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◇391 呆気ないハゴ・イーター
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ワイヤーの群れを掻い潜り、木々の合間を抜けた雷斬が駆け戻る。
滑り込むようにして前屈みに倒れ込んだ。
足は滑り、息も荒げている。肩を上下にさせながら、胸を押さえていた。
「はぁはぁはぁはぁ……やりましたよ」
「お疲れ、ベル。後は二人に任せましょう」
「そうですね。ですが……」
雷斬は振り返った。
ワイヤーの群れにハゴ・イーターは引っかかっている。
大口を開いていたせいか、牙にワイヤーが食い込んでしまっていた。
そのせいで身動きが取れず、左右に藻掻いている。流石に可哀そう、そう思った雷斬だったが、あくまでも一瞬の迷いだった。
すぐにハゴ・イーターは真価を発揮し始める。
「行くよ、Night!」
「分かっている」
アキラは【キメラハント】で武装していた。
Nightも十字架剣を振り下ろし、ハゴ・イーターを真っ二つにしようとした。
しかしハゴ・イーターもただではやられてくれないようで、大口を使えないものの、掃除機の強ばりの吸引力を見せつけ、周囲の枝々を飲み込み始める。
「ちょっと待って! そんなことしないでよっ!」
「ワイヤー線を切らせてたまるか!」
枝でワイヤーが切られるのを阻止するべく、アキラとNightは攻撃の手を止めない。
全身が強固な気で出来ているせいか、叩くと反動でアキラとNightの腕に衝撃が走る。
軽い音と思って侮っていると、Nightは苦い表情を浮かべた。
当たり所が悪かったようで、指が痺れていた。ここに来て、筋力不足が響いてしまう。
「くっ。面倒なモンスターだ」
「そうだけど倒さないと。三人は頑張ってくれたんだよ!」
「だが……マズい!」
吸引力で吸い寄せられたのは枝だけではなかった。
遠くの方で落ちていた丸太を引き寄せて来たのか、分厚い幹が空から降って来る。
Nightは【ライフ・オブ・メイク】を発動し、咄嗟に地面から壁を生やした。
丸太は弾いたものの、ハゴ・イーターと距離ができてしまった。
「マズいな。この壁を一旦……」
「その必要は無いよー」
背後からフェルノの声がした。
全身を竜化して武装している。炎が噴き出していて、近く居るだけで燃え移ってしまいそうだ。
けれど、今はそれが何よりも頼もしい。戻って来たフェルノは素早くジャンプして、壁を乗り越えハゴ・イーターの背中に乗っかった。
「フェルノ!」
「コイツを破壊すればいいんでしょー。簡単だよー。せやっ!」
【吸炎竜化】の炎がいつも以上に揺らめいていた。
ハゴ・イーターの吸引力に炎が少し食べられている。
けれどそんなことすら気にせずに、背中の板を殴りつける。
炎が引火して、ハゴ・イーターの体が燃え始めると、右往左往して転げ回る。
ゴロンゴロン! ゴロンゴロン!
ワイヤーが何本か切られた。その挙句、勇ましく躍り出たフェルノも背中から落とされた。
近くの木の幹に背中を叩きつけられる。苦しい表情を浮かべていた。
流石に当たり所が悪かったのか、「痛いなー」と苦言を呈した。
「フェルノ! ヤバいよ。このまま暴れられたら……ん?」
アキラは目を凝らした。
ハゴ・イーターの背中。丁度フェルノが殴り付けた場所に黒い痕が残っていた。
炎は消えている。しかし一部が黒い墨に変わり、少し脆くなっていた。
おまけに丁度真ん中辺り。板の木目だと気が付けたので、もしかしたらと空を眺めた。
「まさか……いや、行ける!」
アキラは確信をもって飛び込んだ。
暴れ狂うハゴ・イーターを弱った雷斬と仕事を終えたベルが相手している。
その隙を突き背中に乗っかった。暴れ狂うせいで振り落とされそうになるが、【灰爪】を突き刺して体を固定した。
「アキラさん!」
「なにやってるのよ。そんなことされたら当たっちゃうでしょ!」
二人の声が厳しく刺さる。
しかしアキラは無視し、【甲蟲】で武装した黒い墨に叩き込んだ。
バキッ!
