VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇398 音楽室の幽霊?

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 「失礼します」と言って第二音楽室の扉を開けた。
 中は眩しくて暗い所から明るい所に出たせいで目を瞑ってしまった。
 しかしすぐに顔を手のひらで半分覆い目を鳴らすと、ピアノの方に視線を向ける。
 するとやはり誰かが弾いているようで、軽快かつ力強い音色が発信されていた。

(やっぱり誰か居た)

 音楽室の幽霊の正体を見た。
 けれど明輝は茫然としてしまい、第二音楽室の中に響く心地の良いピアノの音色に浸ってしまった。
 それは目を瞑るとよく分かる。
 頭の中で真白な雪景色の中、ポツポツと新しく降る雪の粒を全身で浴びるような感覚に似ていた。とは言え、それが決して苦痛に感じさせない。
 むしろイメージを膨らませてくれる音楽の奥深さに達観していたが、ピタッと演奏が止まった。

「ん? 誰」

ふと演奏を止めると顔を上げた。
 ピアノの前に少女は凛とした顔立ちをしている。
 特徴的なのは腰まである長い髪。それから前髪を結うように留められた雪の結晶の髪留め。何処かで見たことがある気がしたが、明輝はあまりピンと来ない。

「もしかして、もう閉める時間なの?」

 閉める時間と言った。
 明輝は驚いて目を見開くと時計を指差しながら説明する。

「ごめん。私、今から帰る所なんだけど、もう七時だから」
「七時? そんな時間になっていたのね」
「えー」

 如何やら集中しすぎていて忘れていたらしい。
 唖然とした顔をしていたが、ふと指先が鍵盤に触れると思い出す。
 視線を落として右往左往するのが少し面白いと明輝は他人事に思った。

「よっぽどピアノが好きなんだね」
「うん。私、音楽が好きだから」
「それじゃあいつもこの時間に?」
「いいえ。ここを使うようになったにはつい最近で、部活終わりに少しだけ使わせてもらっているの。急がないといけないから」

 なにに急いでいるのかは分からないし、気になったけど明輝は踏み込んじゃダメだと思い聴かない。
 だけど少女は自分からハッとなって教えてくれた。

「別に病気じゃないけど」
「そうなんだ。だけど健康には気を付けた方が良いと思うけど?」
「毎日しっかり食事を摂って、睡眠を摂っているから大丈夫。だけど心配してくれてありがとう。ところで」

 少女の視線が明輝に止まった。
 明輝自身も時間だけが緩やかに過ぎていく、謎の歪さを感じた。
 二人はそれ以上話を広げることができず、呆然と立ち尽くして思考放棄していた。
 だけどここは何か話題をと思い、一生懸命頭を使った明輝は絞り出した。

「えっと……」

 そう言えば名前を知らない。
 明輝は呼び方に困ってしまったが、糸を察した少女の方から先に口に出してくれた。

「私は白雪響姫しらゆきひびきっていうの」

 多分同じクラスじゃないから名前を知らなくて当然だ。
 だけど何処かで名前を見たか聞いたかした気がする。
 変に引っかかって取り乱しても良くないので、明輝は一旦切り替えて名前を繰り返し読んだ。

「白雪さん……響姫でもいいかな?」
「構わないけど。貴女は?」
「そう言えば名乗ってなかったね。私は立花明輝。明輝で良いよ」

 明輝も名前予備を推奨した。
 すると響姫は「明輝……覚えたわ」と頷いて納得した。

「ところで明輝はこんな所で何をしていたの?」
「私? 私は図書室の司書の先生に無理やり捕まって本の整理を……」
「本の整理? それは大変ね。だけどここに来た理由には……」
「それは、その……ちょっとした噂があってね」
「噂?」
「うん。でもその正体も分かったからもう良いよ」
「ん? 噂の正体ってなんだったの?」

 明輝はあえて響姫には言わなかった。
 なにせその噂の正体が響姫本人なんてとてもじゃないが言えない。
 グッと押し殺した明輝は、再び時計を見る。
 もう校門が閉まる時間ギリギリだ。急いで帰らないとマズそうだ。

「マズいよ響姫!」
「如何したの? なにがマズいの?」
「もう少しで校門が閉まっちゃうよ。早く出ないと」
「えっ!? あっ、待って。音楽室の鍵……」
「それは明日でも間に合うでしょ。だから急いで帰ろ」

 明輝は響姫の腕を掴んだ。
 すると冷たい肌だったけど、一気に熱が上がって腕が熱くなる。

「響姫、腕熱い……って顔真っ赤? あれ、目の下に隈が……」
「い、いや、その……急に腕を掴まれる、なんて経験ないから。その……」

 慣れないことに緊張していた。
 響姫は可愛かった。何処となく蒼伊みを感じた。
 ちょっと面白くなったけど、今は揶揄っている暇もないので、二人は荷物を持って急いで第二音楽室の電気を消して外に出た。
 烈火もきっと帰っている。いつもとは違うこと放課後を過ごすことになった明輝は、本の整理をしたことを良かったと感じた。
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