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◇342 レッド・キャットフィッシュの最後

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「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 アキラと雷斬は網に繋がっているワイヤーから振動が伝わった。
 それから池の中に引きずり込まれ、全身がびしょ濡れになった。

「はぁはぁ……雷斬、大丈夫!」
「私は大丈夫ですが……一体何が起きて……はっ!」
「雷斬? って、何でこんな所にナマズが居るの!」

 足元から巨大な口が突き上げる。
 吸引力で飲み込まれそうになる中、アキラは【甲蟲】を発動して叩きつける。

「そりゃぁ!」

 レッド・キャットフィッシュの顔目掛けて拳を叩きつけた。
 しかし水の中のせいもあって拳の威力が完全に殺された。
 そのせいで怯ませることはできたけど、HPバーは全く削れていない。

「はぁはぁ……動き辛い……」
「アキラさん、一旦岸に上がりましょう!」

 水の中で体力が奪われる。
 寒々しい水の水温がアキラと雷斬のHP以外も酷使させ、動きを制限していた。
 このままじゃマズいと思ったのか、長いロープが降りてきた。

「「はっ!?」」
「二人共登れるか?」

 Nightが木の幹にロープを巻き付けてくれていた。
 しかも登りやすいように滑り止めがしてある上に、ロープ自体が少し太いので足が掛けやすい。

「ありがとうNight。雷斬、登ろ!」
「アキラさん先に行ってください。私は筋力があるので大丈夫です」

 雷斬の言葉に甘えることにした。
 アキラはロープを掴むと【甲蟲】と【月跳】と使って颯爽と登っていく。
 その後ろを雷斬が続くと、何とか全員木の上に避難できた。たった一人、フェルノを除いて。

「フェルノ、大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。みんなが頑張ってくれ多分、私も頑張らないとねっ!」

 フェルノは拳を合わせた。熱が発生し、炎に変わると両腕が竜になる。
 しっかりと体勢を落として構えを取ると、レッド・キャットフィッシュが飛び出すのを待つ。
 流石に逃げ道が塞がれているので悠々とは泳げず、水神池の三分の一もないスペースを窮屈そうに泳ぎ回り、フェルノの方から手を出すのを待っていた。それもそうだ。自分から攻撃を仕掛ける意味は何処にもない。

「流石に攻撃してくれないかー。それじゃあ……こっちから池の中から這い出してあげるよ?」

 フェルノは炎を発生させると、池の表面を炙る。
 少しだけ水を高温化させると、泳いでいる魚たちが跳ねた。
 小さい魚たちは冷たい所へと逃げていき難を逃れるが、大きな魚はなかなか逃げられない。
 気が付けば網の中にはレッド・キャットフィッシュだけが泳いでいて、動きがかなり鈍くなっていた。

「す、凄い……」
「フェルノはやるな。小魚たちを逃がすためにあえて表面を炙ってレッド・キャットフィッシュだけを取り残されるのか」

 Nightもフェルノの技を称賛した。
 巧みに自分のスキルを理解しているからこそできる芸当で、アキラたちの視線は釘付けになる。

 しかしフェルノは油断もしないし、周りにも目を向けない。
 ここは自分と赤いナマズの二人だけの戦いの場。まるで圧倒的不利な闘技場だった。

「これで一対一。みんなの分まで倒すから、さぁ来い!」

 フェルノは竜の爪を重ね合わせた。
 すると池の中からレッド・キャットフィッシュが跳び出す。大きな水飛沫を上げ、口を剥き出しにしてフェルノへと落ちていく。

「私を飲み込もうったってそうはいかないよー」

 フェルノは構えを取ると、右ストレートを放った。
 流石に命中はしたのだが、HPバーは極めて長く、幾らダメージを与えても緑から変色しない。ちょっと面倒だったけど、フェルノには関係ない。

「岸に上がったねー」

 フェルノの狙いはこれだった。
 レッド・キャットフィッシュはまんまと岸に上がってしまう。
 しかし胸鰭や尾鰭を使って池の中に這い戻ろうとするのだが、フェルノはそれを許さない。

「今回は逃がさないからねー。それっ!」

 フェルノは尾鰭を使った。そのまま竜化した腕と脚を使って、根性とてこの原理で放り投げる。
 近くに生えていた太い木の幹に叩きつけられたレッド・キャットフィッシュは嗚咽を漏らすが、池からより遠くなり苦しそうだ。

 とは言え慈悲はなかった。フェルノは拳をかち合わせると、両拳から炎を出す。
 燃える拳を引っ提げ、レッド・キャットフィッシュに近づくと、渾身の連続パンチをお見舞いする。
 鋭い爪がブスブスとお腹を突き出し、炎が表面を炙って悶え苦しんでいた。
 HPバーがゆっくり減っていくが、レッド・キャットフィッシュは反撃することも出来ない。鋭いトゲトゲの付いた尾鰭を動かし攻撃するも、それすら腕で完全ガードして攻撃の目を潰す。レッド・キャットフィッシュに、逆転など不可能だった。

「これで最後だよー!」

 気が付けばレッドラインに来ていた。
 レッド・キャットフィッシュはピクピク震えていたが、フェルノの拳が炸裂。ピクリともしなくなり、前進が粒子へと置き換わる。

「倒せたって感じかなー」

 フェルノは勝利の余韻に浸る。
 目の前にいたはずの強敵の姿はもう無く、蓋を開けてみれば呆気ない幕切れに、ちょっとだけ歯切れ悪そうだった。
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