240 / 568
◇240 座布団3
しおりを挟む
フェルノの両拳に炎が灯った。
竜化した腕全体に炎が漫勉なく行き届き、完全に炎を纏った腕になる。
この炎は《ファイアドレイク》最大の特徴。
フェルノの種族が成せる技なのだが、今日は一段と派手に燃えていた。
「凄いフェルノ。今日はいつもよりも燃えているよ!」
「うーん、私はいつも通りやったはずなんだけど……おかしいなぁー」
「おかしい? 何がおかしいの?」
フェルノは唇を歪めていた。
如何やらこの状態は予想外だったらしく、フェルノは困惑している。
「うーん、私今日は火力落としているんだよ?」
「嘘だ! 流石に冗談きついよ」
「冗談じゃなくてマジなんだよねー。いつもよりも火力が高いのはいいんだけど、急に火力が上がるのかな?
チラッとNightに視線をやった。
Nightもいつもよりも火力が出ているフェルノに疑問を抱いていたらしく、見たところ本人に異常がないので、何か別の要因があると睨んだ。
一番可能性が高そうなそれをまずは潰させることにしたNightは、炎を纏う両腕で地面を殴らせた。
「よし、それじゃあフェルノ。早速だが、地面を叩いてくれ:
「地面を叩くの?」
「地面だ。何も考えずに周りの木の葉を巻き込んで派手にやれ!」
Nightからの要望はいつもの慎重さが欠けていた。
完全に無茶苦茶で狸に化かされているのかと一瞬考えたが、考えても仕方がないのでフェルノは拳を打ち付けて地面を殴った。
乾いた地面にひびが入り、炎が染み込む。
すると他の場所にもひびが生まれて、炎が噴き出した。
「こんなので何が変わるのかな?」
フェルノはわからない。だがNightは予想通りだったのか「ビンゴだ」と口にした。
Nightに視線をやり、何がビンゴなのかアキラは聞こうとした。
けれど次の瞬間、白い煙が爆発した。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
突然のことに驚き、とりあえず頭を低くして口元を覆った。
けれど白い煙が爆発しただけで、特に変わったことはない。
また狸に化かされたのかな? アキラはそう思ったものの、視界まで覆う白い煙はしばらくすると綺麗さっぱり消えてしまった。
ここまでものの10秒ほどで、あっさりしていた。
何が起きたのか、正確に理解できないまま元の景色が戻ってくる。
「みんな大丈夫?」
「もちろんだよ。でもさ、今の何だったのかな?」
「特に変化が生まれた訳ではないのか。謎だ。これもしようか何かか?」
Nightも首を捻る始末で、継ぎ接ぎの絆の頭脳がお手上げ状態になってしまう。
「Nightがわからないんじゃ、もう無理だよね。とりあえず、もう少し歩いてみようよ。それでダメなら、次の手段ってことで」
「あーあ、上手く行ったと思ったのに」
嘆くフェルノの肩をそっと叩き元気づけるアキラ。
しかしNightは落ち込んでいる2人を静止させた。
「2人とも待て。そこから動くな」
急に叫ばれてびっくりして立ち止まる。
何事かと思ってみていると、Nightの視線が地面を見ていた。
ちょうどアキラたちの足元に藍色の座布団の端が見えている。
「ねえ、コレってさっきも見たよね?」
「うん。この草むらの後ろっぽいね」
先程よりも断然大きな座布団に驚きつつ、草むらを貫通していることも気になる。
アキラたちは悟られないようこっそり覗いてみた。
そこには座布団の上に座る狸が一匹。背中が焼けて焦げていた。
「狸だね」
「背中焦げてるね」
「なるほどな。さっきまで私たちが歩いていた空間自体があの狸が見せていた幻覚と言うわけだ。それをフェルノの炎が焼いたことで、本体にもダメージが入って戻って来れた」
「化かしたお仕置きってことだね。もう何もしてこないもん」
座布団に座る狸、略して座布団狸は全く動いていない。
体の軸が全くズレない上に、きちんと正座までしている。
フェルノにやられて反省しているようなので、アキラたちはこれ以上何もしないことにした。
多分揶揄って遊んでいただけなので、倒すのは可哀そうだなと倫理観が働いた証拠である。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「って、ことがあったんですよ」
アキラはソウラに話し終えた。
サクランボを口に運びながらソウラを見ると、永遠にグラスを拭いていた。
「そんなことがあったのね。でも狸に化かされるなんて……狐もあるのかしら?」
「うわぁ、もう化かされるのは懲り懲りですよ」
あんな経験は二度とごめんだ。
しかも精神のパラメータがずば抜けた高いアキラがフェルノたちに釣られて幻覚を見ていたなんて、完全にGAME性を逸脱している。
机に突っ伏して溜息を吐いたアキラに、ソウラは尋ねた。
「それからアキラたちは如何したの? 帰ったの?」
「山頂に行ってみましたよ。とっても綺麗な景色でした」
あの後座布団狸から離れ、本来の道に戻ると、山頂目指して歩き始めた。
他に誰もいなくて静かだった。
さらには山頂から見た景色はかなりの絶景で、山に行ったこと自体は悪くないと感じる。
「それは良かったわね」
「はい……って言ったらいいんですかね?」
アキラとソウラで食い違った。
本当に良かったと言えるのか、正直迷ってしまうのだった。
竜化した腕全体に炎が漫勉なく行き届き、完全に炎を纏った腕になる。
この炎は《ファイアドレイク》最大の特徴。
フェルノの種族が成せる技なのだが、今日は一段と派手に燃えていた。
「凄いフェルノ。今日はいつもよりも燃えているよ!」
「うーん、私はいつも通りやったはずなんだけど……おかしいなぁー」
「おかしい? 何がおかしいの?」
フェルノは唇を歪めていた。
如何やらこの状態は予想外だったらしく、フェルノは困惑している。
「うーん、私今日は火力落としているんだよ?」
「嘘だ! 流石に冗談きついよ」
「冗談じゃなくてマジなんだよねー。いつもよりも火力が高いのはいいんだけど、急に火力が上がるのかな?
