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◇390 雷は音よりも速し
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アキラは心配だった。それでも隣にいるベルは信じていた。
雷斬とフェルノなら上手くやってくれる。
親友の雷斬が最も危険な役回りを率先しているのだ。信じる以外に、できることはない。
そう思っているようで、アキラもフェルノと雷斬なら上手く行くと想像した。
「ベル、弓を構えておくの?」
「当たり前よ。それよりアキラ、Night。二人はここで絡め取ったハゴ・イーターを倒せるように準備をして置いて」
「分かった」
「うん。頑張ってね、雷斬、フェルノ!」
アキラはそう声を掛けた。
きっと届くことはないと分かっていながらも、アキラとNightは木々の裏に隠れた。
雷斬は雪の草原に立っていた。
一人ポツンと空を見上げ、ハゴ・イーターが来るのを待つ。
少し離れた所にはフェルノが待機していた。
足を伸ばし、準備運動をしている。
「フェルノさんも準備万端ですね。それでは後は当のハゴ・イーターが来るのを待つだけ……来ましたね」
急に風の強さが変わった。
激しい風が嵐を巻き起こし、三度その姿を翻す。
空を見上げれば目視で黒い塊が近付いて来ていた。
如何やらハゴ・イーターは雷斬のみを標的とみなし、急降下して来ていた。
「近づいて来た瞬間が勝負ですね。ふぅ……【雷鳴】!」
雷斬の体がバチバチと電気を放つ。
すぐにでも走れるように体勢を整えると、すぐ近くでブーン! と羽をはためかせる音がした。
もう少し、すぐ後ろ。嵐を巻き起こし、雷斬の周りを取り巻く。
全身がヒリヒリする。電気と風の二つが混ざり合い、雷斬のことを飲み込もうとするのだ。
それさえも雷斬は軽く一蹴し、何事もない自然の情景として取り留めなく感じると、背中を掃除機で吸われるよう名感覚に苛んだ。
「来たっ!」
雷斬は首だけ振り返った。そこにはハゴ・イーターの姿がある。
今か今かと大口を開き、雷斬のことを飲み込もうと暗黒世界が手招きをする。
しかしそんな揺動にはなる気はなく、Nightから預かっていた別のワイヤーを投げつけると、ハゴ・イーターの体に纏わり付けた。
「これで良いですね。後は……駆けます!」
雷斬はドン! と地面を蹴り上げると、勢い良く駆け出した。
全身を雷が包み込み、一瞬でハゴ・イーターから距離を取る。
本来ならこれでハゴ・イーターは諦めて、再び大空へと戻ってしまう。
けれど今回は違った。ハゴ・イーターは大空へ戻りたがるが、雷斬が巻き付けたワイヤーに引っ張られてしまい上手く急上昇できず、真っ直ぐ飛ぶ羽目になった。
「付いて来てくれていますね。重たいです」
ワイヤーを腕に巻き付けてひたすらに走る雷斬。
腕にずっしりとした重みを感じ、今にも引っ張られてしまいそうだった。
それに同じく、背中を飲み込まれそうな感覚がある。立ち止まっている余裕は無く、振り返ることなく全力で走るだけだった。
「さあ付いて来てください。貴方にはここで散って貰います!」
雷斬は勇ましく自分の役目を全うしようとしていた。
しかしハゴ・イーターはそれを簡単には許してくれない。
真っ直ぐ飛んでいるように見せ、少しずつ傾斜が付いていく坂を上昇するためのエネルギーへと変換し、羽を高速で動かすことでワイヤーを切ってしまおうと画策する。
雷斬もそのことに気が付いており、より一層前脚の踏み込みに力を入れた。
「こんな所で引き千切られるわけにはいきません。雷は音よりも速いんですよ」
雷斬は【雷鳴】を呼び寄せ、瞬く間に音を置き去りにした。
けれど雷斬は違和感を感じた。
体が少し浮いてしまい、力が抜けていく。不思議な感覚になったものの、如何やらハゴ・イーターが上空に急上昇しようとしているのだ。
「急上昇ですか。それはかなり堪えますね……」
雷斬もこれ以上は【雷鳴】が持ちそうにないことを受け、かなり切羽詰まっていた。
その上ハゴ・イーターは急上昇を続ける。
これ以上はもう地に足が付かないだろう。そう思った瞬間、真上をギュン! と鮮烈な音と共に、一筋の矢が空気を震わせた。
「あの弓矢は……ベル!?」
「待ってました!」
すぐ近くでフェルノの声も聴こえる。
雷斬は視線を逸らすと、頭上が急に熱を帯び出した。
ハゴ・イーターも熱を感知したのか、急上昇を止める。
なにが起きたのか。冷静に考え、頭を使う。恐らくベルが射た矢によって空気が乱れ、そこにフェルノが炎を灯した。
空気が炎を荒ぶらせ、熱を生み出すと、雷斬は気持ちを高めた。
胸が苦しくて仕方なく、右手で心臓の当たりを押さえる。
(苦しいですね。ですが、これだけ皆さんの期待があるんです。私は負けません。やるべきことを果たします!)
