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◇392 報酬は懐かしい遊び

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 ギルドホームは静かだった。
 アキラたちはボーッとしていた。
 暖炉の中は火がゴォゴォと燃えていて、薪をドンドン消費している。
 部屋の中が温もり、アキラはポツリと呟いた。

「温かいねー」
「そだねー」

 フェルノが相槌を打ってくれた。
 お互いに机に突っ伏して、外の寒さから遠い存在になる。
 頭の中がポワポワしてしまい、大きな欠伸を掻いてしまった。

「ふはぁー」
「欠伸? もしかして眠いのー?」
「うーん、違うけどこの部屋が温かいからかな?」
「確かに温かいよねー。ねー、Night」
「そうだな」

 フェルノはNightに話を振った。
 淡々とした口調で返答すると、Nightは読んでいる文庫本をパラパラと捲っていた。
 無言で読み進め、数秒で次のページに渡る。速読をしているようで、指先が紙をスライドさせていた。

「それよりも遅いな」
「遅いって誰のことよ」
「雷斬だ。一体いつになったら戻って来るんだ。ここからギルドまで直通だろ」

 部屋には雷斬の姿だけ無かった。
 この間ハゴ・イーターを討伐した報酬を貰いにギルド会館まで行っているのだ。
 少し遅れてログインしているとはいえ、あれから三十分は経っている。にもかかわらず戻ってこないので、何かトラブルに巻き込まれたのではないかと心配にもなった。

「迎えに行ってこよっか?」
「その必要は無いと思うわよ」
「そうかも知れないけど、流石にね……あっ、来たみたいよ」

 ベルが廊下の奥から扉が開く音を聴いた。
 興奮した気配を感じ、リビングにやって来たのは雷斬だった。

「皆さん、少々遅くなってしまい申し訳ございません」

 雷斬はやって来ると、開口一番に謝った。
 けれどアキラもNightも口出しはしない。
 フェルノだけが茶化すみたいに雷斬を煽った。

「雷斬遅かったねー」
「すみません。ですが報酬は無事に受け取って来ましたよ」

 そう言うとインベントリの中からアイテムを取り出す。
 どんな報酬なのか楽しみにしていたアキラたちは雷斬が机の上に置いたものを見て驚愕した。

「えっと、コレは何?」
「羽子板のようだが……如何言うことだ?」

 アキラとNightは口々にそう呟く。
 すると雷斬は自信なさそうに答える。
 如何やら言い訳を考えていたようだが、雷斬のせいではない。とは言え、まさかコレが報酬だとは思ってもみなかったらしい。

「こちらは羽子板です。その、ハゴ・イーター討伐の報酬は羽子板とこの羽根のようですね」

 机の上には確かに二枚の羽子板。それからムクジロと言う植物で作られた羽根が一つ。
 アキラは一つ手に取ってみた。当然ながら羽子板で遊んだことはない。
 意外に重みがあることに驚きつつ、ポンポンと羽根突きをしてみた。

「うぉっ! 結構難しいね」
「上手ですよアキラさん」
「ありがとう。でも如何して羽子板だったのかな?」
「うーん、ハゴ・イーターだからじゃないのー?」
「そんな単純な理由なのかな?」

 とは言え羽根突きで遊んだことはない。
 アキラはNightに声を掛けてみた。

「Night、一緒に遊ばない」
「それはいいが、お前たちは如何するんだ?」

 ここには羽子板が二枚しかない。つまり二人でしか遊べない。
 ただ見ているだけなんてきっとつまらないはずだ。
 そんな中、雷斬はインベントリから何かを取り出す仕草をする。

「こんなこともあろうかと思って用意しておいた甲斐がありましたね」

 そう言うと大量の懐かしいおもちゃが出てきた。
 けん玉、お手玉、メンコに、凧揚げ。とにかく大量の正月おもちゃが勢揃いする。

「凄い。もしかして集めておいたの?」
「いいえ、今集めて来たんです」
「今って、もしかしてコレを集めるために奔走していたの? はぁー、それなら私も手伝ったのに、如何して言わないのよ」
「すみません。ベルのお手数を煩わせるわけには……」
「親友なんだからそう言うのは良いのよ。それで外に出て遊ぶの?」
「そうですね。リビングでは危ないので行きましょうか」

 アキラたちは外に出て遊ぶことにした。
 昔ながらのおもちゃで遊ぶことなんて今の時代では考えにくい。
 特にここにあるのは正月遊びだ。アキラたちはそれぞれ楽しむことにした。
 意外に楽しかったし、体を動かすことができて満足だった。

「行くよ、Night!」
「あー」
「それっ!」

 アキラは羽子板で羽根を打った。
 変な起動を描いてNightの方に飛んで行くが、羽根を的確に打ち返す。
 アキラも走って取りに行き、羽根を打ち返す。しっかりとリレーができていた。

「Night、楽しい?」
「そうだな。こんなこと普段はしないからな。貴重な体験だ」
「もしかしたらハゴ・イーターって」
「おそらくな」

 アキラたちはようやく気が付いた。
 ハゴ・イーターの存在。それは今の時代の人たちが忘れてしまった昔のおもちゃを広めることで、懐かしさやまだ見ぬ発見をして欲しいという運営側の意図が隠されているのではないかと。とは言えいかんせんハゴ・イーターが強すぎたのは、改善して欲しいと思う苦言でもあった。
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