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◇299 とりあえずNightの手腕は凄いね

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 サンタクロースはアキラの腕輪を見て叫んでいた。
 心の底からの訴えを聞き、納得しろと言われてもなかなかできるわけでも無かった。
 むしろそれはそれ、これはこれだ。

「えーっと、そんなに凄いものなんですか?」
「当たり前じゃ!」

 アキラが質問すると、サンタクロースは間髪入れずに答えた。
 あまりの即答気味に困惑したものの、サンタクロースは聞いてもいないのに続けた。

「そのリングはこの世界に一つしかない、特別な光を放つリングなんじゃ」
「特別な光?」
「そうじゃ。普通の者には何の効果も与えない特殊な波長を持ったリングでの。正直に言えばよく分らんのじゃ」
「は、はぁ?」

 それは運営側がそう言う設定にしたのか、はたまた設定自体はあるけれどNPCやプレイヤーでは把握できない裏設定なのか、この時点でアキラは付いていくのを諦めていた。
 けれどNightだけは親身になって聞いていた。
 聞きたくなくても理解ができてしまったので、致し方なかった。

「特別な光の正体は何だ?」
「それが分らんのじゃ。とは言え、星の祝福とまで言われる特別な奇跡を起こすとは言われているの」
「アバウトかつ、信憑性もない発言だな。それを天秤に掛けても、アキラにだけ無いのは不公平とは思わないのか?」
「う、ううっ……しかしのう。一体何を与えたらよいのか? 儂のプライドが許さんのじゃ」

 普通に困ってしまっていた。
 その様子を見たアキラは納得はできなかったけど、折れることにした。

「あ、あの。私いいですよ」
「「「はっ!?」」」

 全員に振り替えられてしまった。
 ここで折れることは即ち諦めに近かった。
 アキラは意識を切り替えていた。悲しいと思う感情を押し殺してうやむやにしていた。
 けれどNightが真っ先に、「いや、ダメだろ。ここは追及するターンだ」とアキラに言った。

「見合う見合わないじゃないだろ」
「なっ!」
「達成の報酬もない。それにクリスマスの奇跡もない。無償で世界を救う英雄に祀り上げる? それの何が良いというんだ。本当は何も用意していないんじゃないのか?」
「そ、そんなことはないぞ! ほれ、こうやってプレゼントは用意してある」

 サンタクロースは袋の中から箱を取り出した。
 ちょっと大きめの箱で、「用意してあるのか」とNightは呟いた。

「ただのう。やはりあのリングに勝るものを出せる勇気が……」
「サンタクロースに勇気とかは要らない。必要なのは伝承と、誰かに何かを届ける力だ。無駄なプライドに苛まれてその本分を全うしないのは、縛られているいないにかかわらず、自分を見失う行為だぞ!」
「た、確かに……儂はプライドに引っ張られて本分を果たせんかった。な、なるほど……そういうことじゃったのか!」

 一体何を理解したのか、アキラやフェルノにはさっぱりだった。
 完全にNightが喋りで圧倒し、サンタクロースをねじ伏せた。いいや、勇気付けてしまった。

「す、凄いね」
「うん。信じられないね」

 Nightの手腕は今日も今日とて冴え渡っていた。
 アキラたちが見守る中、サンタクロースが「すまんかったの」と頭をアキラに下げた。
 その後、Nightは話を素早く変えた。

「サンタクロース、これから如何するんだ?」
「これから世界中を巡って、子供たちにプレゼントを届けるんじゃよ!」

 聞いているだけで大変そうだった。
 だけどサンタクロースは楽しそうで、にんまりとした笑顔を浮かべていた。

「大変じゃないんですか?」
「そうじゃな。でも子供たちの笑顔のためじゃ。これくらい造作もないことじゃよ。ふぉっふぉっふぉっ!」

 凄い夢が詰まっていた。アキラたちはそう感じた。
 けれどもそれだとこんな話をしている時間もなかった。
 サンタクロースは今日中にプレゼントを届け切らないといけないからだ。

「それじゃあ私たち行きますね」
「うむ。気を付けてのぉ」

 サンタクロースはそう言うと「ふぉっふぉっふぉっ」と高笑いをしていた。
 トレントディアたちも名残惜しいのか、喉の奥から発生して吠えた。
 後で街の方で噂になりそうだけど全く気に求めなかった。

「それじゃあまた何処かで」
「一年後に会えるといいの」

 一年後か、とアキラたちは思った。
 流石に来年もこんな目に遭うのはごめんだった。

「あっ、そうだ! サンタ……いない?」

 アキラは思い出したように振り返った。
しかしそこにサンタクロースの姿はなく、トレントディアたちもそりすら無かった。
 まるで初めから居なかったのように静寂だけがそこあり、

「凄いねー。本当に夢みたいだったねー」
「うん。でも夢じゃないよ」
「そうですね。皆さんの手の中には……」

 雷斬は全員の手にプレゼントが握られていることを言っていた。
 だから今までのは夢じゃなくて、アキラたちは体験したのは本物だったのだ。

「それでアキラ、何か言いたいことでもあったのか?」
「う、うん。ちょっとね」

 アキラは言いそびれてしまったので、Nightに聞かれたけど何も答えなかった。
だってアキラが言いたかったのは、サンタクロースの発言に対して、一つだけ言いたかったことがアキラにはあった。
 小さいことだった。リングじゃなくて、ブレスレットと呼んで欲しかったのだ。
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