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◇243 データ収集は大変

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 カタカタとキーを叩く音が聞こえた。
 パソコンのモニターには大量のコードが打ち込まれている。
 もちろん全て特殊なプログラムのコードで、完全に理解できるのは彼女ともう一人だけだった。

「今回のイベントはこれでいいですね。それと同時に……」

 彼女は別のモニターを見た。
 そこにはSNSで議論になっている。

 今回のクリスマスイベントは不評のようで、様々な論争が繰り広げられていた。


『今回のイベント、運営適当すぎるだろ』

『こんなの誰がやるんだ?』

『報酬の旨さと労力が割の合わん。仕事でも疲れて、何でこっちでも疲れんと行けんのか』

『今回のイベントはパスかな』

 マウスをスクロールさせていくと、そんな批判的なコメントが多数あった。
 けれどそれは想定の範囲内。
 あくまでもこれはデータを取るための実験的な企画で、むしろ想定通りで好都合だった。

 それとは反対で、今回のイベントにも好意的な反応もある。
 おおよそ半分近くだろう。
 純粋にクリスマスイベントを楽しんでくれている方や報酬に釣られている人がほとんど。
 しかも前回のイベントに参加した上位者の意見はかなりの好反応だった。


『報酬云々じゃなくて、純粋に楽しめばいい』

『もみの木を持って来るとか新しすぎるだろw』

『多分今回も実験だろうから、付き合ってやるか』

『このGAMEはみんなの行動が大事だからな。やればやるほど面白くなる』

 なかなかに良いデータが取れそうだと、彼女はニヤついた。
 そこに一人やって来る。トレイの上にマグカップを乗せ、温かいコーヒーが入っていた。

「こんな時間までお疲れ様です、社長」

 そこに現れたのはアメリカでの対談を終えたばかりの副社長の一人だった。
 社長と呼ばれた彼女の部下の中でも特に絡みが多い。
 むしろ相談を受けることが多い。

「コーヒーを淹れましたが如何しますか?」
「いただきます」

 マグカップを受け取ると、炒り立てのコーヒーの香りを嗅いだ。
 頭の中がすっきりする。それと同時に全身に温もりが走る。

「大変ですね。明日も忙しいのではありませんか?」
「それは社長のせいですよ。もう慣れましたけど……はぁ、本当は社長に変わって欲しいです」
「私は無理ですよ。そんな時間も取れませんし、今プログラムの最終確認は全て私がしているんですから」

 コーヒーを一口飲んだ。
 すると副社長の彼女は、今回のイベントがかなり不評なことを疑問視した。

「良いんですか? いくら実験データを取るためと言っても、ここまで前評判が悪かったら」
「大丈夫です。あくまでもイベントはデータを収集することが一つの目的です。それさえ得られれば後は流れに任せればいいんですよ」

 データを収集することであらゆる面で活かす。
 それがこの会社のマルチ戦略だった。

 その功績は素晴らしく今やアジア圏でその名前を知らない者はいない。
 特にインフラやエネルギー開発。自立思考型AIに関しては関心が強く、一つや二つ世界経済に影響を及ぼしたとしても誰からも文句は言われない程その功績は凄かった。
 言ってしまえば、この会社が無くなれば社会の歯車は百パーセント止まる上に、この会社を動かせるのはこの人しかいないと誰もが思っている。

 その圧倒的なカリスマ性と行動力に幾度となく救われてきたのは言うまでもない。

「私たちは社長についていきます。だから疲れた時はおっしゃってくださいね」
「ありがとうございます。ですが、今のところは必要ないかもしれませんね」
「そ、そうですか……それでは、私は失礼しますね。明日も早いですから」
「わかっていますよ。それでは気を付けてくださいね。体を冷やさないように。疲れたら休んでください」
「は、はい!」

 社長は部下に優しかった。
 けれど自分には厳しい人で、にこやかな笑みを浮かべて見送ると、すぐにモニターに目を移した。

「それにしても、やはり彼女の脳波や精神の変化は類を見ませんね。流石は彼女の娘です」

 別のウィンドウを開き、そこに映し出されたデータを見てうっとりする。
 明らかに異常な数値が確認されていた。
 それもそのはず、難しい依頼や強敵認定のモンスターにも挑み、一番根幹に関わる部分にもしっかりと触れている。

 それができていればある程度の変化は確認できるが、彼女に関わった人はもれなく成長が激しい。
 優秀な人間。そのベクトルは人によって様々だが、それでもわかることがある。

「本当、人を突き動かしてしまう人ですね。その性格は母親譲りでしょうか?」

 明るさとちょっと意味が違うカリスマ性。
 どちらも彼女だけの武器だと、にやけ顔で思っていた。
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