190 / 550
◇189 馬車に揺られています
しおりを挟む
ガタンゴトンガタンゴトン! ——
今アキラたちは狭い荷車の中にいた。
その先頭には1頭の馬が引いている。
一応屋根はついているが、流石に5人だと狭く感じた。
「ねえ、あれからどのくらい経ったっけ?」
アキラが気になったのでポツリと尋ねた。
するとNightが文庫本を読みながら、目も合わせずに答える。
「ざっと1時間だな」
「もう1時間も経ってたんだ。気が付かなかったよ」
Nightから腕時計を貰っていたのに、結局Nightに聞いた方が早かった。
だけどこの1時間で景色もほとんど変わらなくなっていた。
隣のフェルノは寝ているし、ベルもだんまりなので、アキラは何だか息苦しくなっていた。
そんな中、アキラは意識を切り替えることにした。自分で話を振る相手を見つける。
「雷斬は楽しそうだね」
「はい。こうして皆さんとモミジヤに行けるんです。こんなに楽しいことはありませんよ」
「本当にそう思っているのか?」
「もちろんです。フェルノさんやベルはお疲れみたいですが……」
いや、多分それは違うとアキラとNightは意見が合わさる。
まずフェルノが寝ている理由。これは単純に夜更かししたからだ。
夜中までプラモを作っていたとかで、ここの所毎日眠そうにしている。
正直アキラにはわからない世界だった。
それからベルが寝ている理由。それは単純に話に乗りたくないから寝ている。
雷斬がここのところ毎日妙にテンションが高いので、その熱気に当てられてしまったらしい。
確かに魔位置に聞いていると迷惑かもしれないが、流石に“寝たふり”は可哀そうだよ。
「まあいっか。それより、モミジヤに着いたら何するの?」
「決まってます! 温泉に入りましょう」
雷斬は勢い余ってベルの肩を叩いていた。
ベル委が一瞬目を開けたが、すぐに雷斬の仕業だとわかると、バレないうちに目を瞑る。
本当に1人になれている。やり過ごし方がプロ並みだ。
そこにいるという事実は作りつつ、あえて話の筋に乗ってこない。
ましてや自分の存在を薄っすらとだけ認識させておき、変に癇癪も起こさない高等テクニックだった。
「アイツ凄いな」
「うん、凄いね。まさかこんなやり過ごし方があるなんて……石みたい」
「岩だろ。どう考えても」
「確かに!」
本当にくだらない会話ばかりが荷車の中に飛び交っていた。
しかし話の種が尽きるのは暇な時間を持て余してしまうのと同じだ。
そこでアキラはNightと雷斬を巻き込むことにした。
「そうだ2人とも、モミジヤに行ったら温泉に入るとはして、何かモンスターとかいるのかな?」
「もちろんいるぞ。あの辺り一帯には、一般的なモンスターよりも妖怪に近いモンスターがいる」
「妖怪?」
「ああ。キツネやタヌキ、イズナやムジナ、そんなありきたりなものから、土蜘蛛、女郎蜘蛛、大蝦蟇、牛鬼、様々だ」
「蜘蛛の比率多くない?」
例えにツッコミを入れてしまった。
しかしNightはムカッとすることはなく、予想していたらしい。
「まあいい。あくまで例えだ」
「例えで蜘蛛ばっかり出したの?」
「あくまでだ。当然他にもいるぞ」
会話が弾まない。
いつも盛り上げてくれるフェルノが寝ているだけで、こんなにグダグダになるとは思わなかった。
「温泉か。そう言えば嫌な噂を聞いたな」
「そうなの?」
「ああ。だが温泉が有名な町なのは言うまでもないが本当だ。とりあえず、モミジヤに着けばわかるだろ」
Night話を切り上げると、文庫本に戻ってしまう。
流石にこのまま時間が過ぎるのをたまらない。そこで窓の景色を見てみることにした。
するとスタットの方には見慣れないようなものがたくさんある。
どうやら地域ごとに雰囲気が異なるらしい。
「凄い。何だか外が面白いよ」
「面白い? ああ、モンスターがいるな」
Nightが私に声に反応して窓の外を覗き込むと、キツネのようなモンスターが走っていた。
親子なのか仲がよそさそうで、奥の方を見ると大きなタカが空を飛んでいた。
少し離れるだけでこんなに景色も変わるなんて、今まで知らなかった。アキラは窓の向こうにくぎ付けになる。
「この辺はダンジョンじゃないからな。野良のモンスターが生息しているに過ぎない」
「そうなんだ。レベルも高いのかな?」
「どうだろうな。スタットはこの世界でも中心的な町で、少し離れたモミジヤはそこまでレベルの差がないはずだ。そもそも、モミジヤは観光地。歴史ある雰囲気と風情を楽しむ場所だ」
と言うことは移動ができるように設定したら、基本的にはスタット周辺でレベル上げをすることになるのだろうか?
