上 下
273 / 568

◇272 パソコンしかない蒼伊の部屋

しおりを挟む
 明輝たちは蒼伊の部屋に向かった。
 途中でよがらと別れ、業務に戻って行った。

「それでは蒼伊様。私はこれで……」
「分かった」

 ぺこりとよがらは頭を下げた。
 何処に行ったのかと思ったが、メイドさんが二人しかいないのできっと忙しいんだと思い、明輝と烈火は何も言わなかった。

「それじゃあ行くぞ」
「それは良いけど……その子は良いの?」

 蒼伊の足元をサファイアがトコトコと付いていた。
 「ニャーニャー」と、これぞ本当の猫撫で声で鳴いていた。

「抱っこして欲しいんじゃないのかな?」
「いや違うな。サファイアは遊んで欲しいんだ」
「遊んで欲しいの? それじゃあさっき放り投げたのは……」
「アレは邪魔だったからだ」

 そうは言いつつも、飼い猫のサファイアは蒼伊に懐いていた。
 凄く細身で軽かった。
 艶のある黒い毛並みが素敵で、うっとりしてしまった。

「その子ってさ、誰にでも懐くの?」
「そんなことは無いぞ。二人は私の匂いが付いているからじゃないか?」
「「それはちょっと嫌かな」」
「如何いう意味だ?」

 蒼伊は明輝と烈火を睨んだ。
 しかし考えても仕方ないので廊下の突き辺りを目指すと、一つ部屋を空けてから扉の前に止まった。

「ここだ」
「ここが蒼伊の部屋なの? 何だか普通だね」
「普通の何が悪いんだ?」
「悪くはないけど、他の部屋と扉の形も色も同じだね」

 普通に気が付かなかったら、違う部屋に入ってしまいそうだった。
 カラオケボックスとかフロントで鍵を間違えたホテルと同じ感じだった。

「まあいいだろ。それより入れ」

 蒼伊は部屋の扉を開けた。
 明輝と烈火も中に入ると、不意に瞬きをしてしまった。

「な、何これ?」
「大量のパソコンが並んでいるんだけどー」
「パソコンは一つだ。大量なのはディスプレイだな」

 蒼伊の部屋はとても広かった。
 だけど物があまりに少なかった。

 ベッドが部屋の隅に一つ置いてあり、机と本棚が一つずつ置かれていた。
 後は大量のディスプレイモニターが並んでいた。

「ここが蒼伊の部屋なの?」
「そうだ」
「広い部屋なのに物が少ないね。しかもこの乾いた感じは何?」
「この部屋は無駄に広いんだ。それよりお前たちを呼んだ理由だが……」

 そう言えばと明輝と烈火は思い出した。
 蒼伊の家にやって来たのは、何か呼ばれたからだった。
 一体何をやることになるのかちょっとだけわくわくする一方、怖くもあった。

「まさか変なことするんじゃないよね?」
「そんなことはしない。二人を呼んだのはこれをして欲しいからだ」

 そう言って蒼伊はディスクを取り出した。
 白箱になっていて、油性ペンで手書きしたタイトルが書かれていた。

「何コレ?」
「もしかして蒼伊が書いたのー?」
「そうだ」

 普通に綺麗な字だった。
 とは言え蒼伊はそこに注目して貰いたくはないようだ。

「そんなことは如何でもいい。二人を呼んだのは単に遊ぶためだけじゃない。コイツをやりたいんだ」

 明輝と烈火は瞬きを繰り返してしまった。
 突然の蒼伊からの告白に、ちょっとキュンとしたのだ。

 まさかこんなにもストレートに告白されるとは思っていなかった。
 けれど嬉しくて笑みを浮かべた。

「そっか。そっかそっかー。そんなに遊びたいんだねー」
「仕方ないなー。でも良いよー、蒼伊がそこまで言うならさー」
「ウザいな」

 蒼伊は全く乗ってくれなかった。
 これだと完全に明輝と烈火がスベッたみたいだ。

「ごめんごめん。それより誘ってくれて嬉しいよ」
「GAMEなら結構やっているから任せてよー。それでさ、コレ何? 古い昔のGAMEでもダウンロードしたの?」
「そんな訳ないだろ。それに古い機種はある程度揃っているからな」

 蒼伊がGAME好きなのは知っていたが、ここまでとは思っていなかった。
 前にFPSを遊んだ時も非常に上級者のテクニックが詰め込まれていた。
 そのおかげで適当に遊んでいた明輝があそこまで上級者と遊べたのは一重に蒼伊のおかげだった。

「それじゃあ遊ぼっか。でもコレパソコンのやつ?」
「そうだな」
「……私キーボード操作とかゲームパッド? 苦手だよ。特にゲームパッドとか、あれ以来触ってないよ?」
「問題ない。全部キーボードでやるからな」

 蒼伊はそう言うとパソコンの前に着席した。
 それから本体を起動すると、早速何かを準備し始めた。

 カタカタカタカタ——
 カタカタカタカタ——
 カタカタカタカタ——
 カタカタカタカタ——

「こ、怖いね」
「恐いって。しかも速いって!」
「これくらい慣れれば普通だ」

 いいや普通の域では無かったと、明輝と烈火は素直に直感した。
 ものの一分で一体どれくらいのコードを打ち込んでいるのか、明輝と烈火はそこまでは予想できたが、全くそれ以降が出なかった。

 ごくりと喉を鳴らしていた。蒼伊は警戒に何かを立ち上げ終えていた。
 すると準備ができたのか、蒼伊は声を発した。

「良し始めるぞ」
「えっと、どっちがプレイしたらいいのかな?」
「明輝やって良いよ。私は見てるから」
「良いの? 私の方が下手なのに」
「もちろん。それじゃあ……って、このGAME」

 烈火は何かに気が付いた。
 ディスプレイに表示されていたのは烈火が知っているタイトルだった。
 もちろんマイナー寄りではあるが、完成度の高さから有名なものだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜

雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。 剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。 このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。 これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は 「このゲームをやれば沢山寝れる!!」 と言いこのゲームを始める。 ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。 「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」 何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は 「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」 武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!! ..........寝ながら。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...