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◇163 ポイズンネーク

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 アキラたちは毒沼を目指してさらに歩みを進めた。
 なかなか思うように進まず、事態は膠着しつつあった。
 と言うのも他ならない毒系モンスターの多さから、アキラ以外の仲間の動きが制限されてしまっていた。

「くそっ、マントがないと寒いな」
「でもマント羽織ってないNightって珍しいよね」
「そうよね。いつも黒マント一色で、全身黒いものね」
「髪も格好も真っ黒で、夜の田園とかで見かけたら絶対腰抜かすよ!」
「おい、私は気にしないがそれは悪口だぞ」
「ごめんごめん。でも新鮮だなーって思ったんだ」

 アキラは笑いながら謝る。
 Nightは眉根を寄せて、「絶対に謝ってないな」と疑うような眼差しを送る。
 けれどアキラには全く届かず、大きな溜息を吐いて流してしまった。
 それからメモを持っているアキラに尋ねる。

「それでアキラ。残りどのくらいだ」
「800メートルぐらいだよ」
「なるほどまだそこそこあるな。しかもこの先は……」

 アキラが足を止めた。
 目の前は明らかに人が通れるような場所ではない。
 ドロドロとした茶色の地面が気泡を上げていた。
 触れてみようとしたが、Nightが腕を抑えてアキラを引き止める。

「無理だ、やめておけ」
「そうだね。ここは通れないもんね」

 これこそが大きな原因だった。
 3人の冒険を邪魔する正体は自然のトラップ。もちろんただの罠ではない。
 一度触れれば抜け出せないような底が深いものとなっている。

 底なし沼はこの湿地帯のどこにでも存在している。

「ここもなの。メモ書きがなかったら危なかったわね」
「そうだね。ソウラさんたち、かなり調べ上げていたのかも」
「その可能性は大いにあるな。これだけ事細かに詳細が掛かれたメモだ。この湿地帯攻略には必須だろう」
「凄い。凄すぎるよ、ソウラさんたち!」

 Night曰くここまで詳細なメモは見たことはないそうだ。
 もちろんネットの攻略サイトを探したり掲示板を覗けば多少は書いてあるだろう。
 だが、丁寧に底なし沼の場所まで全部記してあるのは珍しい。
 よっぽど調査をして、よっぽど罠にかかったんだ。まさに死にゲーである。

「とは言え、そんな大事なメモを手帳サイズの紙切れ1枚にまとめるのはどうかと思うけど……まあいっか」
「同じ意見だ。とは言えこれだけ貴重な代物だ。丁寧に進むぞ」
「死にたくないものね」
「当たり前だ。死んだらそこで終わりだと思った方がいい」

 アキラはズバリと言い切るNightに感銘を受けた。とっても、何となくだが。

「じゃあNightは死にゲーって言うのはやらないんだ」
「もちろんやるぞ。死にゲーは面白いからな」
「面白いんだ」
「攻略方法の糸口を発見でき、人によって攻略が違うのが面白い。おまけに時間も余らせないからな」

 完全に効率重視だった。
 とは言え慎重に、この1回を大事にしている。
 その感覚がひしひしと伝わってきて、アキラは頬を緩ませた。

「気色悪い笑みを浮かべるな」
「気色悪いって酷いよ! もう、後ろは君が悪い森だし」
「アキラストップだ。何かいるぞ」
「えっ!? うわぁ!」

 アキラは飛び跳ねて避ける。Nightにゴツンとぶつかり、2人して泥だらけになる。

「おい、ぶつかって来るな!」
「ごめんごめん。でもNightが悪いんだよ」

 悪いのは明らかにアキラだ。ベルはわかっていたが、アキラが驚いたのも無理はない。
 木の枝に巻き付いていたのは、1匹のヘビだった。頭に5枚の花弁が付いている。毒々しい濃いピンク色をしていた。

「ポイズンネークだな。寝ているようだが、危険なモンスターだ」
「そうだったんだ。じゃあ避けて行こっか」
「その前にぶつかったことを謝れ」
「ごめんごめん。でも、Nightも悪いよ」
「悪い? 私は教えてやっただろ」
「体幹がないことだよ」
「ぐはっ!」

 どうやら痛いところを突いてしまったらしい。
 けれどNightも引き下がらない。
 その様子を見ていたベルは溜息を吐いた。

 このままやっていてもいつもの事で埒が明かない。
 そこでベルは2人を無理矢理引っ張ることにした。

「はい、2人とも行くわよ」
「うわぁ、ちょっと痛い痛い!」
「首が締まる……ぐはっ……」

 2人は首を抑えていた。
 襟を掴まれているNightは元気がなくなり、腕を引っ張られるアキラは痛くて仕方なかった。

「Night大丈夫!」
「あっ、あああ……」
「白目になってる! ベル、ストップストップ!」

 アキラはベルから解放された。
 どうやらベルにも考えがあったらしい。

「どうしてこんな無茶したの!」
「あのまま喧嘩をしていても、いつポイズンネークが起きるかわからないじゃない起きた瞬間に襲われても仕方ないわよ」
「あっ、そっか。ごめん、でも喧嘩はしてないよ」
「傍から見たら痴話喧嘩よね」
「痴話喧嘩ならいいでしょ!」

 それからアキラたちはNightが起きるのを待った。
 一瞬目を開けた時、「ここは何処だ?」と困惑していたが全身が泥だらけになっていたので、すぐに理解した。
 頬をぷくって膨らませ、気分が害されたらしい。

「何でこうなったんだ?」
「それは知らない方がいいわね」

 ベルは自分で隠した。
 ちなみに特に何もなく、ドロドロの地面に横にしただけだ。
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