甲高い音が聴こえた。
なにかと思ったのも一瞬、ハゴ・イーターの体が板の木目から裂けたのだ。
あまりに突然のことで、アキラ達は目を見開く。
「いや、嘘でしょ! ぐへっ」
アキラは地面にお腹から叩きつけられた。
受け身が上手く取れない高さで、急な吐き気を催した。
けれど無事に倒すことはできた。だけどこんなにあっさりだとは思わず、ここまでの苦労は何だったのかと拍子抜けしてしまった。
「た、倒せたよね?」
「倒せたけど……嘘でしょ。こんなに弱点多かったの?」
「私たちは大口にばかり気を取られていたみたいですね」
「私たち、馬鹿見たってことね。はぁ、なんだかね」
終わってみれば呆気なかった。
アキラたちは苦労のした分達成感を得られると思っていた。
けれど狙っていた達成感は程遠く、全身から溢れ出る疲労感に苛まれる次第だった。
「でも、これで報酬は手には入るもんね」
「そうですね。恐らくは誰かのドロップアイテムに含まれているはずですよ」
雷斬はそう答えた。
全員インベントリを確認する。珍しいものは無いかと探すと、見慣れない名前のアイテムが入っていた。
羽子板の羽と言う名前で、レア感が全く無い。
けれどハゴ・イーターには関連していたので、もしかしたらと薄ら笑みを浮かべてしまった。
滑り込むようにして前屈みに倒れ込んだ。
足は滑り、息も荒げている。肩を上下にさせながら、胸を押さえていた。
「はぁはぁはぁはぁ……やりましたよ」
「お疲れ、ベル。後は二人に任せましょう」
「そうですね。ですが……」
雷斬は振り返った。
ワイヤーの群れにハゴ・イーターは引っかかっている。
大口を開いていたせいか、牙にワイヤーが食い込んでしまっていた。
そのせいで身動きが取れず、左右に藻掻いている。流石に可哀そう、そう思った雷斬だったが、あくまでも一瞬の迷いだった。
すぐにハゴ・イーターは真価を発揮し始める。
「行くよ、Night!」
「分かっている」
アキラは【キメラハント】で武装していた。
Nightも十字架剣を振り下ろし、ハゴ・イーターを真っ二つにしようとした。
しかしハゴ・イーターもただではやられてくれないようで、大口を使えないものの、掃除機の強ばりの吸引力を見せつけ、周囲の枝々を飲み込み始める。
「ちょっと待って! そんなことしないでよっ!」
「ワイヤー線を切らせてたまるか!」
枝でワイヤーが切られるのを阻止するべく、アキラとNightは攻撃の手を止めない。
全身が強固な気で出来ているせいか、叩くと反動でアキラとNightの腕に衝撃が走る。
軽い音と思って侮っていると、Nightは苦い表情を浮かべた。
当たり所が悪かったようで、指が痺れていた。ここに来て、筋力不足が響いてしまう。
「くっ。面倒なモンスターだ」
「そうだけど倒さないと。三人は頑張ってくれたんだよ!」
「だが……マズい!」
吸引力で吸い寄せられたのは枝だけではなかった。
遠くの方で落ちていた丸太を引き寄せて来たのか、分厚い幹が空から降って来る。
Nightは【ライフ・オブ・メイク】を発動し、咄嗟に地面から壁を生やした。
丸太は弾いたものの、ハゴ・イーターと距離ができてしまった。
「マズいな。この壁を一旦……」
「その必要は無いよー」
背後からフェルノの声がした。
全身を竜化して武装している。炎が噴き出していて、近く居るだけで燃え移ってしまいそうだ。
けれど、今はそれが何よりも頼もしい。戻って来たフェルノは素早くジャンプして、壁を乗り越えハゴ・イーターの背中に乗っかった。
「フェルノ!」
「コイツを破壊すればいいんでしょー。簡単だよー。せやっ!」
【吸炎竜化】の炎がいつも以上に揺らめいていた。
ハゴ・イーターの吸引力に炎が少し食べられている。
けれどそんなことすら気にせずに、背中の板を殴りつける。
炎が引火して、ハゴ・イーターの体が燃え始めると、右往左往して転げ回る。
ゴロンゴロン! ゴロンゴロン!
ワイヤーが何本か切られた。その挙句、勇ましく躍り出たフェルノも背中から落とされた。
近くの木の幹に背中を叩きつけられる。苦しい表情を浮かべていた。
流石に当たり所が悪かったのか、「痛いなー」と苦言を呈した。
「フェルノ! ヤバいよ。このまま暴れられたら……ん?」
アキラは目を凝らした。
ハゴ・イーターの背中。丁度フェルノが殴り付けた場所に黒い痕が残っていた。
炎は消えている。しかし一部が黒い墨に変わり、少し脆くなっていた。
おまけに丁度真ん中辺り。板の木目だと気が付けたので、もしかしたらと空を眺めた。
「まさか……いや、行ける!」
アキラは確信をもって飛び込んだ。
暴れ狂うハゴ・イーターを弱った雷斬と仕事を終えたベルが相手している。
その隙を突き背中に乗っかった。暴れ狂うせいで振り落とされそうになるが、【灰爪】を突き刺して体を固定した。
「アキラさん!」
「なにやってるのよ。そんなことされたら当たっちゃうでしょ!」
二人の声が厳しく刺さる。
しかしアキラは無視し、【甲蟲】で武装した黒い墨に叩き込んだ。
バキッ!
甲高い音が聴こえた。
なにかと思ったのも一瞬、ハゴ・イーターの体が板の木目から裂けたのだ。
あまりに突然のことで、アキラ達は目を見開く。
「いや、嘘でしょ! ぐへっ」
アキラは地面にお腹から叩きつけられた。
受け身が上手く取れない高さで、急な吐き気を催した。
けれど無事に倒すことはできた。だけどこんなにあっさりだとは思わず、ここまでの苦労は何だったのかと拍子抜けしてしまった。
「た、倒せたよね?」
「倒せたけど……嘘でしょ。こんなに弱点多かったの?」
「私たちは大口にばかり気を取られていたみたいですね」
「私たち、馬鹿見たってことね。はぁ、なんだかね」
終わってみれば呆気なかった。
アキラたちは苦労のした分達成感を得られると思っていた。
けれど狙っていた達成感は程遠く、全身から溢れ出る疲労感に苛まれる次第だった。
「でも、これで報酬は手には入るもんね」
「そうですね。恐らくは誰かのドロップアイテムに含まれているはずですよ」
雷斬はそう答えた。
全員インベントリを確認する。珍しいものは無いかと探すと、見慣れない名前のアイテムが入っていた。
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