上 下
345 / 575

◇343 今日中に釣り上げないと

しおりを挟む
 「と言うことで最終部になっちゃったけど……」
「今日こそは釣るぞー! もう邪魔をするモンスターも居ないもんねー」

 一月七日。いよいよ最終日になってしまった。
 今日中に龍の髭を入手しないとイベント終了。何の成果も……じゃないが、目的が達成できなくなってしまう。流石にここまで費やしたのなら成功したい。そう思う気持ちが行動力の源になって、継ぎ接ぎパッチワークのメンバーは全員集合だった。

「昨日の余韻も堪能できませんね」
「昨日は昨日だよー」
「そうは言うが、レッド・キャットフィッシュはかなり強敵だったはずだが……レベルも高かったぞ」
「たったの55でしょ?」
「うっ……いいか、いまレベルが一番低いのはお前なんだぞ?」

 勿論レベル差なんて覆して当たり前。
 だけどみんな50レベル越えの中、フェルノだけは今だ48。
 たった6レベル差だったけれど、それ不相応にレッド・キャットフィッシュは強かったのだ。

「確かに強かったけど、水を得た魚から水を奪っちゃったら大丈夫でしょ?」
「あっ、上手いこと言ったね!」
「えへへー。ありがとうー」

 フェルノをアキラは褒めた。
 少し恥ずかしそうに頭を掻くと、インベントリの中から釣竿を取り出す。
 ここで話は一旦区切って、今日の予定をNightが頃合いを見て話し出した。

「とりあえずだが、龍の髭を入手するにはこの池で釣りをするしかない。しかもスポットはかなり限定的だ。これまで通りのやり方をしても通用しないだろうな」
「それじゃあ如何するの?」
「本来は最善ではないだろうが、各々が釣れそうな場所で粘る。以上だ」
「「「雑」」」

 Nightにしては雑な提案だった。
 しかしこの雑案を提出したのはもちろんNightではない。
 アキラが何となくで呟いたものをNightが代弁してくれたのだ。

「仕方ないだろ。これしか手段は無いんだ」
「それは……そうですよね」
「雷斬も詰まるのね。まあ、Nightの口から言われると違和感あるわね」
「黙れ」
「「はい」」

 面白そうにNightを揶揄っていた。
 だけど黙るように言われたので二人はひとまず押し黙る。
 これ以上話を広げる気が無かったようで、コホンと咳払いをした。

「とにかくだ。今日中に釣り上げないと終わりになる。以上……理解したな」
「「「はーい!」」」
「園児か」

 あまりにも屈託のない笑顔だったせいで、Nightは引いてしまった。
 とは言え笑顔を向けるだけで、これからやることは根気のいる作業。
 もっと言えば果たして達成できるかも分からないので、粘るか見切りをつけるか、本当に些細なことだが、それが試されている気がしたNightだった。

「それで、お前たちは何処に行くんだ?」
「何処にって……決めてないけど」

 正直この池の幅がどれほどのものかは判っていない。
 たくさんの川に繋がっていることは確かで、何処までが池判定かも定かではない。
 そんな中、雷斬とベルは次々言葉を交わした。

「私は西に行ってみます。中域にまで行けば何かあるかもしれません」
「それじゃあ私は北に行ってみるわ。川の流れが速い方が激流に飲まれても耐えられる魚が居るかもしれないわ」
「そうか。それじゃあ私は南にでも行ってみるか。緩やかな川の中も探していないからな」

 Nightも合わせて行ってみる場所を決めた。
 残るはこの辺り周辺と、東寄りだけど……先にフェルノが手を挙げた。

「はいはーい! 私は昨日、ここの主? を倒したから、ここは任せてよ。責任くらいは取るから」

 フェルノはアレを責任と感じていた。
 実は昨日、レッド・キャットフィッシュを倒した後に釣り糸を垂らしてみた。だけど何も釣れない結果に終わった。
 水温を急激に上げ過ぎた結果、モンスターも普通の魚も逃げてしまった。
 そのことを気にしてしまっているせいで、名誉挽回を測る。

「ってことは、私が東に行ったら丁度良いのかな?」
「そうだな」

 とは言え一番謎なのは東だ。だって東側は他の方位と異なっていて、地図上にもあまり映っていない。
 これが一体何を意味するか。もちろん、怖いのだ。

「ううっ……東側。ちょっぴり不気味だよ」
「それじゃあ私が変わりましょうか?」

 雷斬がアキラの身を気にして申し出てくれた。
 だけどそんなことをいちいち気にしてはいけない。
 アキラは自分自身を奮い立てて、「ううん」と答えた。

「大丈夫だよ。とりあえず行ってみるから」
「そうですか? ですが気を付けてくださいね」
「気を付ける?」
「あー、なるほどね。確かに気を付けないとダメそうよね」

雷斬とベルが少し怖いことを言った。
しかし二人の言うことは悪魔も地図上から見て、何も情報が無いことを危惧してだ。
おまけにNightも追い打ちを掛ける。

「そうだな。東側は何があるか分からない」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ。一応行くけど……」

 アキラはこれから自分が行く方向をもう一回チラ見した。
 何だか不気味な雰囲気があり、今にも霧が立ち込めそうだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ゴブリンに棍棒で頭を殴られた蛇モンスターは前世の記憶を取り戻す。すぐ死ぬのも癪なので頑張ってたら何か大変な事になったっぽい

竹井ゴールド
ファンタジー
ゴブリンに攻撃された哀れな蛇モンスターのこのオレは、ダメージのショックで蛇生辰巳だった時の前世の記憶を取り戻す。 あれ、オレ、いつ死んだんだ? 別にトラックにひかれてないんだけど? 普通に眠っただけだよな? ってか、モンスターに転生って? それも蛇って。 オレ、前世で何にも悪い事してないでしょ。 そもそも高校生だったんだから。 断固やり直しを要求するっ! モンスターに転生するにしても、せめて悪魔とか魔神といった人型にしてくれよな〜。 蛇って。 あ〜あ、テンションがダダ下がりなんだけど〜。 ってか、さっきからこのゴブリン、攻撃しやがって。 オレは何もしてないだろうが。 とりあえずおまえは倒すぞ。 ってな感じで、すぐに死ぬのも癪だから頑張ったら、どんどん大変な事になっていき・・・

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

世紀末ゾンビ世界でスローライフ【解説付】

しおじろう
SF
時は世紀末、地球は宇宙人襲来を受け 壊滅状態となった。 地球外からもたされたのは破壊のみならず、 ゾンビウイルスが蔓延した。 1人のおとぼけハク青年は、それでも のんびり性格は変わらない、疲れようが 疲れまいがのほほん生活 いつか貴方の生きるバイブルになるかも 知れない貴重なサバイバル術!

処理中です...