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◇401 ふらつく響姫を抱き寄せて
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明輝は響姫の顔色が悪いことを指摘した。
そのことに未だ気が付いていない響姫は首を捻っていた。
クリクリした瞳、瞬きの間。目の下の隈が無ければ可愛いのにと思ってしまう。
「ちゃんと食べてないし、寝てもない。でしょ?」
「そんなことない……」
「はい、私に嘘は通じないよ。目の下の隈、さっきも集中しすぎてマシーンになったピアノ演奏。どっちもダメだって」
「ううっ……ごめんなさい」
何故か響姫は謝る。
謝られる筋合いは無いのだが、よっぽど懲りたらしい。
栄養失調と疲労で倒れる前に響姫を説得できたので、明輝は良いことをしたと思った。
けれど響姫は会話をそこそこに、ピアノ演奏に集中した。
「それじゃあ私は練習に戻るけど……」
「えっ、嘘でしょ!? まだやるの」
「うん。頑張らないとダメだから」
「頑張らないとダメ?」
何を頑張らないとダメなのか。明輝にはさっぱり分からない。
確かに響姫は蒼伊の話によると、凄いピアノ奏者らしい。
けれど頑張りすぎて体を壊したら本末転倒だ。それすら忘れる盲目具合に、明輝は呆れてしまった。
「お節介だとは思うけど、ちょっと休もうよ」
「ううん。休んでる暇は無いから」
「如何して?」
「それは……言えないの」
何故かはぐらかす。そんなに言えない理由なのか。
顔色を窺おうとするが、心中を察することもできない疲れ具合に、若々しさを感じない。
よっぽど疲労が溜まり、響姫本来の良さを消していた。
「如何して言えないの?」
「如何しても言えないの」
「友達でも?」
「うん。言えない理由だから……そう言う決まりだから」
何だか怪しい。明輝は心中を察したいと念じた。
けれど全く見えてこない。しかしここで止めてしまったら何も進まない気がしたので、明輝は響姫に詰め寄る。
「体を壊すまでやるなんてダメだよ!」
「な、なんで、昨日今日知り合っただけの私に、そんなことを言うの?」
「えっ、友達だからそんなのほっとけないからでしょ?」
「な、なんで、そんなカッコいいこと……じゃない!」
響姫は顔を真っ赤にした。恥ずかしがる蒼伊に似ていた。
やっぱり二人は何処となく似ている。
性格は違うけど、似たタイプなのかもしれない。
「私は頑張らないといけないの。私の音を素敵だと言ってくれる人が居る。私の音を欲してくれる人が居る。そのために少しでも頑張らないとダメで……」
「バカだよ、それ。それで自分を見失ったら意味ないでしょ?」
「ば、バカ? 私、成績は悪くないけど……」
「あはは、成績じゃないよ。頑張りすぎて一番大事なものを見失ったら、盲目になって全部見落としちゃうかもしれないんだよ」
明輝は的を射たことを言った。
響姫は豆鉄砲を喰らった顔をし、ポカンとしていた。
だけどすぐに目の色を変える。ムスッとした表情を浮かべ、蒼伊には無い辛辣さを感じた。
「それじゃあどうしたらいいの!」
「リラックスするんだよ。しっかり食べてしっかり寝る。この二つは絶対にやらないと、やりたいことも全うできないよ」
「なんでそんなこと言えるの。私は、私は……」
響姫は不満が爆発しかけていた。
その時だった。昼休みが終わるチャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン!
キーンコーンカーンコーン!
マズい。次は移動教室だ。
明輝は第二音楽室を出ようとした。幸い教科書は予め置いて来ていた。
だから少し遅れたと言い訳すればいいのだが、それより気になるのは響姫だった。
スッとピアノから立ち上がると、フラフラと出て行こうとする。
より一層心配が加速した。これはマズいと思って声を掛けようとした。けれど響姫は先に階段を下りようとする。
その足取りは千鳥足で、階段の一段目で体が浮かんだ。
「あっ……」
疲労がピークに達していた。
ふらつくからだが階段から離れる。
体が軽くなり、フワフワと浮かんでいた。
踊り場が近付いて来ていて、これが走馬灯と言うやつなのか、時間がゆっくりに感じた。
(私、あっ……コレが頑張りすぎ、盲目になったということ)
響姫は諦めきっていた。
大怪我は免れない。最悪死んでしまうかもしれない。
自分のせいだと全てを諦めて受け入れ切っていたのだが、そんな響姫の右腕が引っ張られた。
「痛っ!」
響姫は目を見開く。何が起きたのかと思ったが、今度は引き寄せられてしまった。
グンと階段の最上段まで引き寄せられると、腰を抱かれた。
何が起きたのか。瞬きをすると、そこには明輝の顔があった。
「大丈夫響姫! 急に階段から落っこちたら危ないよ?」
「えっ、ど、どうして?」
「どうしてもなにも無いでしょ? 階段から落ちたら怪我をするし、助けられそうだったら全力で助けるでしょ」
明輝は当たり前のことを言っているつもりだった。
けれどそんな当たり前のことができる人はあまり居ない。
響姫は明輝の顔が近くにあるだけでカッコよくて仕方ない。