雷斬は息苦しくなる中、それでも走り抜ける。
ふと視線を前に向けると、ワイヤーを張った木の幹が見えた。
隣には弓を下ろしたベル。その奥には二つの人影、アキラとNightだ。
如何やら目的を果たしたようで、雷斬は最後の一踏ん張りと言うべきだろう。ラストスパートを決めると、ワイヤー群の中に体を窄めて飛び込んだ。
雷斬とフェルノなら上手くやってくれる。
親友の雷斬が最も危険な役回りを率先しているのだ。信じる以外に、できることはない。
そう思っているようで、アキラもフェルノと雷斬なら上手く行くと想像した。
「ベル、弓を構えておくの?」
「当たり前よ。それよりアキラ、Night。二人はここで絡め取ったハゴ・イーターを倒せるように準備をして置いて」
「分かった」
「うん。頑張ってね、雷斬、フェルノ!」
アキラはそう声を掛けた。
きっと届くことはないと分かっていながらも、アキラとNightは木々の裏に隠れた。
雷斬は雪の草原に立っていた。
一人ポツンと空を見上げ、ハゴ・イーターが来るのを待つ。
少し離れた所にはフェルノが待機していた。
足を伸ばし、準備運動をしている。
「フェルノさんも準備万端ですね。それでは後は当のハゴ・イーターが来るのを待つだけ……来ましたね」
急に風の強さが変わった。
激しい風が嵐を巻き起こし、三度その姿を翻す。
空を見上げれば目視で黒い塊が近付いて来ていた。
如何やらハゴ・イーターは雷斬のみを標的とみなし、急降下して来ていた。
「近づいて来た瞬間が勝負ですね。ふぅ……【雷鳴】!」
雷斬の体がバチバチと電気を放つ。
すぐにでも走れるように体勢を整えると、すぐ近くでブーン! と羽をはためかせる音がした。
もう少し、すぐ後ろ。嵐を巻き起こし、雷斬の周りを取り巻く。
全身がヒリヒリする。電気と風の二つが混ざり合い、雷斬のことを飲み込もうとするのだ。
それさえも雷斬は軽く一蹴し、何事もない自然の情景として取り留めなく感じると、背中を掃除機で吸われるよう名感覚に苛んだ。
「来たっ!」
雷斬は首だけ振り返った。そこにはハゴ・イーターの姿がある。
今か今かと大口を開き、雷斬のことを飲み込もうと暗黒世界が手招きをする。
しかしそんな揺動にはなる気はなく、Nightから預かっていた別のワイヤーを投げつけると、ハゴ・イーターの体に纏わり付けた。
「これで良いですね。後は……駆けます!」
雷斬はドン! と地面を蹴り上げると、勢い良く駆け出した。
全身を雷が包み込み、一瞬でハゴ・イーターから距離を取る。
本来ならこれでハゴ・イーターは諦めて、再び大空へと戻ってしまう。
けれど今回は違った。ハゴ・イーターは大空へ戻りたがるが、雷斬が巻き付けたワイヤーに引っ張られてしまい上手く急上昇できず、真っ直ぐ飛ぶ羽目になった。
「付いて来てくれていますね。重たいです」
ワイヤーを腕に巻き付けてひたすらに走る雷斬。
腕にずっしりとした重みを感じ、今にも引っ張られてしまいそうだった。
それに同じく、背中を飲み込まれそうな感覚がある。立ち止まっている余裕は無く、振り返ることなく全力で走るだけだった。
「さあ付いて来てください。貴方にはここで散って貰います!」
雷斬は勇ましく自分の役目を全うしようとしていた。
しかしハゴ・イーターはそれを簡単には許してくれない。
真っ直ぐ飛んでいるように見せ、少しずつ傾斜が付いていく坂を上昇するためのエネルギーへと変換し、羽を高速で動かすことでワイヤーを切ってしまおうと画策する。
雷斬もそのことに気が付いており、より一層前脚の踏み込みに力を入れた。
「こんな所で引き千切られるわけにはいきません。雷は音よりも速いんですよ」
雷斬は【雷鳴】を呼び寄せ、瞬く間に音を置き去りにした。
けれど雷斬は違和感を感じた。
体が少し浮いてしまい、力が抜けていく。不思議な感覚になったものの、如何やらハゴ・イーターが上空に急上昇しようとしているのだ。
「急上昇ですか。それはかなり堪えますね……」
雷斬もこれ以上は【雷鳴】が持ちそうにないことを受け、かなり切羽詰まっていた。
その上ハゴ・イーターは急上昇を続ける。
これ以上はもう地に足が付かないだろう。そう思った瞬間、真上をギュン! と鮮烈な音と共に、一筋の矢が空気を震わせた。
「あの弓矢は……ベル!?」
「待ってました!」
すぐ近くでフェルノの声も聴こえる。
雷斬は視線を逸らすと、頭上が急に熱を帯び出した。
ハゴ・イーターも熱を感知したのか、急上昇を止める。
なにが起きたのか。冷静に考え、頭を使う。恐らくベルが射た矢によって空気が乱れ、そこにフェルノが炎を灯した。
空気が炎を荒ぶらせ、熱を生み出すと、雷斬は気持ちを高めた。
胸が苦しくて仕方なく、右手で心臓の当たりを押さえる。
(苦しいですね。ですが、これだけ皆さんの期待があるんです。私は負けません。やるべきことを果たします!)
雷斬は息苦しくなる中、それでも走り抜ける。
ふと視線を前に向けると、ワイヤーを張った木の幹が見えた。
隣には弓を下ろしたベル。その奥には二つの人影、アキラとNightだ。
如何やら目的を果たしたようで、雷斬は最後の一踏ん張りと言うべきだろう。ラストスパートを決めると、ワイヤー群の中に体を窄めて飛び込んだ。
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