確かにここ最近の強敵との連戦はくたびれたので、少しは休んでもいいかもしれない。
そこでようやくアキラは雷斬の意図していたことを理解した。
もしかしたらくたびれた私たちにリアルで遠出ができないからと、温泉に誘ってくれたのかもしれない。そう思ったのも束の間。雷斬自身が楽しそうなので、そもそも自分が入りたいらしい。
考えることも無くなったまま、アキラたちはそれから後3時間ガチで揺られるのだった。
今アキラたちは狭い荷車の中にいた。
その先頭には1頭の馬が引いている。
一応屋根はついているが、流石に5人だと狭く感じた。
「ねえ、あれからどのくらい経ったっけ?」
アキラが気になったのでポツリと尋ねた。
するとNightが文庫本を読みながら、目も合わせずに答える。
「ざっと1時間だな」
「もう1時間も経ってたんだ。気が付かなかったよ」
Nightから腕時計を貰っていたのに、結局Nightに聞いた方が早かった。
だけどこの1時間で景色もほとんど変わらなくなっていた。
隣のフェルノは寝ているし、ベルもだんまりなので、アキラは何だか息苦しくなっていた。
そんな中、アキラは意識を切り替えることにした。自分で話を振る相手を見つける。
「雷斬は楽しそうだね」
「はい。こうして皆さんとモミジヤに行けるんです。こんなに楽しいことはありませんよ」
「本当にそう思っているのか?」
「もちろんです。フェルノさんやベルはお疲れみたいですが……」
いや、多分それは違うとアキラとNightは意見が合わさる。
まずフェルノが寝ている理由。これは単純に夜更かししたからだ。
夜中までプラモを作っていたとかで、ここの所毎日眠そうにしている。
正直アキラにはわからない世界だった。
それからベルが寝ている理由。それは単純に話に乗りたくないから寝ている。
雷斬がここのところ毎日妙にテンションが高いので、その熱気に当てられてしまったらしい。
確かに魔位置に聞いていると迷惑かもしれないが、流石に“寝たふり”は可哀そうだよ。
「まあいっか。それより、モミジヤに着いたら何するの?」
「決まってます! 温泉に入りましょう」
雷斬は勢い余ってベルの肩を叩いていた。
ベル委が一瞬目を開けたが、すぐに雷斬の仕業だとわかると、バレないうちに目を瞑る。
本当に1人になれている。やり過ごし方がプロ並みだ。
そこにいるという事実は作りつつ、あえて話の筋に乗ってこない。
ましてや自分の存在を薄っすらとだけ認識させておき、変に癇癪も起こさない高等テクニックだった。
「アイツ凄いな」
「うん、凄いね。まさかこんなやり過ごし方があるなんて……石みたい」
「岩だろ。どう考えても」
「確かに!」
本当にくだらない会話ばかりが荷車の中に飛び交っていた。
しかし話の種が尽きるのは暇な時間を持て余してしまうのと同じだ。
そこでアキラはNightと雷斬を巻き込むことにした。
「そうだ2人とも、モミジヤに行ったら温泉に入るとはして、何かモンスターとかいるのかな?」
「もちろんいるぞ。あの辺り一帯には、一般的なモンスターよりも妖怪に近いモンスターがいる」
「妖怪?」
「ああ。キツネやタヌキ、イズナやムジナ、そんなありきたりなものから、土蜘蛛、女郎蜘蛛、大蝦蟇、牛鬼、様々だ」
「蜘蛛の比率多くない?」
例えにツッコミを入れてしまった。
しかしNightはムカッとすることはなく、予想していたらしい。
「まあいい。あくまで例えだ」
「例えで蜘蛛ばっかり出したの?」
「あくまでだ。当然他にもいるぞ」
会話が弾まない。
いつも盛り上げてくれるフェルノが寝ているだけで、こんなにグダグダになるとは思わなかった。
「温泉か。そう言えば嫌な噂を聞いたな」
「そうなの?」
「ああ。だが温泉が有名な町なのは言うまでもないが本当だ。とりあえず、モミジヤに着けばわかるだろ」
Night話を切り上げると、文庫本に戻ってしまう。
流石にこのまま時間が過ぎるのをたまらない。そこで窓の景色を見てみることにした。
するとスタットの方には見慣れないようなものがたくさんある。
どうやら地域ごとに雰囲気が異なるらしい。
「凄い。何だか外が面白いよ」
「面白い? ああ、モンスターがいるな」
Nightが私に声に反応して窓の外を覗き込むと、キツネのようなモンスターが走っていた。
親子なのか仲がよそさそうで、奥の方を見ると大きなタカが空を飛んでいた。
少し離れるだけでこんなに景色も変わるなんて、今まで知らなかった。アキラは窓の向こうにくぎ付けになる。
「この辺はダンジョンじゃないからな。野良のモンスターが生息しているに過ぎない」
「そうなんだ。レベルも高いのかな?」
「どうだろうな。スタットはこの世界でも中心的な町で、少し離れたモミジヤはそこまでレベルの差がないはずだ。そもそも、モミジヤは観光地。歴史ある雰囲気と風情を楽しむ場所だ」
と言うことは移動ができるように設定したら、基本的にはスタット周辺でレベル上げをすることになるのだろうか?