チラッとNightに視線をやった。
Nightもいつもよりも火力が出ているフェルノに疑問を抱いていたらしく、見たところ本人に異常がないので、何か別の要因があると睨んだ。
一番可能性が高そうなそれをまずは潰させることにしたNightは、炎を纏う両腕で地面を殴らせた。
「よし、それじゃあフェルノ。早速だが、地面を叩いてくれ:
「地面を叩くの?」
「地面だ。何も考えずに周りの木の葉を巻き込んで派手にやれ!」
Nightからの要望はいつもの慎重さが欠けていた。
完全に無茶苦茶で狸に化かされているのかと一瞬考えたが、考えても仕方がないのでフェルノは拳を打ち付けて地面を殴った。
乾いた地面にひびが入り、炎が染み込む。
すると他の場所にもひびが生まれて、炎が噴き出した。
「こんなので何が変わるのかな?」
フェルノはわからない。だがNightは予想通りだったのか「ビンゴだ」と口にした。
Nightに視線をやり、何がビンゴなのかアキラは聞こうとした。
けれど次の瞬間、白い煙が爆発した。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
突然のことに驚き、とりあえず頭を低くして口元を覆った。
けれど白い煙が爆発しただけで、特に変わったことはない。
また狸に化かされたのかな? アキラはそう思ったものの、視界まで覆う白い煙はしばらくすると綺麗さっぱり消えてしまった。
ここまでものの10秒ほどで、あっさりしていた。
何が起きたのか、正確に理解できないまま元の景色が戻ってくる。
「みんな大丈夫?」
「もちろんだよ。でもさ、今の何だったのかな?」
「特に変化が生まれた訳ではないのか。謎だ。これもしようか何かか?」
Nightも首を捻る始末で、継ぎ接ぎの絆の頭脳がお手上げ状態になってしまう。
「Nightがわからないんじゃ、もう無理だよね。とりあえず、もう少し歩いてみようよ。それでダメなら、次の手段ってことで」
「あーあ、上手く行ったと思ったのに」
嘆くフェルノの肩をそっと叩き元気づけるアキラ。
しかしNightは落ち込んでいる2人を静止させた。
「2人とも待て。そこから動くな」
急に叫ばれてびっくりして立ち止まる。
何事かと思ってみていると、Nightの視線が地面を見ていた。
ちょうどアキラたちの足元に藍色の座布団の端が見えている。
「ねえ、コレってさっきも見たよね?」
「うん。この草むらの後ろっぽいね」
先程よりも断然大きな座布団に驚きつつ、草むらを貫通していることも気になる。
アキラたちは悟られないようこっそり覗いてみた。
そこには座布団の上に座る狸が一匹。背中が焼けて焦げていた。
「狸だね」
「背中焦げてるね」
「なるほどな。さっきまで私たちが歩いていた空間自体があの狸が見せていた幻覚と言うわけだ。それをフェルノの炎が焼いたことで、本体にもダメージが入って戻って来れた」
「化かしたお仕置きってことだね。もう何もしてこないもん」
座布団に座る狸、略して座布団狸は全く動いていない。
体の軸が全くズレない上に、きちんと正座までしている。
フェルノにやられて反省しているようなので、アキラたちはこれ以上何もしないことにした。
多分揶揄って遊んでいただけなので、倒すのは可哀そうだなと倫理観が働いた証拠である。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「って、ことがあったんですよ」
アキラはソウラに話し終えた。
サクランボを口に運びながらソウラを見ると、永遠にグラスを拭いていた。
「そんなことがあったのね。でも狸に化かされるなんて……狐もあるのかしら?」
「うわぁ、もう化かされるのは懲り懲りですよ」
あんな経験は二度とごめんだ。
しかも精神のパラメータがずば抜けた高いアキラがフェルノたちに釣られて幻覚を見ていたなんて、完全にGAME性を逸脱している。
机に突っ伏して溜息を吐いたアキラに、ソウラは尋ねた。
「それからアキラたちは如何したの? 帰ったの?」
「山頂に行ってみましたよ。とっても綺麗な景色でした」
あの後座布団狸から離れ、本来の道に戻ると、山頂目指して歩き始めた。
他に誰もいなくて静かだった。
さらには山頂から見た景色はかなりの絶景で、山に行ったこと自体は悪くないと感じる。
「それは良かったわね」
「はい……って言ったらいいんですかね?」
アキラとソウラで食い違った。
本当に良かったと言えるのか、正直迷ってしまうのだった。
0
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜
雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。
剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。
このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。
これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は
「このゲームをやれば沢山寝れる!!」
と言いこのゲームを始める。
ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。
「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」
何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は
「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」
武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!!
..........寝ながら。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
俺の召喚獣だけレベルアップする
摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話
主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った
しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった
それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する
そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった
この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉
神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく……
※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!!
内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません?
https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる