上 下
312 / 568

◇310 新年最初の文字化けさん

しおりを挟む
 カーテン越しに差し込む陽射しで明輝は目が覚めた。
 普通の人にとっては全く快調とはいかない睡眠時間だけど、明輝の目は一瞬寝ぼけた様子になるだけで、すぐにいつも通りの目に戻った。十分熟睡できた証拠だ。

「ふはぁー、よく眠ったね。そして快調!」

 明輝は腕を伸ばした。
 枕元に置かれた時計を見てみると、時刻は朝も八時だった。
 寝たのが結局三時だったので、五時間はかなり眠れたと思った。

「えーっと、確か待ち合わせが十時だよね?」

 まだまだ時間には余裕があった。
 だけど早く起きたのなら早く起きたなりに過ごすのも悪くなかった。

「あっ、そうだ! スマホを見てみよっと。凄い人……ここって有名な神社だよね。参拝する人ってこんなにいるんだ」

 スマホを手に取り早速ニュースは飛び込んできた。
 驚くのと同時に行かなくて良かったと心の奥で叫んだ。
 するとメッセージの欄に数字が付いていることに気が付いた。
 SNSアプリを開くと、烈火から写真とメッセージが送られていた。

[よっす明輝。明けましておめでと~]

[今年も撮って来たから送っとくね~]

 貼り付けられていた写真は烈火が撮ったものだった。
 山を登った烈火が毎年送ってくれるもので、新年最初の日の出を捉えたものだった。
 赤々として活力が貰えた。

「うわぁ、すっごく綺麗。今年の御来光も燦々としてるね」

 明輝はうっとりしてしまった。
 ちょっと難しい言葉を使ってでもこの気持ちを表現したかった。
 それからスマホを触ると、烈火にお礼のメッセージを送った。

[ありがと。すっごく綺麗だよ]

 これだけだと感謝を伝えただけだった。
 けれど明輝は次へと先手を打っていた。

[だけど待ち合わせには遅れないでね]

 余計かもしれないが、烈火は寝落ちする可能性もあった。
 そうなったら家まで迎えに行かないといけないので、そうなって欲しくなかった。
 だから前もってメッセージを送っておいたのだ。

「これで良し。今年はみんなで行くんだから、ちゃんと来てくれないと困るよ」

 明輝は如何なるか非常に不安がよぎった。
 けれどいちいち気にしていても仕方が無いので、これ以上は考えないことにした。
 多分来てくれるはず。明輝はいつもの烈火のパターンを思い返した。

「それじゃあご飯でも食べよっかな。確か昨日の残り物が冷蔵庫にあったはず……ん?」

 スマホを持ったままキッチンに向かおうとした。
 すると急にドライブにメッセージが入る音がした。
 視線を釘づけにされ、明輝は首を捻った。

「こんな時間から誰だろ。もしかして斬禍かベルからかな?」

 明輝はドライブを手に取った。
 するとおかしなことに誰とは言えない相手からメッセージが届いていた。
 そう、差出人が不明で怖かった。

「ちょっと待ってよ。まさかこっちに迷惑メールが届くことってあるの?」

 今時そんな遅れがちなものが来るとは考えづらかった。
 とは言え一応開いてみないと内容が分からなかった。
 明輝は興味本位でメッセージを開いてみた。
 するとそこには文字化けした文字列が大量に並んでいた。

[ofu iqmf ■$yq9う うウ90フrddクじょくぇ0%‘いqd。 yる0d9ウイ
 Hdy19rピ@」ru0238rt gy02inqhr  /-/jqorur9u32エウ0927t386t1オj pリオ「14p 
 開 獅手、お目出頭。子歳もyoロしくお値害 升]

明輝は誰からかと思った。
毎回のことながら、今回も大量の文字化けだった。
 だけどこの文字化けの中に、ちゃんと言葉が混じっていた。
 脳内変換して、口に出していた。

「えーっと、多分最後だよね。最後だけ、最後だけ……あけましておめでとう? かな」

 何となく最後の方はそうやって読むことができた。
 とは言え確証などは最初からなく、何となく頭の中で変換しただけだった。

 とは言え一度見えてしまったものを人間の目や脳はそれを文章として認識してしまうことが多かった。
 そのため、明輝の目では既に[あけましておめでとう]だけが入っていた。

(流石に変身しても良いよね?)

 ここで躊躇するのが普通の人だった。
 けれど明輝はドライブに手を添えていた。

「えっと、誰かは分からないけど……あけましておめでとうっと」

 ドライブを使ってメッセージを送った。
 今までも似たようなことはあったが、そのどれからも悪意は感じられなかった。
 実害を被ったこともないので、多分知り合いの誰かだと無理にでも納得していた。

 メッセージを返信した。
 しかしそれ以降は何も返ってくることはなかった。

「もしかして満足しちゃったのかな? こっちからは打ち難いし、良いよね?」

 流石に明輝でもこれ以上は踏み込めなかった。
 なのでドライブをそっとベッドの上に戻した。

「さてと、お腹空いたから何か食べようかな。確か昨日は蕎麦だったから……天ぷらうどんにしよっと」

 明輝は冷蔵庫にかき揚げの残りはが入っていることを思い出した。
 キッチンへと向かい、きちんと朝食を摂るのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

仮想空間のなかだけでもモフモフと戯れたかった

夏男
SF
動物から嫌われる体質のヒロインがモフモフを求めて剣と魔法のVRオンラインゲームでテイマーを目指す話です。(なれるとは言っていない) ※R-15は保険です。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも同タイトルで投稿しております。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜

雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。 剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。 このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。 これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は 「このゲームをやれば沢山寝れる!!」 と言いこのゲームを始める。 ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。 「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」 何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は 「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」 武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!! ..........寝ながら。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

おもしろ夫婦のゲーム・ライフ

石動 守
SF
「ゲームがやりたい~~!」 と魂の叫びを上げる妻に、夫はその場を提供する。 しかし、妻は 「嫌よ! 毎日見てる顔とゲーム内でも一緒とか」  少々愛情を疑う夫であったが、妻の意見を採用する。  さて、VRゲームを始める二人、どんなゲーム・ライフを送ることになるのやら…… *先の長い小説です。のんびり読んで下さい。 *この作品は、「小説家になろう」様、「カクヨム」様でも連載中です。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...