上 下
364 / 568

◇362 この時期に焼き芋を焼いてみよう

しおりを挟む
 冬休みのある日。
 もうじき学校が始まる中、明輝と烈火は二人揃って神社に居た。
 何故か神社の境内で竹箒で落ち葉を集め、燃えやすいように固めておく。

「こんな感じかな?」
「良いんじゃない? んじゃ、後はコレを入れてーっと」

 烈火はサツマイモをアルミホイルでくるんでいた。
 数は二つ。それなりに良いサイズで、集めた落ち葉の中に放り込む。
 それから落ち葉の中に少し空洞を入れると、明輝はマッチを点けて落ち葉を燃やした。
 小さな赤い火花が上がり、素早くパチパチと火種が燃え始めた。

「「おお」」

 二人はちょっと感激した。
 まさかこの時期、この時間にこんな真似をすることになるとは思いもよらなかった。
 それもそのはず、こうなることを予期していなかった。
 正直、サツマイモを食べる想定の口を今日は持って来ていない。

「でも何でこんなことになったんだろ」
「仕方ないよー。まさか近所の人たちがここまで餅つき大会に興味があるとは思わなかったからー」
「そうだよね。いっつもやってなかったのに、突然だったもんね。でも、突然のことにもこんな風に楽しく集まれるなんて、いい感じの街だよね」

 明輝たちは近所で開催された餅つき大会に参加していた。
 お餅をついてみんなに配って食べるお祭りだ。
 明輝も烈火に誘われて参加したのだが、てっきり餅を食べられるものだと思っていた。
 しかし餅つきをしたのは良い経験だったけど、残念なことが起こった。
 まさかの集まった人が多すぎて、丁度明輝と烈火の分が回ってこなかった。

「それで急遽捻り出した苦肉の策が秋に収穫して余っていたサツマイモ」
「でも美味しいから良いでしょー」
「うん。焼き芋は嫌いじゃないからね」

 神社の神主のお爺さんがサツマイモを出してくれた。
 しかもマッチとアルミホイルを手渡して、「境内に落ち葉が落ちているから集めて焼き芋にすると美味しいんじゃよ」と言ってくれた。
 これはするしかない的な空気が立ち込めていたので、餅つき大会が終わった後、アキラたちだけがこうして残り、許可を貰った後に焼き芋をしていた。
 何だかこの空気感、この冬の寒空の下と言うこともあり、とても風情があった。

「風情あるよね」
「風情? あるあるー。だってこんな寒い日の下、しかも神社の境内。何かそれっぽいって言うか、やり切った後って感じがするんだよねー」

 それにしても高校生になって焼き芋。しかもこうした昔ながらのやり方をすることになるとは思わなかった。
 もっと簡単に、鍋に水を引いて蒸かしたり、機械に入れて終わりじゃない。
 
落ち葉を集める労力のおかげで境内は綺麗になった。
 しかも秋空じゃなく冬空の焼き芋。
 これ以上変わったことはないと、明輝と烈火は思う。

「にしても良かったよねー。明輝がマッチ点けられて」
「簡単だよ。小学校の理科の授業でもやったでしょ?」
「やったかもだけど、咄嗟に、しかも一発でさー。やっぱりお母さんから教わった的な?」
「ま、まあね」

 まさかこんな風に役に立つとは思わなかった。
 だけどそのおかげで焼き芋ができている。
 せめてライターだったらもっと楽だったのにと、烈火は自分のできることが少なすぎてちょっと退屈な目をしていた。

「もうそろそろ焼き上がるんじゃないかな?」
「如何して分かるのー?」

 烈火は木の棒を手にして落ち葉の中を突いてみる明輝に尋ねた。
 すると中に入っているサツマイモが少し見えるように落ち葉を避けた。
 幾つか穴が空いていた。如何やら硬さを確かめているらしい。

「こうやって突いてみたら分かりやすいんだよ。硬かったら刺さらないからね」
「なるほどー。私、料理なんて全然しないから」
「これくらいは簡単だよ」

 とは言え、ボコボコ穴を増やしたりはしない。
 適度に突いてみる程度で、アルミホイルが剥がれないように気を付けた。

「うん。もう焼けたね」
「それじゃあ食べよっかー」

 火で温まりながら、アルミホイルに巻かれたサツマイモを取り出す。
 完全にホクホクの焼き芋が完成していて、明輝と烈火は半分に割ってみた。

「うわぁ、トロットロだ!」
「ホクホクでトロトロ。こんなの絶対美味しいよー」

 明輝と烈火はホクホクでトロトロになった黄色い果肉を見た。
 口の中に運ぶと、一気に味が解ける。
 旨味成分が爆発して、冬の寒さも相まって、美味しさに酔いしれた。

「美味しいねー」
「うん」
「でもさー。やっぱり餅が食べたかったよねー」
「まだそれで言うんだ。もう良いでしょ? おかげで焼き芋が食べられたんだから」
「まあ、そう何だけどねー。口は餅を食べる口になっていたからさー、うーん」

 烈火はムッとした表情を浮かべるも、「まあいっか」と言って焼き芋を頬張る。
 その姿を見た明輝はふと思った。

「そう言えば烈火もマッチ使えたよね?」
「うん、そうだよ」
「さっきは何で使えないみたいなこと言ったの?」
「その方が面白そうだから?」
「いや、面白くはないでしょ?」

 煽てられても明輝はそんなに嬉しくはなかった。
 冬の寒空の中、冬休みは終わりへと向かっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜

雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。 剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。 このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。 これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は 「このゲームをやれば沢山寝れる!!」 と言いこのゲームを始める。 ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。 「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」 何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は 「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」 武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!! ..........寝ながら。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...