VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に！？

◇２６９ 夜野家のメイド（蒼伊専属）

　明輝と烈火はとりあえず玄関前まではやって来た。
　そこにはイメージの中の西洋の家で使う金属製のドアベルがあった。

　明輝は黒鉄のドアベルを握った。
　それから扉に向かって思いっきり叩きつけた。
　
ドンドンドン！

　鈍い音が扉に反響した。
　明輝と烈火は失礼かと思ったが、すぐに扉が開けられた。
　そこで待っていたのはメイドさんだった。

「お待ちしておりました。蒼伊様の御友人の方々ですね」

　明輝と烈火は固まってしまった。
　そこに居たのは白と黒のメイド服を礼儀正しく着込んだ美しい女性だった。

　髪は肩で揃えていた。
　艶があり手入れの行き届いた黒髪をしていた。

　肌の色は若干白っぽかったが、健康そうだった。
　背も高くモデルのように凛としていた。

　瞳が大きかったが、若干目付きが鋭かった。
　しかし警戒している様子は無く、落ち着きがある方が正しい印象だった。

　明輝と烈火はこんな人に出迎えられるとは思っていなかった。
　てっきり蒼伊が出て来る者かと思っていたが、流石にお屋敷住まいなだけはあった。

「あ、あの立花明輝です」
「加竜烈火です！」
「あの、コレ。そこで買って来たものなんですけど良かったらどうぞ」

　明輝と烈火は流れで手に入れた飲み物を手渡した。
　どのみち蒼伊に渡そうとは思っていたが、まさかコレが手土産になるとは誰も思っていなかった。

　正直失礼だと気が付いていた。
　しかもこんなに重たい荷物を持てるのかどうか心配になったが、メイドの女性は丁寧に受け取った。

「わざわざありがとうござます。ですが蒼伊様は御友人からこのような配慮をされることをあまり快くは思っておりませんが」
「分かってます。だけど一応持って来たんです。処理はお任せします」
「かしこまりました。それでは中へどうぞ」

　明輝と烈火はゴリ押した。
　するとメイドの女性は明輝たちを何事もなく屋敷の中に通すと、待っていたのは庶民感からは大きく隔絶されたお屋敷の中だった。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！」」

　明輝と烈火は口を開けてしまった。
　今まで現実で一度も体験したことのない経験を今していた。
　こんなに大きくて立派で、豪華絢爛なお屋敷にやって来るとは思ってもみなかった。
　だけど何処か寂しくもあった。

「感激していただきありがとうございます」
「あ、あっごめんなさい。つい、見惚れてしまっていました」
「構いませんよ。蒼伊様もこうなることは予想しておられたようです」
「「やっぱりですか？」」
「はい」

　やっぱり蒼伊は凄いと明輝と烈火は思った。
　次々手の内が読まれていたが、メイドの女性は受け取った飲み物を見ながらどこか驚いていた。予想外だったようだ。

「驚いてるね」
「やっぱり？」

　流石に烈火にも分かったようだ。
　普通こんな大量の飲み物を持ってくることは無かった。

「本当に聞いていた通りの方々です……」

　メイドの女性はポツリと口にした。
　どんなことを聞いていたのか、明輝と烈火は気になったが、それより気になることがあった。

「あの。失礼だと思うんですけど、他に誰か居ないんですか？」
「と、言いますと？」
「その……こんなに大きな御屋敷なのに寂しいなーって気が……ごめんなさい」

　明輝は気になってしまった。
　蒼伊が住んでいるのは聞いていたが、他に誰も居ないのだろうかと思ったのだ。

　もちろん人の家庭事情に首を突っ込むのは良くないことだった。
　だけど気になってしまったので口にしたのだが、メイドの女性は淡々と答えた。

「旦那様と奥様はお忙しい方々です。海外に普段は住んでおられるのです」
「そうなんですか。兄弟とかは？」
「確かにおられますがお二人ともとてもお忙しいのでなかなかここには帰って来ません。加えて、他のメイドも何人かは居ますがこの屋敷ではこれが日常風景ですよ」

　妙に静かなのは人通しの会話が極端に少ないからではなかった。
　この屋敷にはそもそも人が居ないので、これだけ寂しい雰囲気が漂っていたのだ。

「それじゃあ蒼伊と数人のメイドさんだけなんですか？」
「はい」
「ちょっと寂しそうですね」
「そんなことはございませんよ。それにこの御屋敷は蒼伊様の・・・・・・・・・・所有物・・・ですので」

　凄いことを言っていたが、明輝と烈火は軽く受け流した。

「あっ、そう言えばメイドさんの名前って聞いてもいいですか？」
「流石にメイドさんじゃ親近感無いもんね」

　烈火は軽口を叩いていた。
　しかしメイドの女性は特に気に食わない様子ではなく淡々と名前を口にした。

「そうですね。初めまして、私は蒼伊様専属のメイド夜野やのよがらの名を与えていただいております」
「よがらさん。良い名前ですね」
「……ありがとうございます！」

　よがらは嬉しそうだった。
　それだけ誇らしい意味が込められているのか、表情筋を少しだけ緩ませて笑みを浮かべていた。

　明輝と烈火は初めて笑みを浮かべた瞬間を目撃した。
　クールだけど笑う顔は可愛らしいので、何となく蒼伊に似ていた。