頬を赤らめてしまうと、引き攣った表情で固まってしまうのだった。
そのことに未だ気が付いていない響姫は首を捻っていた。
クリクリした瞳、瞬きの間。目の下の隈が無ければ可愛いのにと思ってしまう。
「ちゃんと食べてないし、寝てもない。でしょ?」
「そんなことない……」
「はい、私に嘘は通じないよ。目の下の隈、さっきも集中しすぎてマシーンになったピアノ演奏。どっちもダメだって」
「ううっ……ごめんなさい」
何故か響姫は謝る。
謝られる筋合いは無いのだが、よっぽど懲りたらしい。
栄養失調と疲労で倒れる前に響姫を説得できたので、明輝は良いことをしたと思った。
けれど響姫は会話をそこそこに、ピアノ演奏に集中した。
「それじゃあ私は練習に戻るけど……」
「えっ、嘘でしょ!? まだやるの」
「うん。頑張らないとダメだから」
「頑張らないとダメ?」
何を頑張らないとダメなのか。明輝にはさっぱり分からない。
確かに響姫は蒼伊の話によると、凄いピアノ奏者らしい。
けれど頑張りすぎて体を壊したら本末転倒だ。それすら忘れる盲目具合に、明輝は呆れてしまった。
「お節介だとは思うけど、ちょっと休もうよ」
「ううん。休んでる暇は無いから」
「如何して?」
「それは……言えないの」
何故かはぐらかす。そんなに言えない理由なのか。
顔色を窺おうとするが、心中を察することもできない疲れ具合に、若々しさを感じない。
よっぽど疲労が溜まり、響姫本来の良さを消していた。
「如何して言えないの?」
「如何しても言えないの」
「友達でも?」
「うん。言えない理由だから……そう言う決まりだから」
何だか怪しい。明輝は心中を察したいと念じた。
けれど全く見えてこない。しかしここで止めてしまったら何も進まない気がしたので、明輝は響姫に詰め寄る。
「体を壊すまでやるなんてダメだよ!」
「な、なんで、昨日今日知り合っただけの私に、そんなことを言うの?」
「えっ、友達だからそんなのほっとけないからでしょ?」
「な、なんで、そんなカッコいいこと……じゃない!」
響姫は顔を真っ赤にした。恥ずかしがる蒼伊に似ていた。
やっぱり二人は何処となく似ている。
性格は違うけど、似たタイプなのかもしれない。
「私は頑張らないといけないの。私の音を素敵だと言ってくれる人が居る。私の音を欲してくれる人が居る。そのために少しでも頑張らないとダメで……」
「バカだよ、それ。それで自分を見失ったら意味ないでしょ?」
「ば、バカ? 私、成績は悪くないけど……」
「あはは、成績じゃないよ。頑張りすぎて一番大事なものを見失ったら、盲目になって全部見落としちゃうかもしれないんだよ」
明輝は的を射たことを言った。
響姫は豆鉄砲を喰らった顔をし、ポカンとしていた。
だけどすぐに目の色を変える。ムスッとした表情を浮かべ、蒼伊には無い辛辣さを感じた。
「それじゃあどうしたらいいの!」
「リラックスするんだよ。しっかり食べてしっかり寝る。この二つは絶対にやらないと、やりたいことも全うできないよ」
「なんでそんなこと言えるの。私は、私は……」
響姫は不満が爆発しかけていた。
その時だった。昼休みが終わるチャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン!
キーンコーンカーンコーン!
マズい。次は移動教室だ。
明輝は第二音楽室を出ようとした。幸い教科書は予め置いて来ていた。
だから少し遅れたと言い訳すればいいのだが、それより気になるのは響姫だった。
スッとピアノから立ち上がると、フラフラと出て行こうとする。
より一層心配が加速した。これはマズいと思って声を掛けようとした。けれど響姫は先に階段を下りようとする。
その足取りは千鳥足で、階段の一段目で体が浮かんだ。
「あっ……」
疲労がピークに達していた。
ふらつくからだが階段から離れる。
体が軽くなり、フワフワと浮かんでいた。
踊り場が近付いて来ていて、これが走馬灯と言うやつなのか、時間がゆっくりに感じた。
(私、あっ……コレが頑張りすぎ、盲目になったということ)
響姫は諦めきっていた。
大怪我は免れない。最悪死んでしまうかもしれない。
自分のせいだと全てを諦めて受け入れ切っていたのだが、そんな響姫の右腕が引っ張られた。
「痛っ!」
響姫は目を見開く。何が起きたのかと思ったが、今度は引き寄せられてしまった。
グンと階段の最上段まで引き寄せられると、腰を抱かれた。
何が起きたのか。瞬きをすると、そこには明輝の顔があった。
「大丈夫響姫! 急に階段から落っこちたら危ないよ?」
「えっ、ど、どうして?」
「どうしてもなにも無いでしょ? 階段から落ちたら怪我をするし、助けられそうだったら全力で助けるでしょ」
明輝は当たり前のことを言っているつもりだった。
けれどそんな当たり前のことができる人はあまり居ない。
響姫は明輝の顔が近くにあるだけでカッコよくて仕方ない。
頬を赤らめてしまうと、引き攣った表情で固まってしまうのだった。
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