上 下
333 / 575

◇331 ファミレスの帰り道

しおりを挟む
 とりあえず明輝は完全に忘れることにした。
 一旦意識を切り替えることで気持ちも入れ替えた。
 さっきまでの分からないを、とりあえず分からなかったに書き換えることで、アニメは面白そうってことと珊瑚と友達になったことだけを満足に感じる。

「とりあえずプラモ作りは一旦保留にして、お店出よっか?」
「そうだな。流石に午後からが来る」
「お腹減ったし、ファミレスか何処かでご飯食べよー」

 ようやく女子高生らしくなってきた。
 オタク道から外れてプラモ屋を出ると、外のひんやりとした風に当てられる。
 先程までの熱気が体の内側から抜けていき、ようやく解放された気持ちに明輝はなった。

「涼しい!」
「中もエアコンは効いていたがな」

 つまりあれは人の熱気だったわけだ。
 人をあれほど熱くさせる日本の偉大な文化に明輝は感動したが、まだ沼には入りたくないなと嫌煙した。とは言え嫌いじゃないので、また来る機会があればいいなレベルでは自分の中に留め、明輝たちは近くのファミレスに入ることにした。



「「「いただきます」」」

 それぞれが注文した品を目の前にしてお腹を満たすことにした。
 烈火は相当お腹が空いているのかカレーライスを頼んでいた。一方明輝も同じくでハンバーグランチプレートを注文した。
 蒼伊は少し控えめだけどカルボナーラをフォークでクルクルしている。スプーンの上に置き礼儀正しく上品な食べ方を見せてくれた。

「まさか一席しか空いてなかったね」
「プラモ屋から出てきた人たちが、全員ここに集まっているとしか思えないな」

 蒼伊は口の中にカルボナーラを運んだ。
 明輝はハンバーグを食べやすい大きさに切り分けながら、ゆっくり味わって食べる。ファミレスは値段は手頃で、大衆に共感してもらえる日本人向きの味になっているので、とっても美味しい。口の中いっぱいにハンバーグの味が広がり、明輝は満足していた。

「それにしてもさ、これから如何する?」
「如何するって何を?」
「だからさ、これから何する?」

 烈火はまだまだ遊び足りない様子だった。
 両手いっぱいに荷物を抱えているにもかかわらず、全然平気そうだった。

「せっかくこっちまで来たんだから、後で駅のコインロッカーに預けてもう少し遊びに行こうよ」
「うーん、ごめんね烈火。私はもう良いかな」
「えっ?」
「私もだ。流石に目的を果たして疲れた」
「あー……じゃあいっか」
「「良いんだ」」

 烈火はすぐさま自分が折れた。だけどちょっと不服そうで、カラーライスをドンドン勢いよく口の中に運んでいた。
 口の周りが汚れていることなんて一切気にしない。子供みたいなワンパク加減が窺えた。

「そうだ蒼伊。これから家に行ってGAMEでもしない?」
「GAME? 私は構わないが……」
「それじゃあ決まりだね。烈火、蒼伊の家でGAMEして遊ぼ!」
「オッケー」

 烈火の機嫌が一気に解決した。上機嫌みたいで口元のカレーを拭き取る。
 明輝は蒼伊の家で遊べて嬉しいし、烈火の機嫌が直ってくれて一安心。
 だけどここからだと蒼伊の家は遠いので、急いで食べることにするも、蒼伊が首を捻る。

「それじゃあ次の電車は……」
「待て、ここから電車に乗って帰るのか?」
「そのつもりだけど……蒼伊、何してるの?」

 蒼伊はスマホを取り出していた。
 誰かにメッセージを送っていて、「よし」と一言呟き再び食事に戻る。

「蒼伊?」
「よがらに連絡をして置いた。三十分もすれば来るだろ」
「いえ、もういます」
「「「!?」」」

 明輝たちは聞いたことのある声を聴き目を見開いた。
 蒼伊が振り返り、明輝と烈火は首を伸ばした。
 自分達の据わっていた席の後ろの席に何故かよがらが居た。

「よ、よがら?」
「はい、如何なさいましたか?」
「いつからそこに居た」
「最初からです。……蒼伊様たちが店を出た後には既に待機していました」
「……怖っ」

 蒼伊はドン引きだった。発信機でも付いているのか、それともスマホにアプリが入れてあるのか不審に思った。
 しかしながらよがらはコーヒーを飲みながら、「いえ、予測をしていただけです」と淡々と答えた。

「よ、よがらさん……」
「何でしょうか、明輝様」
「多分話を聞いてたとは思うんですけど……お願いしても……」
「はい、構いませんよ」

 よがらは速攻でオッケーしてくれた。
 あまりの展開の早さにドン引きしつつも、これで蒼伊の家に楽に行けそうで助かった。

「それで車は何処に停めてあるんだ?」
「この裏です。コインパーキングにリムジンを停めてあります」
「「リ、リムジン?」」

 明輝と烈火は食べていたものをそれぞれフォークとスプーンから落としてしまった。
 蒼伊は車種を聞いて「もっと目立たないものにしろ」と答える。流石に目立ちたくないのは変わらずな様子で、よがらも「分かりました」と淡々と答えた。
 圧倒的な非常識のやり取りに目を奪われて完全に蚊帳の外になっている明輝たちはそれからしばらく二人のやり取りを傍観するのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...