確かにここ最近の強敵との連戦はくたびれたので、少しは休んでもいいかもしれない。
そこでようやくアキラは雷斬の意図していたことを理解した。
もしかしたらくたびれた私たちにリアルで遠出ができないからと、温泉に誘ってくれたのかもしれない。そう思ったのも束の間。雷斬自身が楽しそうなので、そもそも自分が入りたいらしい。
考えることも無くなったまま、アキラたちはそれから後3時間ガチで揺られるのだった。
0
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説
そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?
新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
「メジャー・インフラトン」序章5/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 JUMP! JUMP! JUMP! No2.
あおっち
SF
海を埋め尽くすAXISの艦隊。
飽和攻撃が始まる台湾、金門県。
海岸の空を埋め尽くすAXISの巨大なロボ、HARMARの大群。
同時に始まる苫小牧市へ着上陸作戦。
苫小牧市を守るシーラス防衛軍。
そこで、先に上陸した砲撃部隊の砲弾が千歳市を襲った!
SF大河小説の前章譚、第5部作。
是非ご覧ください。
※加筆や修正が予告なしにあります。
移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる
みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」
濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い
「あー、薪があればな」
と思ったら
薪が出てきた。
「はい?……火があればな」
薪に火がついた。
「うわ!?」
どういうことだ?
どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。
これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。
スマホ依存症な俺は異世界でもスマホを手放せないようです
寝転ぶ芝犬
ファンタジー
スマホ大好きなこの俺、関谷道長はある日いつものように新しいアプリを探していると何やら怪しいアプリを見つけた。早速面白そうなのでDLして遊ぼうとしてみるといつの間にか異世界へと飛ばされていた!
ちょっと待てなんなんだここは!しかも俺のスマホのデータ全部消えてる!嘘だろ俺の廃課金データが!!けどこのスマホなんかすごい!けど課金要素多すぎ!!ツッコミどころ多すぎだろ!
こんなことから始まる俺の冒険。いや、宿にこもってスマホばっかりいじっているから冒険してないや。異世界で俺強え無双?いや、身体能力そのままだから剣もまともに振れませんけど。産業革命で超金持ち?いや、スマホの課金要素多すぎてすぐに金欠なんですけど。俺のすごいところってただすごいスマホ持っているだけのような…あれ?俺の価値なくね?
現在、小説家になろうで連載中です。
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜
エル
BL
(2024.6.19 完結)
両親と離れ一人孤独だった慶太。
容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。
高校で出会った彼等は惹かれあう。
「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」
甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。
そんな恋物語。
浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。
*1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。
婚約破棄されまして(笑)
竹本 芳生
恋愛
1・2・3巻店頭に無くても書店取り寄せ可能です!
(∩´∀`∩)
コミカライズ1巻も買って下さると嬉しいです!
(∩´∀`∩)
イラストレーターさん、漫画家さん、担当さん、ありがとうございます!
ご令嬢が婚約破棄される話。
そして破棄されてからの話。
ふんわり設定で見切り発車!書き始めて数行でキャラが勝手に動き出して止まらない。作者と言う名の字書きが書く、どこに向かってるんだ?とキャラに問えば愛の物語と言われ恋愛カテゴリーに居続ける。そんなお話。
飯テロとカワイコちゃん達だらけでたまに恋愛モードが降ってくる。
そんなワチャワチャしたお話し。な筈!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる