上 下
306 / 575

◇304 大晦日前のやり取り

しおりを挟む
 ギルドホームには全員集まっていた。
 十二月三十日になったのに、こうも集まりが良いと何だか嬉しいのと半面、すっごく暇なんだなと思ってしまった。

「それじゃあアキラ、一月三日は予定空けておいてね」
「予定?」
「ちょっとちょっと、忘れないでよ。一月三日は、西東京に新しくできたプラモデル専門店に行くって約束だったでしょー? Nightもだよ」
「ああ。抽選販売に受かったやつだな」
「そうそう。流石にNightは覚えてたね」

 Nightはマルチタスクが使える。
 しかも記憶力もピカイチで、一度見たもの聞いたものは基本的にくだらないことでも覚えている潜在的な記憶力を持っていた。

「あー、十二月の前半でフェルノに応募してって言われたやつだね
「そうそう。確か当たったよね?」
「うん。とりあえず指定日通りにしたよ?」

 フェルノに頼まれていたけれど、アキラは一体何を頼まれたのかよく分かっていなかった。
 この中でプラモデルを作るのはフェルノとNightだけだった。

「正直何をしたら良いのか分からないけど、当日行けば良いんだよね?」
「うん。でも歩きやすい靴にしてねー。転んだら怪我するから」
「こ、転ぶことがあるの?」
「ある程度人数はカットされているはずだが、それでも人が集まると自然と惜しくらまんじゅう状態になるからな。それを危惧しているんだろう」

 アキラはちょっぴり怖くなった。
 だけどこの間のライブには行けなかったりしたので、今回は予定も決めていた。
 だからアキラは行くことを決心していた。

「それはそうと、みんなは正月は何をするの?」
「うーん、家でゴロゴロ過ごすかなー?」
「そう言っていつもみたいに筋トレでしょ?」
「まあねー。今年も来る、アキラ?」
「行かないよ」

 毎年フェルノは元日に走っていた。
 特にマラソンがあるわけでもなく走っていた。山の頂上で日の出を見ることを毎年のルーティーンにしていたのだ。

「私と雷斬はいつも通りよね?」
「はい。親戚一同の集まりや、神社に参拝することになっています。その後は持ち付きしたり、お正月料理を食べたりですね」
「凄い、昔懐かしい日本の正月風景だね!」
「そうでもないわよ。楽しいってわけでもないし、毎年毎年ね」
「少し大変ではありますが、年初めの立派な行事ですから」

 面倒そうに言うベルとは対照的に、雷斬は苦な表情を一切見せなかった。
 感情を押し殺しているようには見えないので、雷斬にとってはこれも普通なのだと思った。

「ですが皆さんの予定が無いのでしたら、一緒に神社に参拝致しませんか? 親戚同士のやり取りよりもそちらを優先しますよ」
「おっ、ここに来ての本音ね。しかもリアルでなんて……でもそっちの方が楽しいかも」

 まさかの提案を受けてしまった。
 それを聞いたフェルノも「はいはーい、私は全然いいよー」と手を挙げていた。

「緩いな」
「でもその方がフェルノらしいでしょ? それよりNightは如何するの?」
「私か? まあ暇だから空けておくか」

 Nightの理由も大概だった。
 アキラはしばし言葉を失うと、それから気になっていたことを尋ねた。

「そう言えば如何してログインできないのかな?」
「運営も忙しいんだろう」

 Nightの説明は一言で完結していた。
 十二月三十一日から一月の三日までは謎にログインできなかった。
 普通年末年始はソーシャルGAMEでもイベントを開催するはずだった。

「運営からアナウンスが掛かった時はびっくりしたよねー」
「うん。もしかして何かイベントの準備かな?」
「可能性はあるだろ。未だに対人イベントが無いんだ」

 確かにNightの言う通りだった。
 未だにプレイヤー同士が戦う系のイベントは開催されておらず、いつか来る気がプンプンしていた。

「とは言え正月を捨てたのは凄まじい決断だな」
「それはそうだよねー。でもさ、ログインできないって言っても他のGAMEで遊べばいいよね?」
「フェルノは宿題しないとダメでしょ? 毎年最後の方まで……」
「あー、アキラ。その話は無しね」

 フェルノが話を強制的にシャットアウトした。
 アキラは口を閉ざすと、フェルノが「危なかったー」と安堵していた。
 何が危ないのかは分からないが、フェルノは危惧していた。

「宿題か。まだ終わっていないんだな」
「むっ! 進学校のNightには言われたくないよ。それよりNightは自分の心配はしなくていいのかなー?」
「自分の心配? 何のことだ?」
「Nightの学校の方が何倍も偏差値高いんだから、宿題に遅れる……」
「あり得ない。むしろすでに終わっているから関係ない」

 Nightはズバリと言い切った。
 確かにNightは宿題は長期休暇の初日で終わらせてしまうタイプだけど、あまりの速さに言葉を失った。

「そもそも冬期休暇は課題の分量も少ないだろ」
「そ、それはそうだけど……難しさは上がってるよー」
「適当に片付ければいい。覚えていることを駆使すればできなくは無いだろ」

 もの凄く正論を言われてしまった。
 アキラたちは返す言葉が見つからず困惑し、ただNightの一人舞台を観客同然に見つめることしかできなかった。圧倒的に無力だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...