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◇212 新しいイベント
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カチカチとオフィスに響くキーを叩く音。
コーヒーの入ったマグカップを傍らに、女性が1人無表情で作業をしていた。
青白く光るディスプレイには大量のコードが打ち込まれている。
その横にはもう2つパソコンのディスプレイが置かれ、1つには見たこともない特殊な言語が書かれている一方で、もう1つのディスプレイには大量のサンプルとバイタルが表示されていた。
「ふぅ。これでイベントの準備は終わりましたね」
「何やっているんですか、社長!」
そこにやって来たのは女性が1人。
けれど社長と呼ばれた彼女は何一つ表情を崩すことはなく、キーを打ち込んでいく。
「何と言われましても、プログラムの最終チェックですよ」
「そういう業務は他の方に任せてください。それに私だっているんですよ」
「心強いですね。ですが、貴女もここにいられる時間はそう長くないでしょう? 明日にはアメリカに着いていなければいけないはずですよね?」
「そ、それは……はぁ。何で私なんですか?」
「それが一番丸く収まるからです。貴女も皆さんもとても信頼しているんですよ」
表情には出ていないが、これは本音だった。
彼女はみんなを信頼している。だからこそ、こんな実験的なことができる。
もちろん安全性も高いのだが、そんな彼女を影ながら支えているのが彼女たち。
カリスマ性に惹かれ集った頼もしい面々だった。
「本当に変わりませんね。それで社長、今回はどんなイベントなんですか?」
「今回のイベントは少し実験的です」
「実験的ですか? ふへっ! 社長、このイベントって……」
「変わっているでしょ。趣向を凝らしてみたんです。定期的に開催して、バイタルを計測できれば良いのですがね」
オフィスでコーヒーを飲みながら、彼女は笑みを浮かべる。
その笑みは可能性を期待しているような表情だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
明輝と烈火は、買うものがあったのでたまたま駅の方に来ていた。
するとそこにいたのは迎えを待っている様子の蒼伊だった。
「あっ、蒼伊!」
「ん? 何だお前たちか」
文庫本片手に明輝たちを見つけると、本を閉じて立ち上がった。
それから話を切り出す。
「丁度いい。少し時間はあるか?」
「「えっ?」」
突然の蒼伊からの誘う。非常に珍しいので、もちろん2人は乗っかった。
近くのファミレスに入ると、禁煙席に腰かけドリンクバーを頼むと、スマホを取り出した。
「お前たちも知っているよね。今回のイベント」
「うん。久しぶりに来たちゃんとしたイベントだよね?」
「そうだねー。アレってかなり初期だっけ?」
2人が覚えているのは雷斬と初めて出会った時のこと。
あれからすっかり時間が経っていて、イベントはもうないのかと思っていた。
とは言え、イベントが無くても楽しいことは多いから不満ではない。
最近は定期的にアップデートが来ている影響もあってか、満足度もかなり高かった。
そこに突然やって来たイベント。
しかも他のGAMEで聞いたこともないような、斬新なアイデアだった。
「今回のイベント。私は遠慮したい」
「「えっ!?」」
突然の蒼伊からの宣告に2人は動揺した。
何が不満なのかと聞いてみようとしたが、先に答えられる。
「理由は二つ。一つは人数の問題。そしてもう一つは、この一文」
蒼伊は公式HPから今回のイベントの詳細が書かれているリンクをタップした。
スクロールして、下の方の※マークと赤字に注目する。
「これを見て何かわかるか?」
「えーっと、本イベントにつきまして参加者の脳波を常に計測しておりますことをご了承ください。って書いてあるけど?」
「それがどうかしたの? 脳波の計測はいつものことでしょ?」
2人は蒼伊に尋ねる。確かに脳波の計測は行われている。そのおかげであの世界は進化しているのだから、間違ってはいない。
けれど一つ腑に落ちないことがある。
それは赤字で書かれていることや、常にこの文脈。慎重派にとって、ここは躊躇いが現れる。
「本当にこの脳波の計測は、“この世界を成長させるためだけ”のものなのかと思ったんだ」
「えっ? それ以外に使い道があるのかな?」
「もしかして、現実世界のものが良くなるとかー?」
「私もそれは考えた。だが、それだけのためにわざわざこんなイベントを用意するのか?」
蒼伊は正直信用していなかった。
新イベントと言い、この赤字と言い、ある程度の慎重派プレイヤーには意図が伝わるようにしている。
もしかしたら、“考えさせること”が狙いなのかと思ったが、蒼伊にはこれ以上は想像することが限界だった。
「まあいい。とにかく私は今回のイベントはパスだ。一旦様子見にする」
「えー。蒼伊はそれでいいの?」
「構わない。それにこの新イベントはまた来るだろ。私はその時で構わない」
