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◇255 報酬は小瓶?

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 トレントディアから赤い宝玉を貰い、アキラたちはトレントディアの抜け落ちた角を探しに行こうとした。
 しかしなかなかジャケットを放してくれないので、アキラは困っていた。

「あの、そろそろ放してほしいんだけど」

 トレントディアの牡鹿は全く放してくれない。
 まだ何かあるのかとアキラは首を捻ると、Nightが代わりに意図を汲み取り話を付けた。

「お前の抜け落ちた角は何処にあるんだ?」

 Nightが尋ねると、トレントディアはアキラのジャケットを放した。
 それから踵を返し、森の奥へと姿を消した。
 一体何だったのか、アキラ首を捻った。

「如何やら私たちが探していたものを取ってきてくれるみたいだな」
「もしかしてそのためにジャケットを噛んでたの? それならそうと言って欲しかったよ」
「トレントディアが如何やって喋るんだ」
「態度で示してほしかったよ」

 おかげでジャケットの左袖がボロボロになってしまった。
 解れた部分が見えてしまい、後で直さないといけなかった。

「態度でなら示していただろ」
「そう言うことじゃなくて……って仕方ないもんね」

 アキラも諦めることにした。
 トレントディアと意思が通じ合えただけでも収穫だった。

「まあそれは良いんだけどさー。どれくらい集めればいいのかな?」
「とりあえず背負子しょいこが一杯になるぐらいだろ」
「そんな量、手に入るのかなー?」
「それは状況次第だ。無いものは作ればいいが、作れるような代物でもないからな」

 Nightはきっぱりと言い切った。
 アキラたちは背負子を広げ、トレントディアが戻って来るのを待つ。
 するとトレントディアの牡鹿が森の奥地から戻って来るのが薄っすらと視界に入った。

「結構早かったね」
「そうだな。しかも大量に咥えているぞ?」
「アレって咥えているのかなー? 周りに蔦が見えるには私の気のせいー?」

 フェルノは瞬きをした。
 確かに周りには緑色の蔦が生えていて、木の枝を掴んでいた。
 しかしよく見てみると、木の枝のようにまばらではなく、まとまっていた。
 しかも先端が同じ形で、宝玉も付いていたので、古くなって抜け落ちた角だと判る。

「凄い、本島に持ってきてくれたよ!」
「それよりもあの蔦。何処から生えているんだ。地面をトレントディアが歩くのに合わせて移動している? しかも食べられた木の樹皮が元通りになっているぞ。これはまさか……」

 Nightは兆候を読み取っていた。
 あの牡鹿は時期にエルダーディアになる。貴重な瞬間を見ることができ、Nightにも笑みが零れた。

「良いものが見れたな」
「うんうん。モンスターとも仲良くなれたし、無事にクエストも達成できたし、一石二鳥だね!」
「宝玉もあるんだ。一石三鳥だろ」
「あっ、そっか。ごめんごめん」

 アキラは頭を掻いた。
 兎にも角にもこれで下山できると安堵して、早速手に入れた柴をお爺さんのところに持って行くことにした。


 アキラたちはスタットの噴水広場にやって来た。
 お爺さんの姿を必死に探し、ベンチに座っているところを見つける。
 噴水をジッと見ていて、ぼーっとしていた。

「お爺さん!」
「おお、お嬢ちゃんか。すまんのー、こんな年寄りのために」
「そんなことないですよ。それより見てください、こんなに手に入ったんです! 凄いですよね?」

 アキラはこれで良いのか尋ねた。
 するとお爺さんは驚いた様子で、アキラたちに言った。

「まさか本当にトレントディアの角を持ってくるとはの。しかもこんなにたくさん、宝玉も付けて」

 トレントディアの角には宝玉が付いたままだった。
 Nightは取るべきだと言ったが、アキラが首を縦に振らなかったのだ。

「宝玉も全部プレゼントします」
「良いのか? こんな良いものを」
「はい!」

 アキラとフェルノがにこにこ笑顔なのに対して、Nightは「徳溜めか」とぼやいていた。
 しかしそこまで気にしているわけでもないので、いつもの物調面に戻った。

「そうかそうか。それはすまんかったの、大変じゃっただろ?」
「ま、まあ大変でした。だけどすっごく楽しかったです!」
「楽しかったのか?」
「はい。トレントディアとも仲良くなれて、私はすっごく嬉しかったんです。スキルは手に入らなかったけど……」

 今回は新しいスキルは手に入らなかった。
 だけど代わりに素敵なものを貰えたのでアキラは満足していた。
 その笑みを受けたからか、お爺さんのNPCは納得し「うむ」と相槌を入れた。

 それからポケットから何か取り出すと、アキラに手を出すように言った。

「お嬢ちゃん、手を出してくれんか?」
「手ですか? はい」
「これをお嬢ちゃんたちに」

 アキラが受け取ったのは黒い小瓶だった。
 中には液体が入っていて、ちょっと怪しかった。
 アキラは受け取ったものの眉根を寄せて表情を引き攣らせた。

「あ、あのこれは?」
「何かの役に立つといいんじゃがの」

 お爺さんはそう言うと、背負子を持って何処かへと立ち去ってしまった。
 立ち尽くすアキラは突然ポップアップした『トレントディアの角の採取』達成! の文字を見て、

「これで良いのかな?」

 と、喜ぶに喜べ切れなかった。
 それからポリポリ頬を掻き、貰った小瓶をもう一度見ていた。
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