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◇308 大晦日の帰り道

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 その後明輝は蒼伊の家で散々GAMEをプレイしていた。
 意外に面白くて、やっぱり王道なストーリーが好きなんだと明輝は気が付いた。

「それじゃあまた後でね」
「ああ。また後で」

 明輝は蒼伊とそんな約束を交わした。
 夜野家を出ると、外はもう夕方になっていた。
 よがらさんが家まで送ってくれると言ったけど、明輝はそこまで遠くないので断った。
 だから今、明輝は夕暮れ時を一人で歩いていた。

「これぞ黄昏時だよね」

 夕日を目の前に受けていた。
 だけど空は半分暗く、そのうち日は完全に暮れてしまうだろうと、明輝も若干急ぎ足だった。

「ここからは下り坂だから楽なもんだよね。そこから最短距離で……まあ二十分かな。あー、無理だ」

 完全に日は暮れてしまうと確信した。
 スマホで気象アプリを見てその時間帯には完全に暗くなっていると出ていた。
 ましてや今日のことなので精度も高いはずだ。

「まあ、万が一間違ってた場合もあるもんね。……急ごう」

 自然と坂道で足早になっていた。
 一人で帰る帰り道は何だか心細くて、とってもつまらなかった。
 明輝は楽しかった風景と寂しい風景をこの一瞬で味わっていた。

「ううっ……寒い」

 おまけに冬空は寒々しかった。雪は降っていないものの、露出している顔の部分は普通に風が冷たかった。
 しかも坂道なので上昇気流に合わせて向かい風が頬を撫でた。

「マフラーぐらいして来ればよかった」

 明輝は自分の選択ミスを痛恨だと気が付いた。
 とは言え気が付けば坂道も終わり、後はほぼ平坦な道が続いていた。
 だけど太陽は沈みつつあり、空を見てみると赤紫と青紫が入り混じった幻想的な風景が描かれていた。

「綺麗……」

 この時間に外に出ていて、尚且つ空を見上げなければ見られない景色だった。
 ちょっとだけ笑みを浮かべて、人混みの喧騒から離れている短い時間を堪能していた。
 一言で言えば、明輝は乙な時間を嗜んだのだ。

「とか言ってる場合じゃないよね。こうなっているってことはもう暗くなるってことだよ」

 しかし明輝はすぐさま現実へと引き戻された。
 平坦な道になったこともあり、少し走っていた。
 ダッフルコートが若干重くてしんどかった。

「はぁはぁはぁはぁ……えーっと、確かこの先は……信号があるけど、歩道橋を渡ればすぐ!」

 明輝は歩道橋を使った。
 普段は平坦で路地をぐるりと回るのだが、大晦日と言うこともあり駅すぐ近くの歩道橋に人がほとんどいなかった。
 今では珍しくなったけど、歩道橋の上から見る景色もなかなかに幻想的だった。街の街灯ネオンが、独創的な焦りを受けてイルミネーション代わりになっていた。

「うわぁ!」

 普通に明輝は見惚れてしまった。
 他に誰も居ないこともあってか、変に思う人も居なかった。

「私、この街好きだな」

 都心にも程近くそれでいて近未来感と昔ながらの伝統を兼ね備えていた。
 この新しくて古い街を明輝は楽しんでいた。
 その感情に惹かれたのか、目がとろんとしていた。
 黄昏ていた明輝は不意に声を掛けられてしまった。

「そうですね。私も好きですよ」

 明輝は驚いて距離を取った。
 そこに現れたのは明輝も良く知る人物で、声色からしても間違いなかった。

「え、エルさん?」

 そこに居たのはエルエスタだった。
 分厚いコートを着ており、黒い手袋まで付けていた。
 完全な防寒対策が取られていて、明輝は場違い感を受けた。

「こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「そ、そうですね。エルさんは普段からこの歩道橋は使うんですか?」
「いいえ。私も普段は利用しませんが……今日は大晦日なので通行人も少なく、利用してみても良いかと思ったんです。そうしたら貴女が居たんですよ」

 同じ思考だった。明輝は「私もです」ときっぱり答えた。
 するとエルエスタの口角が若干上がったように明輝には見えた。

「そうですか」
「エルさん、今笑いましたか?」
「さあ、如何でしょうか?」

 何故か明輝ははぐらかされてしまった。
 それからエルエスタは今年一年のことを聞いた。

「今年一年は如何でしたか?」
「色々なことがありました。経験できないような体験をたくさんして、友達もたくさんできて、エルさんとも仲良く慣れて、私すっごく楽しかったです」
「そうですか。それは何よりです」

 エルエスタは今度ははっきりと笑みを零した。
 明輝はその横顔を見逃すはずもなく、黄昏の中に二人でいた。

「来年はもっとたくさんの経験を詰めるといいですね」
「あはは、流石に詰め込み過ぎは大変ですよ」
「それもそうですね。何でもほどほどに……ですが」
「「本気に慣れるものには全力で!」」

 何故か二人して意見が被ってしまった。
 明輝は目を見開き、エルエスタは「やっぱり」と口走った。
 何故かは分からないが、明輝は複雑な感情に苛まれた。

「えっ?」
「ふふっ。それでは良いお年を」

 エルエスタは満足した様子で去っていった。
 だけどしばらく明輝は歩道橋の上で立ち尽くしてしまった。

 何だかとてもよく似ていた。明輝は思い当たる節があり、脳内で重ねていた。
 しかしその似ているだけだと思った。だから聞こうとも思わず、真相に明輝は辿り着くことは今のところ叶わなかった。
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