上 下
228 / 575

◇228 VS氷牙4

しおりを挟む
 フェルノが氷の牙を握りしめ、アイスシェードンを逃げられなくした。
 ギシギシと軋む音を立て、アイスシェードンは目障りに思い、脱出を試みている。
 しかしフェルノから逃げることはできず、ましてや牙が折れるわけでもなかった。

「どおどお。そんなに放してほしい?」

 フェルノは安全な位置取りで牙を折ろうと試みている。
 けれどアイスシェードンの最大の特徴である鋭くて長い氷の牙はまるでびくともしなかった。
 そのためフェルノは作戦を変える。
 アキラとNightの位置関係を把握すると、にやりと笑みを浮かべる。

「アキラ、Night。2人とも準備して」
「何をするの?」
「もちろんこの牙をへし折るんだよ。ただ私が抑え込んでいるとね、炎がまともにだ冴えないの。だから一瞬だけ時間を作るから、全力で機動力を削いでほしいんだ」

 フェルノからの要望は勝利への最短距離の一つだった。
 もちろん誰も嫌がる様子はない。
 アキラとNightがいつでも仕掛けられるように準備を終えるのを待ってから、フェルノはアイスシェードンの牙をフッと放した。

「よっと」

 急に力が反転した。
 拮抗きっこうし合っていた力の押し合いをフェルノが力を抜いたことで、アイスシェードンだけが後ろに吹き飛ぶ。
 体が宙に浮き、体勢が若干くの字に折れている。
 
 一瞬の思考停止。流石にモンスターでも理解できないようで、攻撃して来る様子はない。
 けれどフェルノ本人には攻撃する気が満々で、両手を解放された瞬間に、右アッパーで顎を破壊した。

「そりゃぁ!」

 バコーン! と硬いものが砕けるような鈍い音がした。
 アイスシェードンは突然の攻撃に目を見開き、我に返って前脚で引っ掻こうとする。

「させないよ!」
「当たり前だ。このチャンスを逃すか」

 アキラはアイスシェードンの左脇腹に右ストレートを叩き込んだ。
 【甲蟲】で武装した拳はしっかりと芯を貫いたようで、アイスシェードンは口から唾液を吐き出す。
 けれど休ませる気がないNightは間髪入れずに十字架状の剣を振り下ろした。
 自分の身の丈とほぼ同じ長さの剣がアイスシェードンを襲う。

「グガァゥ!」
「その程度の威嚇で怯むと思うなよ」

 スキルでもないただの威嚇にNightはまるで怯まない。
 十字架状の剣がアイスシェードンの頭蓋骨を粉砕しようとした瞬間、体を捻り何とかかわす。
 だけどかわすのが精一杯だったらしく、アイスシェードンは自分の吐いた唾液に滑って転んだ。

「グガァァァァァァァァァァ!」
「いくら叫んでも無駄だよ。このままその牙をへし折って、攻撃力と戦意を大幅ダウンしちゃうよー」
「こ、怖いこと言ってる」

 フェルノは竜化した拳をかち合わせた。
 炎が火花を散らして広がり、ボワッとアイスシェードンを威圧する。

「あれ? 威圧しているのに、全然ビビってくれない」
「如何やらまだ自分に勝機があるみたいだな。となると、気を付けるべきは……」

 Nightが不穏な言葉を口にする。
 アキラもまだ終わりじゃないと思いつつも、フェルノの側で待機した。
 けれどNightの嫌な予感が当たってしまう。
 アイスシェードンが今度は威圧に負けないぐらい吠えだした。

「グラウァァァァァァァァァァ! ガウッ!」

 その瞬間、アイスシェードンの尻尾が上がった。
 しかもただ上がるのではなく、吠えると同時に青白い毛がどんどん凍り付いていく。
 まるで鋭い氷の槍のようで、フェルノ目掛けて突いた。

「ちょっと、そんな技もあるの!」

 フェルノはギリギリで避けると、アイスシェードンの連続尻尾突きをかわし続ける。
 空気を震わせ、氷を纏った尻尾が襲う中、フェルノも下がりっぱなしではない。

「もう、いい加減にして欲しいなー。そりゃぁ!」

 思いっきり右ストレートを打ち込んだ。
 炎が微かに出ていて、氷を溶かそうとしている。
 拳が擦れた瞬間、氷の破片が飛び散った。

「氷の破片で攻撃してくれるんだ。結構面白いことしてくるねー」
「楽しんでいる場合か。真面目にやれ、フェルノ」
「はいはい。それじゃあ……えっ?」
「あ、アイスシェードンの体に砕けた氷の破片が纏わりついてる?」

 アキラは首を捻った。
 フェルノの動きが止まり、アイスシェードンを見やると、尻尾の槍を破壊され砕けた氷の破片が青白い体毛に纏わりついていた。

 一体何の意味があるのか。
 単純に防御力を上げた訳ではなく、アイスシェードンは四肢を氷の床に固定すると、ジリジリと喉を鳴らす。
 足下から氷が自分の体を伝い、纏わりついていた氷の破片を強化する。
 槍状にしていた尻尾を失った代わりに、今度は全身に鋭い剣鎧を纏ったらしい。

「よ、鎧なんてズルって!」
「ズルいなんてものじゃない。これは……」

 Nightが氷の床に手を添えた。
 アイスシェードンが右後ろ脚を使って加速を付けていた。
 如何やら突っ込んで来るみたいで、アキラとフェルノも構えるが、アイスシェードンが飛び出す3秒前にNightが叫ぶ。

「2人とも、私の後ろに来い!」
「「えっ!?」」

 2人は一瞬理解が追い付かなかった。
 アイスシェードンが凄まじい速さで体当たりして来て、破裂音のような空気を振動させる音が響くだけだった。

「まるで鉄砲玉だな」
「あ、危なかった。Nightが防御してなかったら」

 けれどアイスシェードンの渾身の体当たりは2人を仕留めるには至らなかった。
 無駄な突進で終わったものの、アキラたちはアイスシェードンの多様な技の数々に恐れを抱いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...