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◇191 血っ手紅葉

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 高台にやって来たアキラたちは広がる巨大な赤の天井に凌駕されていた。

「な、何これ!」
「すっごい。こんな真っ赤な天井、私見たことないよ!」

 アキラとフェルノはまるで子供のようにはしゃいでいた。
 近くで見るとその規模は圧倒的で、頭上は完全に覆われている。
 その全ては1本の幹から生えるたくさんの紅葉の紅葉が原因で、地面に歯真っ赤な銃弾が敷かれてていた。
 上下で真っ赤なその光景は不思議と二つの色を魅せる。

 1つは煌々とした赤の世界に歓喜するもの。
 これは単純に赤が好きだとか、綺麗だとか、圧巻だとか、そんな有象無象の考えでしかない。
 それもそのはず、パンフレットには大々的に取り上げられており、この街一番の観光スポットとなっている。
 しかし名前の物騒さ故に、どことなく距離が取られていた。
 それだけ嫌悪もされやすいということに他ならない。

 もう1つ。これは恐怖だ。
 上下左右が真っ赤な世界に支配され、あまりの赤々しさにおどろおどろしさまで感じてしまう。
 ベルとNightは気が気でない状態で、体をさすっていた。
 確かに赤い世界は人の目を惹きつけるが、同時に心の奥底に強く引っかかりもする。

「流石に圧巻だな。これだけの景色、相当な年月がかかったとみていい」
「そもそもの話、1本の幹からこれだけの紅葉ってありえるのかしらね?」
「リアルでは考えられないな。この世界だけに存在する、千年紅葉とでもいうべきか……何とも、壮観だ」

 この雰囲気が京都モチーフのモミジヤの風情にマッチしていた。
 特に目を奪われている雷斬は落ちてくる紅葉相手にジッと視線を釘づけにされている。

「何してるのよ、雷斬」
「すみません。少し抜刀術の練習です」
「抜刀って、刀抜いてないじゃない。まあ抜いちゃダメなんだけどね」

 あくまでイメージトレーニングのようだった。
 まさかここに来て3つ目の意識があるとは思わないNightはやはりこのギルドメンバーは普通じゃないとはっきりした。

「それにしても不思議だ」
「何が不思議なの?」
「……いや、お前が一番不思議だったな」
「いやいや、そういうのいいよ。それで何が不思議なの?」

 アキラはNightに質問した。
 するとNightは紅葉を見ながら何気なく口にする。

「確かに血のようには見える。だがそれはどこの紅葉も同じだ。例えば、この紅葉のモチーフが実際に滋賀県にある金剛輪寺の血染め紅葉だと仮定して、関西圏全体がモチーフの範囲だとしよう。しかし、実際問題個々の紅葉は不思議だ」
「不思議って?」
「ニオイだ。気が付かないのか?」
「ニオイ……えっ!?」

 アキラは落ちていた紅葉の葉っぱを拾ってみた。
 すると嗅いだことはあるけど、全然嬉しくないニオイだた。

「これって、血のニオイ?」
「そうだな。これがこの血っ手紅葉の性質だ」

 アキラは絶句してしまった。
 こんなに綺麗な紅葉の名前の由来がわかったとはいえ、流石にこんな場所に長居はできない。本能がそう囁いていて、足がすくむ前に踵を返していた。

「どこに行く気だ」
「ちょっと気分悪くなっちゃった」
「そうだな。こんなところに長居する気はない。それに気が付ける奴の方が十分人間としては正直だ」

 ここにいる人たちはそのことに気が付いていない。
 自分が既に血のニオイに昂っていて、ドロドロとしたものが腹の内側から煮えたぎっていることに意識が回っていない。
 しかしアキラとNightは非常に冷静だった。
 冷静にこの場所が良くないと理解していて、頭の片隅で嫌悪感を示していた。

「流石に帰る案には賛成だ。しかしフェルノが……」
「帰るの? それじゃあ帰ろっか」
「「あっ、コイツはこういう奴だった」」

 アキラとNightはフェルノのあまりの切り替えの速さに驚いてしまった。
 しかしすぐにベルと雷斬もフェルノに強く腕を引っ張ってしまったので、そのまま帰ることになった。

「そう言えばここにいる人たちって、みんなプレイヤーだよね?」
「そうだな。この紅葉の空気に飲まれたらしい」
「紅葉の空気ですか?」
「そうだ。気が付かなかったのか?」
「何のことでしょうか?」
「血のニオイでしょ? パンフレットに書いてあったわね」

 雷斬はイメージトレーニングに夢中で全く気が付いておらず、ベルは気づいていたが普通に過ごしていたらしい。
 しかし雷斬はそんなこと知らなかったので、周りにいるプレイヤーたちのことを気にした。

「では、彼らは皆この紅葉のニオイに当てられてしまって……」
「まあそうだろうな。だが、私たちが気にしても仕方がない。それに心配ならあっちを見てみろ」

 Nightは雷斬の心配もそよそに、指を差していた。
 そこにいたのは男女のカップルだった。アキラたちには全く縁のない光景に、ジト目になってあんぐりと口を開けていた。

「アレは別種だ。くだらない」
「そうだね。私たちには縁もないよね」
「だよねー、ああいうの見ると何かうんざりするよねー」
「皆さん、そんなことを言ってはいけませんよ。見ないようにしましょう」

 アキラたちは一目散に退散するのだった。
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