える。


明:自分で作ったらどうかな?
烈:私が料理下手なの知ってるでしょ?
明:そうだけど……
明:もしかして私に作れってこと?
烈:正解!
明:ダメだよ。自分で作らないと
烈:えー……今年も作らないのー?
明:まあ、作っても良いけど……って言うか今作ってるから」
烈:マジで!? それじゃあ明日貰うね
明:あっ、ちょっと!


 烈火からそれ以上メッセージが返ってくることはなかった。
 面倒なことになった。アキラは心底そう思った。
 けれど今更言っても仕方ない。
 ココアを飲みながら、こうなった烈火は止まらないと判った上で諦める。

「まあいっか。私も食べたいもん」

 一つも二つのも関係ない。
 どのみち余るのなら作った方が得だ。
 明輝はもう一口ココアを飲むと、ウトウトし始めた。
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