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◇276 合流したいのですが

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 噴水広場で少女が二人待っていた。
 一人は背筋を伸ばして立ち尽くし、もう一人は頬杖を突いていた。

「はぁー」
「来ませんね」

 雷斬とベルは暇そうにしていた。
 特にベルは暇そうで、ジトーッとしたまま動かなかった。

「全くもう。如何して来ないのかしらね」
「おそらくこの人だかりです。合流しようにもできないんでしょうね」
「まさかとは思うけど、ギルド会館からログインしたのかしらね?」
「多分そうでしょうね。この様子だと合流は絶望的です」

 雷斬は刀を装備していたら、鍔を鞘に当ててカチャカチャしている頃だった。
 ベルは「仕方ないわね」と言いながら噴水広場から出ようとした。

「何処に行くんですか、ベル?」
「決まっているでしょ? 三人を見つけに行くのよ」
「なるほど。こちらから捜しに行くんですね。良い案だと思います」

 雷斬とベルはアキラたちを捜しに行こうとした。
 しかしメッセージが送られてきたので、雷斬は足を止めた。

「待ってくださいベル。Nightさんからメッセージが届きました」
「メッセージ?」
「はい。『大通りの人だかりに捕まったから捜しに来るな。各自でクリスマスイベントを楽しみつつ、タイミングを見て合流するぞ』だそうです」
「何よそれ……はぁー。予想通りね」

 ベルは分かっていた。
 だからだろうか、溜息を一つ漏らすといつも通りになった。

「それじゃあそうさせてもらいましょうよ」
「そうですね。行きましょうか、ベル」
「ええ。何か美味しいものがあればいいけど、あるわよね?」
「おそらくは。あっ、あのお店はハートの形をした綿菓子を売っているみたいですよ」
「いいわね。買いましょうか」

 雷斬とベルは一緒に屋台に買いに行った。
 二人は綿菓子を頬張り、絶妙な甘さに震えるのだった。

「「美味しい!」」

 口角が吊り上がっていた。
 ただの綿菓子のはずが、ほっぺたを落とす甘みを持っていたのに驚いたのだ。


 一方、アキラたちは人混みの中を避けるように歩いていた。

「うっ……こっちは厳しいな」
「大丈夫Night?」

 Nightは人混みがよっぽど嫌なのか、頭を押さえていた。
 アキラは顔色を悪くするNightを心配したものの、人混みの熱気が災いして唇を噛んだ。

「ヤバいね。フェルノ、Nightの顔色は白い……っていない?」

 フェルノとはぐれてしまった。
 マズいことになった。このままだと人混みの波にのまれてしまうと思い、Nightを連れて端の方に寄った。

「Night、こっち来て」
「あ、ああ」

 急に先程までの覇気が無くなった。
 ここまでの熱気に当てられたようで、気分が悪くなってしまった。

「Night大丈夫?」

 アキラは水の入った筒を手渡した。
 Nightは受け取ると、ゆっくりと飲んで気分を整え直した。

「助かった」
「やっぱり人混みは苦手なの?」
「そんなことはないが……妙にこの熱気が生き物みたいになって、捌け口を見失っている気がするが……」
「確かに変な空気だよね。渦巻いているもん」

 アキラにも言いたいことが伝わっていた。
 この熱気がNightの精神を蝕み、その他の人の気持ちをハイにさせていた。
 如何にもイベントが空回りして、脳を活性化させてしまっているようだ。

「果たしてこれを運営が描いていたものなのか?」
「それは絶対に違うよ!」

 アキラは腹から声を出していた。
 アキラの訴えを聞いたNightは瞬きをしていたが、「やはりか」と納得した。

「とは言えこの状況を作り出しているものが他にあるはずだ。何かおかしな点は無いか?」
「おかしな点って?」
「例えば大事な何かを忘れている。もしくは何かの衝動に駆られている。どちらにしてもクリスマスと言う一大イベントを妨げる何かだ」

 そんなことを急に言われても、アキラにはピンと来なかった。
 しかしNightは何か引っかかるのか、唐突なことを口にした。

「そう言えば、アレは如何なった?」
「アレって?」
「星だ。プラモデルみたいなやつと言えば分かるか?」
「プラモデル? ……あ、ああアレだね!」

 インベントリからアキラは取り出した。
 まだ完成していないが、星の形をしていた。
 表からは釉薬を塗ってあった。
 光沢感が出ていて、少しだけ黄金色に光っていた。

「確かにコレは完成していないよね?」
「そうだな。とは言え、これが関係あるとは思えないが……」
「今、フラグ立ったよね?」
「如何だかな」

 Nightは話を自分で立てたのに、すぐさま回収した。
 そうこうしているうちに落ち着いて来たのか、Nightは「よし」と覇気を入れた。

「そろそろ行くか」
「おっ、Nightが復活した! とは言えフェルノが居なくなっちゃった……」

 頭を掻きながら周囲を見回した。
 すると何処からか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あれ? アキラとNight。二人して如何したの?」
「「えっ?」」

 アキラたちの視線が人混みの中からひょっこり顔を出した一人に向けられた。
 虚無な顔をしていたが、それは格好のせいだ。

「何しているんですか、ピーコさん?」
「ソウラに言われて売り歩き。及び宣伝」

 目が死んでいた。
 本来こういう場に立ちたくないはずのピーコは本当に辛そうだった。
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