蒼伊はメロンソーダをストローで飲みながら、明輝と烈火は放置されてしまった。
コーヒーの入ったマグカップを傍らに、女性が1人無表情で作業をしていた。
青白く光るディスプレイには大量のコードが打ち込まれている。
その横にはもう2つパソコンのディスプレイが置かれ、1つには見たこともない特殊な言語が書かれている一方で、もう1つのディスプレイには大量のサンプルとバイタルが表示されていた。
「ふぅ。これでイベントの準備は終わりましたね」
「何やっているんですか、社長!」
そこにやって来たのは女性が1人。
けれど社長と呼ばれた彼女は何一つ表情を崩すことはなく、キーを打ち込んでいく。
「何と言われましても、プログラムの最終チェックですよ」
「そういう業務は他の方に任せてください。それに私だっているんですよ」
「心強いですね。ですが、貴女もここにいられる時間はそう長くないでしょう? 明日にはアメリカに着いていなければいけないはずですよね?」
「そ、それは……はぁ。何で私なんですか?」
「それが一番丸く収まるからです。貴女も皆さんもとても信頼しているんですよ」
表情には出ていないが、これは本音だった。
彼女はみんなを信頼している。だからこそ、こんな実験的なことができる。
もちろん安全性も高いのだが、そんな彼女を影ながら支えているのが彼女たち。
カリスマ性に惹かれ集った頼もしい面々だった。
「本当に変わりませんね。それで社長、今回はどんなイベントなんですか?」
「今回のイベントは少し実験的です」
「実験的ですか? ふへっ! 社長、このイベントって……」
「変わっているでしょ。趣向を凝らしてみたんです。定期的に開催して、バイタルを計測できれば良いのですがね」
オフィスでコーヒーを飲みながら、彼女は笑みを浮かべる。
その笑みは可能性を期待しているような表情だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
明輝と烈火は、買うものがあったのでたまたま駅の方に来ていた。
するとそこにいたのは迎えを待っている様子の蒼伊だった。
「あっ、蒼伊!」
「ん? 何だお前たちか」
文庫本片手に明輝たちを見つけると、本を閉じて立ち上がった。
それから話を切り出す。
「丁度いい。少し時間はあるか?」
「「えっ?」」
突然の蒼伊からの誘う。非常に珍しいので、もちろん2人は乗っかった。
近くのファミレスに入ると、禁煙席に腰かけドリンクバーを頼むと、スマホを取り出した。
「お前たちも知っているよね。今回のイベント」
「うん。久しぶりに来たちゃんとしたイベントだよね?」
「そうだねー。アレってかなり初期だっけ?」
2人が覚えているのは雷斬と初めて出会った時のこと。
あれからすっかり時間が経っていて、イベントはもうないのかと思っていた。
とは言え、イベントが無くても楽しいことは多いから不満ではない。
最近は定期的にアップデートが来ている影響もあってか、満足度もかなり高かった。
そこに突然やって来たイベント。
しかも他のGAMEで聞いたこともないような、斬新なアイデアだった。
「今回のイベント。私は遠慮したい」
「「えっ!?」」
突然の蒼伊からの宣告に2人は動揺した。
何が不満なのかと聞いてみようとしたが、先に答えられる。
「理由は二つ。一つは人数の問題。そしてもう一つは、この一文」
蒼伊は公式HPから今回のイベントの詳細が書かれているリンクをタップした。
スクロールして、下の方の※マークと赤字に注目する。
「これを見て何かわかるか?」
「えーっと、本イベントにつきまして参加者の脳波を常に計測しておりますことをご了承ください。って書いてあるけど?」
「それがどうかしたの? 脳波の計測はいつものことでしょ?」
2人は蒼伊に尋ねる。確かに脳波の計測は行われている。そのおかげであの世界は進化しているのだから、間違ってはいない。
けれど一つ腑に落ちないことがある。
それは赤字で書かれていることや、常にこの文脈。慎重派にとって、ここは躊躇いが現れる。
「本当にこの脳波の計測は、“この世界を成長させるためだけ”のものなのかと思ったんだ」
「えっ? それ以外に使い道があるのかな?」
「もしかして、現実世界のものが良くなるとかー?」
「私もそれは考えた。だが、それだけのためにわざわざこんなイベントを用意するのか?」
蒼伊は正直信用していなかった。
新イベントと言い、この赤字と言い、ある程度の慎重派プレイヤーには意図が伝わるようにしている。
もしかしたら、“考えさせること”が狙いなのかと思ったが、蒼伊にはこれ以上は想像することが限界だった。
「まあいい。とにかく私は今回のイベントはパスだ。一旦様子見にする」
「えー。蒼伊はそれでいいの?」
「構わない。それにこの新イベントはまた来るだろ。私はその時で構わない」
蒼伊はメロンソーダをストローで飲みながら、明輝と烈火は放置されてしまった。
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